番外編④ リリーが目覚めた日
―まぶしい。
まだ眠っていたいのに、強い光がまぶたを突き刺す。
「ん……」
ゆっくりと目を開けると、そこは見覚えのない街中だった。
「ここ……どこ?」
並ぶ建物も、人々の服装も、どれ一つとして見覚えがない。
戸惑いながら街を歩いていると、突然、轟音が響いた。思わず空を見上げる。
そこには巨大な鉄の塊が翼を広げ、空を飛んでいた。
「な、なにあれ!?」
近くにいた男性へ駆け、
「ねぇ!あの空を飛んでるのは、なに?」
「ん? どれだい?」
「あれよ!あの黄色い物体の―」
男は不思議そうな顔をしたあと、吹き出した。
「あっはっはっ、お嬢ちゃん、おじさんをからかってるのかい?
色なんて分かるわけないだろう。みんな白黒なんだから」
「……え?」
——————
そしてそのあと、私は必死に情報を集めた。
そして分かったことは二つ。
一つ。この世界では二十年ほど前、突如として色彩が失われたこと。
人々は「彩晶」という特殊な鉱石を通してのみ色を判別でき、その資源を巡って戦争まで起きていること。
それと、もう一つ。
ここは、私が生きていた時代から数千年も未来の世界だということだった。
「はぁ……」
大きくため息をつく。
魔法は廃れ、代わりに科学という技術が発展したらしい。空を飛んでいた鉄の塊も、その産物なのだとか。地図を見れば、かつて私が治めていた国は、現在の連合国エストリア付近に位置しているようだった。
「それにしても……なんで私、生きてるの?」
鏡に映る自分を見つめる、見覚えのないピンク色の髪、昔の姿とはまるで違う。
「でも、これはこれで可愛いかも」
そんな呑気なことを考えながらも、一つの仮説を思いついた。
彩晶は魔力の塊ではないかと。現に、魔法を扱える私の目には世界がちゃんと色づいて見えているもしそうなら、魔法で作り出せるかもしれない。試しに魔力を込めてみる。すると掌の上に、小さく輝く彩晶が生まれた。
「やったー!」
思わず飛び跳ねる。
その直後。
ぐぅぅぅ。
盛大にお腹が鳴った。
情報収集に夢中になり、気づけば三日も何も食べていなかったのだ。
「お腹すいた……どうしようお金もないし」
しばらく考え、私はひらめく。
「そうだ。この石を売ればいいんだ!」
——————
質屋へ向かい彩晶を差し出すと、店主の表情が険しくなった。
「嬢ちゃん……これどこで手に入れた?」
(しまった、魔法がない時代だからなんて言い訳しよう)
「え、えっと……森で拾いました」
「そうか」
店主は静かに頷いた。
——————
ガシャンッ。
勢いよく扉が閉まった。
私は帝国軍の取調べ室にいた。
向かいには怖い顔の軍人が私を睨んでいる。あの直後、店主が軍に通報したのだ。店から出て街中で商品を見ていた私を軍が取り囲み、拘束した。
そして今に至る。
「彩晶の窃盗は重罪だ。知っているだろう。どこから盗んだ?」
「盗んでないよ!」
「嘘をつくな!」
「本当に盗んでないってば!」
軍人は深いため息をついた。
「牢へ入れろ」
すると、軍人は思い出したかのように続けた。
「あっそうそう、
彩晶の窃盗は死刑だからな。裁判無しの即刑だ」
(し、死刑!? しかも裁判なし!?)
「連れて行け」
「待って!待ってって!」
(このままじゃ、本当に殺される)
私は意を決して叫んだ。
「作った、作ったの!」
「はぁ?」
「だから自分で作ったの!」
「何言ってるんだおまえ?」
怪訝そうな視線が集まる。
「見てて!」
両手を合わせ、魔力を集中させる。淡い光が収束し、新たな彩晶が掌の上に現れた。
その場の軍人たちは息をのむ。
「ほらね!」
しばらく沈黙が流れたあと、一人が口を開いた。
「……ここで待っていろ」
数十分後、私は応接室へ案内された。
そこには上官らしき男が座っていた。
再び彩晶を生成してみせると、男は感嘆の声を漏らした。
「素晴らしい力だ」
(でしょ?)
「ぜひ、その才能を帝国のために役立てていただきたい」
その日から待遇は一変した。
豪華な客室、ふかふかのベッド、温かい食事。
「最高!」
——————
ある夜、廊下を歩いていると、扉の隙間から会話が聞こえてきた。
「あの少女の力は素晴らしい。まるで魔法だ」
(そうでしょう~、そうでしょう~)
「あの少女がいれば彩晶不足は解決する」
「力の仕組みを徹底的に研究しよう」
「量産方法さえ分かれば十分だ」
「…………」
私は見つからないよう静かに部屋へ戻った。
ぽふっ。
そのままベッドへ飛び込み、うつ伏せに倒れ込んだ。
「…………」
「…………」
「……逃げよう」
歓迎されていると思っていた。
でも、違った。彼らが欲しいのは私ではなく私の力だけだ。
翌朝、隙を突いて屋敷を脱出した。
運よく貨物船へ紛れ込めたものの、帝国軍はすぐに私の行方を追ってきた。
追っ手が目前まで迫った、その時だった。
「こっちだ!」
誰かが私の腕をつかみ、路地裏へ引き込む。
「えっ!?」
間一髪で追跡を振り切った。助けてくれた人物は、連合国の情報部員だった。
帝国軍内で「彩晶を生み出す少女が現れた」という情報を独自の諜報網でつかみ、保護のために動いていたという。
「我々連合国なら、あなたを守れます。
このまま帝国にいれば、もっと戦況が悪くなる。首都エストリアへどうか」
エストリア――。
私は静かにうなずく。
「……お願いします」
そして、この選択が後に私とオスカーとの運命的な出会いへとつながっていくのだった。




