1 路地裏のロシナンテ
正直に言おう。僕の目の前に現れたその男は、僕がこれまでの人生——といっても、中学二年生で息切れして止まってしまった短い人生だけど——で出会ったどの大人よりも、圧倒的に「変」だった。
学校という場所が、僕にとって「指定範囲外」になってから3ヶ月。朝起きて制服に袖を通そうとすると、指先がマイナス40度の世界に放り出されたみたいに凍りつき、1ミリも動かなくなる。親は「ただの甘えだ」と吐き捨て、担任は「少し休めばまた戻れるよ」と、賞味期限の切れたパンみたいな無責任な言葉を投げた。でも、僕の心の中にある「まともな感覚」は、もうあの教室という名の息苦しいシステムには戻れないと、静かに、でも激しく叫んでいた。
僕の世界は、4畳半の自室の天井と、近所の寂れた児童公園にある、塗装の剥げかけたベンチだけになった。
そんなある日の午後だった。
ギシ、ギシ、と、まるで悲鳴を上げているような嫌な音を立てて走る、サビだらけの電動アシスト自転車が僕の前に止まった。
「よお、いい風が吹いちゅうね、少年!」
それが、僕と坂本龍太の、あまりにも衝撃的な出会いだった。
ヨレヨレで少し黄ばんだ白Tシャツに、膝のところが白く抜けた安物のGパン。足元は、もはや元の色が何色だったのか判別不能なほど履き潰されたスニーカー。そして何より、自転車のハンドル部分に、黒いガムテープでスマホをベタベタに固定している姿は、どう贔屓目に見ても不審者以外の何者でもなかった。
「……誰、あんた」
僕が精一杯の警戒心を込めて尋ねると、彼はニカッと笑った。その笑顔には、大人がよく使う「相手を値踏みするような裏の顔」が一切なかった。
「坂本龍太。ま、見ての通りの、ただの自転車乗りぜよ」
後で知ったことだが、彼は少し前まで、最高級のアルマーニを身に纏い、パテック・フィリップの金時計を光らせ、永田町で『次世代の総理候補』とまで持て囃されていた政治家だった。
それが「大先生」と呼ばれる政界の巨悪が開いたパーティーで、あえて組織の裏金工作という急所を突っ撥ねたせいで、すべてを奪われたのだ。スキャンダルを捏造され、全財産を差し押さえられ、文字通り表舞台から「消去」された男。
「あんた、有名な政治家だったんだろ。なんでそんな貧乏くさい格好してるの」
僕が呆れて訊くと、龍太さんは『ロシナンテ号』と名付けたサビだらけの自転車のサドルを、愛おしそうにポンと叩いた。
「格好なんてのは、ただの『鎧』ぜよ、カケル。重い鎧を着ちょったら、路地裏で震えちゅう小さな声が聞こえんくなる。今の俺の武器は、このスマホと、このロシナンテ号だけ。だがな、これさえあれば世界と繋がれる。一億人の『まともな感覚』と握手ができるがぜよ」
その時の彼の瞳は、僕が愛読していた名探偵・夢水清志郎が事件の核心を射抜いた時のように、ゾッとするほど澄んでいた。
この章から、プロローグとアイデアを入力してAIが書いています。
この物語の坂本龍太が坂本龍馬の子孫というのはフィクションです。
坂本龍馬に子どもがいなかったので直系の子孫はいないです。龍馬兄弟の長女の千鶴の子孫が現代まで続いているようです。




