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悠々異世界漫遊譚 〜おっさん旅すりゃ、世界がさざめく〜【旧題:LV99のゆるっと最強異世界漫遊記 〜スローライフは世界の安寧の後で〜】  作者: かたか那由他
第1章

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第8話「推測。結界のトラブル」

 ノルは大きなため息をついて、落ち着いたようだ。


「それで、ここの結界のことなんだけど、改めてアノンにも聞いて俺たちなりに推測したことがある──聞いてくれるか?」


 ノルは少し身を乗り出した。


「俺たちの整理した内容だから、違うところとかがあったら教えて欲しい」


「はい」


「まず、エルフの結界。これは、里と森に生じるはずの瘴気を止めている。これによって森や里にはモンスターが出ない」


「はい。……例外は……ありますが」


「そうなの?まぁそれは後から聞くよ」


 一旦全て説明させてもらおう。


「問題は、それが完璧すぎるってこと。アノンによれば、瘴気というのは自然に生じるもので無くすことはできないらしい」


「できない。しちゃいけない」


 アノンが口を挟む。


「じゃあ、止められた瘴気はどうなるかというと、溜まる」


「そして、溜まった瘴気は凝縮、圧力を増す」


 ノルの顔に真剣みが増す。


「……エルフの結界は歴代の里長が管理し、代替わりごとに見直され、洗練されてきました。その度に瘴気の発生は抑えられてきたと聞いています」


「つまり最初に作られた結界は瘴気も一定発生する仕様だった訳だ」


「そう、考えられますね」


「それで、徐々に止めていって、完全に今は止まってる。これまでのことも考えると、凝縮、圧力はかなりの物になってるんじゃないかと思われる。そうだろ?アノン」


「ここ、かたよっている。瘴気のでぐち、はじけそう」


「おそらく、瘴気がどこかに溜まっていて、その限界が近い事を言いたいのだと思う」


 シェルダがアノンの言葉の翻訳を試みる。


「どうなるのでしょう」


 ノルの声色に不安が混じっている。


「これは、私の推測だが」


 シェルダが口元に手を当てて話し始めた。


「瘴気はまとまる性質がある。『出口』というのが土地であれば、その一帯が瘴気溜まりになり、モンスターの大量発生が考えられる。生物の場合……」


「生物が瘴気の『出口』になることなんてあるのか?」


 感覚的に理解し難い。思わずシェルダに問う。


「ないとは言えない。どういう理屈かわからんがモンスターの身体、正確には体内の魔石から無尽蔵に瘴気が発生していた事例が記録された文献を読んだことがある」


 そんなことがあるのか。異世界はわからないことだらけだ。


「どうなんだ?アノン」


「ある。通り道、たくさんある。生き物にも、ある。できる」


「となると、出口となる場所か、そうなる生物がこれから出てくる可能性があるわけか」


 ただ、今現在エルフの森にはモンスターはいないはず。


「さっきノルさんが言ってた例外っていうのは?」


「はい。森には、モンスターはいません。ですが、例外的にエルフ喰らい、という特殊なモンスターがいます」


「物騒な名前だな」


「熊のモンスターで、エルフの天敵です。里に来ることはほとんどありませんが、森の管理を行うエルフにとって森で唯一の危険でした」


 そこでノルは言葉を切った。


「でした、っていうのは?」


「今の里長になった時、結界が強化され、姿が見られなくなりました。それ以前に、ガルフェルドと名付けられた特別危険な個体もいたのですが、代替わり後は姿を見せなくなっていました」


「……結界の強化のおかげで、モンスターの根絶がなされたと喜んでいましたが、近年になって森の各地で不審な死体が出始めました」


「……」


 ノルはチラリとシェルダを見る。


「大半は森へ迷い込んだ冒険者や動物ですが、長にも状況が感知できていなかったそうです。魔族が他種族に対して恭順や領土の割譲を求め始めた時期と同じくしていたため、魔族の関与が疑われていました……」


 シェルダが小さく鼻を鳴らした。言いたいことはあるようだが今は聞きに徹してくれているようだ。


「可能性として考えられるのは、その『瘴気の出口』がエルフ喰らいにあって暴発しそうになっているということだな」


 シェルダが俺の言葉に続ける。


「推量でしかないが、アノンの話す内容とも合っている。可能性は高いと見ていいだろう」


 しばし沈黙が流れた。


「話は少し変わりますが、里長はユキオさんが森に入ったことにより、結界にゆらぎが生じたと言っていました。それは……」


 俺とシェルダは同時にアノンを見た。


「こいつ……だろうな」


「なぁ、アノン。エルフの結界に触ったりしたか?」


「した」


「お前が触ると、結界って反応するのか?」


「ふつう、しない」


 普通は反応しない、か。


「例えば、結界がすごく繊細で細かく作られてたら、こういう良くわからないのにも、過剰に反応する……みたいなことがあるかな」


 ノルが答える。


「あるかもしれません。結界はこれまでの改良で対象や反応を細かく設定されてるそうなので、異物……というか普通じゃない物に対して不安定な挙動が生まれるかも」


 さて、話は大体まとまった。


「じゃあ、これをどうお偉いさんに説明するかだけど……、アノンを見せたら不味いかな?」


 ノルとシェルダが二人で唸った。


「話が余計に拗れそうですね……。もう少ししたら、エルド様が来られます。聴取はそれからとなっていますが、アノンさんを見せたら……それだけで大騒ぎになりそうです」


「アノン、姿は消せるか?」


 聞いてみる。


「できる」


 と棒を指さした。


「でも、推測だけでは疑いは晴れないしなぁ……それに……」


 シェルダを見ると目が合った。


「私のことはいい。現状敵対している身だ」


 立場をわきまえた言葉だが、シェルダの知識は問題の解決には不可欠な気がする。


「まずは私の方から、エルド様と里長に今の仮説をお伝えしてみましょうか」


「そうしてもらおうか」


 俺がそう言った瞬間、大地を震わせるような激突音が里に響いた。


 咄嗟に全員立ち上がる。


 ざわめきと悲鳴が聞こえだした。


「確認してきます!」


 ノルがそういいながら、走り去った。


「でぐち、ちかくにある」


 アノンは先ほどまでと変わらない調子でそう言った。

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