2 キャッチャーの孤独と三銃士
龍太さんは自分のことを、決して「政治家」とは呼ばなかった。
「俺は『キャッチャー』ながよ、カケル」
「キャッチャー? 野球の?」
「そう。政治ってのはな、高い演台から御託を並べることじゃない。
誰かが闇夜に投げた、形にならない悲鳴や、飲み込んだ涙……そんな『暴速球』を、ど真ん中のミットで音を立てて受け止めることながぜ」
彼は僕の隣に座ると、僕がなぜ学校に行けないのか、その理由を根掘り葉掘り聞こうとはしなかった。代わりに、彼がバッグに放り込んでいるボロボロの文庫本を取り出した。司馬遼太郎の『竜馬がゆく』、はやみねかおるの『夢水清志郎』、そしてアレクサンドル・デュマの『三銃士』。
「いいか、カケル。今の日本には、リシュリュー枢機卿みたいな奴らがそこかしこにおる。あいつらが一番恐ろしいのは、俺たちの『感情』さえも、システムの部品として計算しちょることながぜ」
龍太さんはふと、かつてアルマーニのスーツを着て出席した、あの忌まわしいパーティーでの会話を吐き出すように語り始めた。
「俺は見たがよ、カケル。シャンパングラスを片手に、『大先生』たちが笑いながらこう言うのをな。
『アニメやなんかで夢を応援する歌があるだろう? 子供たちは純粋に感動して夢を目指すが、政治的に言えば、あれは効率的な国力強化のツールに過ぎん。夢を餌に才能を開花させれば、国にとっては上質な歯車が増えるわけだ。これほど安い投資はない』……ってな」
僕は背筋が凍るのを感じた。僕が部屋で一人、何度も繰り返して聴き、かろうじて心を繋ぎ止めていたあの熱血な応援ソング。あの勇気づけられる歌詞さえも、彼らにとっては「歯車を磨くための研磨剤」に過ぎないというのか。
「身も蓋もないっすよ、それ……。俺、あの歌マジ推しだったのに」
龍太さんがその時、大先生たちに食ってかかった言葉をそのまま呟くと、彼は悲しそうに、でも力強く頷いた。
「そう。俺も同じことを言ってやったぜよ。だが、奴らにとって人間は『リソース』ながだ。中学時代の親友、ユウキもそうだった……」
龍太さんの瞳が、深い闇を映して沈む。彼には、生涯消えない傷があった。
「あいつはな、本当は『三銃士』のダルタニアンになりたがっちょった。だが、学校という名の狭い檻の中で、ならず者どもの暴力に心を折られた。システムにとって使い物にならん『不良品』だと見なされた瞬間に、誰も見向きもせんようになった。俺は……あいつが投げ続けていたSOSのボールを、一度も捕ってやれんかった」
龍太さんが30歳になった今も、Tシャツの袖で額の汗を拭うその腕が微かに震えている。
「だからな、俺は決めたがよ。死んで意志を遺すなんて、そんな綺麗な死に方は絶対にせん。国力だのシステムだのの都合で、俺たちの命を計算させてたまるか。
死んだら負けぜ。泥をすすってでも、無様な格好を晒してでも、生きて、あいつが見たかった『洗濯された世界』をこの目で見届ける。
それが、俺の生存戦略ながぜ。死んで花実が咲くものか、ぜよ!」
アイデアとプロローグを入力してこの章もすべてAIが書きました。




