第10話 黒紫色のドラゴン
「くっ!」
必死に姿勢制御を立て直すオスカー。
一方、なんとか機体を立て直したリゼ。
ドンと、感情的にコックピット内を片手で叩く。
「もうっ! なんなのよ!」
せっかくの勝負を邪魔された怒りを隠そうともせず、苛立ちを露わに叫んだ。
――だが、その直後だった。
機体の上空に巨大な影が差す。
「え……?」
竜の尾が唸りを上げ、横薙ぎに振り抜かれた。
「きゃあああっ!」
リゼはその影がなんなのか確認する暇もなく、轟音とともに岩壁へ向かって吹き飛ばされる。
「リゼッ!!」
クロは迷わず機体を反転させ、その後を追った。
離れた空域で体勢を整えたオスカーは、目の前の化け物を見据えている。
ドラゴンは帝国軍も連合国軍も区別しない。すべてを敵とみなし、巨大な爪を振るい、尾を薙ぎ払う。さらに大きく口を開くと、喉の奥から眩い光が脈打つように漏れ始めた。
次の瞬間、光を帯びた奔流が一直線に放たれる。一瞬にして辺りは淡く発光する黄緑色の海に変わった。両軍は必死に応戦するも、未知の生き物にどう攻撃すればいいのか分からず、混乱していた。
「撃て!」
味方の銃撃が集中する。しかし無数の弾丸は鱗に弾かれ、火花を散らすだけだった。
「効いてないのかよ……」
オスカーは上空からその様子を見下し、額から汗が伝う。
そのとき、オスカーの脳裏によみがえったのは洞窟でのリリーの言葉だった。
彼は後部座席へ振り向く。
「なあ、リリー……あれって――」
リリーも驚いたようにドラゴンを見つめていた。
何度も言葉を飲み込み、唇を振るわせる。胸の奥で迷いを押し殺すように小さく息を整えた。そして、意を決したように静かに口を開く。
「オスカー」
「オスカー・アルディス大尉」
その声音に、いつもの柔らかさはない。
凛とした気品と揺るぎない威厳だけが宿っていた。
「お願いです。あのドラゴンを討伐してください」
一瞬、オスカーは言葉を失う。
だが彼女の真剣な顔を見て、何かを悟ったように小さく笑った。
「ああ。そのつもりだ」
機体は再び戦場へ向かって加速した。
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崖肌へ激突したリゼは腕から血を流していたものの、命に別状はなかった。
駆け寄ったクロは彼女の姿を見て安堵の息を漏らす。
「良かった……」
そのとき、一機の連合軍機がゆっくりと地面へ降下した。
コックピットが開き、オスカーが顔を出す。
「おい、さっきのパイロット」
クロは反射的に振り返り、銃口を向けた。
「待て待て」
オスカーは両手を軽く上げる。
「一時休戦だ。このままじゃ全員やられる」
しばらく睨み合った末、クロはゆっくりと銃を下ろした。
「ふうー、場所を変えよう」
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先ほどの場所から少し離れたところに、崖陰には屋根代わりになる岩棚のある小さな洞窟があり、そこへ機体を着陸させた。リゼを運びリリーは手際よくリゼの腕に応急処置を施していく。
「それで、どうするんだ」
警戒を崩さないクロが尋ねる。
オスカーはクロを見て、
(若いな。年は十、二十代前半ってとこか)
帝国軍の新型に乗り、操縦技術の腕も申し分ないパイロットがこんなに若かったことに少し驚く。
「なんとかして止めるしかない」
オスカーはいつもの調子で答えた。
「策はあるのか」
「ない」
「おまえ……!」
呆れるクロの声を遮るように、リリーは先ほどと同様に凛とした声で断言する。
「策ならあります」
二人の視線が一斉に彼女へ集まった。
「狙うべきは首の後ろです。脊髄を断てば、どんな生き物でも致命傷は避けられません」
クロが目を細める。
「どうしてそんなことを知っている。おまえ、何者――」
「分かった。首だな。」
オスカーはそれ以上追及させず、クロの肩へ腕を回した。
「ちょっ、離せ!」
「いいから来い」
半ば引きずられる形で歩かされながらも、クロは文句を言い続ける。
そんな二人の背中を、リリーは静かに見送った。
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クロは肩に回されたオスカーの腕を乱暴に振りほどき、軽く距離を取る。不機嫌そうな視線を向けたまま睨み返すと、オスカーが口を開いた。
「おまえ、操縦には自信あるか?」
オスカーの問いに、クロは怪訝そうな顔をする。
「当たり前だろ」
「なら囮を頼みたい。おまえが注意を引きつけている間に、俺がミサイルで首を吹っ飛ばす。」
「なんで僕が」
露骨に嫌そうな顔をするクロへ、オスカーは肩をすくめた。
そして、少し悲しそうな表情で
「そうか。やっぱり難しいか」
「……」
「いや、あの腕ならと思ったんだがな。
なに、無理にとは言わん。別の方法を考えるさ」
わざとらしくため息をつく。
やがてクロが手に力をこめ、ぼそりと呟いた。
「……できるさ」
オスカーが横目で見ると、
クロは胸を張り、大きな声で言い切った。
「やれるさ!」
そう言い残し、自らの機体へ向かって駆け出していく。
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少し離れた場所でその様子を見守っていたリリーは、不安そうに二人を見つめていた。
すると手当てを終えたリゼが、小さく笑う。
「大丈夫。クロ、けっこういいやつだから」
その言葉にリリーもかすかに微笑んだ。
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一方のオスカーは、遠ざかるクロの背中を見送りながら胸をなで下ろす。
(よかった……乗ってくれた)
そう心の中で呟くと、自らも機体へ乗り込み、決戦に必要な長距離ミサイルを取りに戦艦へと急いだ。




