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Dragon Night  作者: -満月-
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18/19

後日談 クロの休日

 ドラゴン討伐から一年。

 争う理由を失った帝国と連合国は停戦協定を結び、長く続いた戦争にも終止符が打たれた。

 今日は珍しく非番だ。母との昼食を終え、クロは街並みをゆっくりと歩いていた。以前なら顔を合わせるたびにぎこちなかった親子関係も、少しずつ修復されつつある。


「また来なさいね」


 別れ際にそう微笑んだ母の姿を思い出し、クロは小さく息を吐いた。

 悪くない休日だ。

 世界から失われていた色彩は戻り、人々の表情にも以前のような明るさが宿っている。帝国と連合国が同盟を結んだことで、最近では合同演習や技術交流も始まった。建前は友好と交流のためだが、実際のところは互いを監視し、二度と戦争を起こさないための取り決めである。


 もっとも、平和になった今だからこその悩みも生まれた。

(あいつが、やたら絡んでくるようになった……)

 

 連合国軍、オスカー・アルディス。

 実力を認めてくれるのは素直に嬉しい。

 

 だが、


『クロ! 見てくれ、うちの愛娘だ! 可愛いだろ〜!』

『報告書? そんなの後でいいんだよ』

『命中率を上げるコツ? そんなのキュッとして、バーンって撃てばいいんだよ』


(……何というか、適当すぎる)

 父様なら、もっとこう―

 いや―比べるのはやめよう。父様が可哀想だ。


 それに最近では、

『これ、リゼちゃんに渡しといてくれる?ベルデンで流行ってるお菓子らしいんだ』

 軍に帰還後、彼女にそれを渡した瞬間、甘いもの好きのリゼは目を宝石のように輝かせた。こうして同期は、すっかり手懐けられてしまった。


 そんなことを思い返していると、不意に見覚えのある後ろ姿が目に入った。

 街角のテラス席。巨大ないちごパフェを前に、幸せそうな笑みを浮かべる少女。


「リゼ」


 名前を呼ぶと、彼女はこちらを振り向いた。


「あっ、クロ」


 口元にクリームをつけたまま、こちらにスプーンを差し出してきた。


「一口、食べる?」

「いや、見ているだけで十分だ」


 手を軽く振って断ると、リゼは少しだけ残念そうな顔をしたあと、


「そう……」


 と言って、自分でぱくりと頬張った。


「お母さんのところに行ってたの?」

「ああ。なんだかんだ言っても、一人は寂しいんだろう」

「優しいね」


 そう言いながら、また一口。さらにもう一口。

 見ているだけで胸焼けしそうだ。


「じゃあ、俺はもう行くよ。あまり、食べ過ぎるなよ。機体が重くなる」

「大丈夫。その分ちゃんと走るから」


 なぜか胸を張って答えるリゼ。


 そして―

 ぱくっ

 ぱくっ

 ぱくっ

 

 生クリームをまとったいちごを三粒、立て続けに口へ放り込んだ。

 クロは肩をすくめ、小さく笑った。


 彼女と別れ、クロは再び歩き始めた。色を取り戻した世界は美しい。

 花壇には鮮やかな花が咲き、人々は笑顔で行き交い、子どもたちの笑い声が風に乗って聞こえてくる。

 そんな景色を眺めながら、ふと思う。

 結局、あのドラゴンは何だったのだろう。そして、あの少女―リリーは一体。

 

 あの事件後の軍会議は当然のように揉めた。

 現場を見ていない上層部にドラゴンの存在を説明しても、まともに信じてもらえるはずがない。色彩消失の原因も、結局は解明されないまま歴史の闇へ葬られた。


「そういえば……」


 あの男―おかしなことを言っていたな。

 魔法がどうとか。


「……まったく」


 思わず苦笑する。


「バカバカしい。あの男の言うことを真に受けるのはやめよう」


 平和な街に吹く穏やかな風を受けながら、クロは静かに歩き続けた。

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