第11話 共闘
戦場は混乱の渦に包まれていた。
帝国軍の機体が一機、また一機とドラゴンの猛攻によって撃墜されていく。巨大な尾が振るわれるたびに岩壁が砕け、翼が羽ばたくたびに暴風が機体を飲み込んだ。
「くそっ!」
クロは機体を急降下させ、ドラゴンの足元へ向けて射撃を浴びせる。
動きを封じるつもりだった。しかし、そのたびに鋭い尾が襲いかかり、さらに口から放たれる怪しく輝くブレスが行く手を阻む。
クロの表情にも、じわじわと焦りが浮かび始めていた。
そのとき、通信機に声が飛び込んだ。
『小僧、聞こえるか』
「……誰だ」
『俺だ。翼を狙え。羽ばたきが起こす風は厄介だ。だが、的はデカい。狙いやすいはずだ。』
オスカーだった。
クロは舌打ちしながらも照準を上へ移す。
「ふんっ」
放たれた弾丸が翼の付け根をかすめる。続く一撃が鱗の隙間へ食い込み、ドラゴンは苦痛の咆哮を上げた。片翼が大きく揺らぎ、負傷させることに成功した。
「よし!」
一方のオスカーは巨大な岩陰へ機体を潜ませ、長距離ミサイルの照準を静かに合わせていた。
狙うのはただ一か所。
首の後ろ――脊髄。
——————
クロはなおも攻撃を続ける。傷ついた翼を狙い、隙を見て足元へ撃ち込む。
だがドラゴンも愚かではない。
大きく口を開き、不気味に発光する黄緑色の炎を一直線に吐き出した。
「っ!」
紙一重で回避したものの、熱風だけで機体が激しく揺さぶられる。
『もっと周りを見ろ!地形を利用するんだ、小僧』
『無理に近づくな!丸焼けになるぞ、小僧』
『小僧、無駄撃ちするな!弾切れになるぞ』
通信越しの助言が続く。
プチンッ。
クロの中で何かが切れた。
こめかみに青筋を浮かべながら、
「僕を……」
声が震える。
「僕を小僧と呼ぶなああああっ!! クソじじーッ!!」
叫びながらも、オスカーの助言どおり機体を旋回させた。
狙いを変えた先は切り立つ崖。連射された弾丸が岩盤を砕き、轟音とともに崖崩れが起こる。
ドゴォォォン!!
大量の岩石がドラゴンの周囲へ降り注ぎ、その巨体の動きを封じた。
「今だ!」
岩陰から飛び出したオスカーは照準を固定する。
迷いなく引き金を引いた。
長距離ミサイルが白煙を引きながら一直線に飛翔する。オスカーは命中を確信した、その瞬間――。
ギャアアアアアアアアアアアアッ
天地を揺るがす咆哮。耳を塞ぎたくなる嫌悪感。
ドラゴンは天へ向かって炎を吐き出した。不気味に発光する黄緑色の奔流が雲を貫いた直後、空が急激に暗く染まっていく。突風が吹き荒れ、黒雲が渦を巻き、雷鳴が戦場を震わせた。
「なんだ、この天気は……!」
次々と雷光が落ちる。
その一本が、飛翔中のミサイルへ直撃した。
バチィィィンッ!!
稲妻が閃いた瞬間、
ドォォォォンッ!!
耳をつんざく爆発音が戦場に響き渡る。
火球は空中で膨れ上がり、衝撃波とともに爆炎が四方へ広がった。ミサイルは跡形もなく砕け散り、無数の破片となって地上へ降り注ぐ。
「……うそだろ」
オスカーは思わず呟く。
絶好の好機は、一瞬で消え去ってしまった。
ドラゴンは再び翼を広げ、嵐の空へ舞い上がる。負傷した翼の膜が風にあおられ、羽ばたくたびに巨体がわずかに傾く。それでもドラゴンは余裕があるかのように、雷鳴轟く嵐の中から鋭い眼光で戦場を見下ろした。その黒紫色の巨体は雷光を受けて妖しく浮かび上がり、鋭く光る瞳が地上の多くの兵士を恐怖させた。
だが、一機だけは違った。
「まだだ!」
クロはためらうこともなく操縦桿を握り込み、再びドラゴンへ突撃する。
その背中を見て、オスカーは口元を緩めた。
「あきらめるには、まだ早いな」
オスカーも加速する。
本来なら敵同士である二人は、今だけは肩を並べ、同じ空へ飛び立った。
「クロ……」
リゼは心配そうにクロの機体を見つめる。その隣でリリーは静かに空を見つめ、小さく呟いた。
「どうか、ご無事で……」
帝国軍機と連合軍機。
本来なら刃を交えるはずの二機が、今だけは同じ敵を見据えて並んで飛ぶ。
戦場の誰もが、その光景に息をのんだ。




