第7話「棒の精霊?アノン登場」
もう片方の手で、左右の床を指さす。
「シェルダから見て右に倒れたら『肯定』、左に倒れたら『否定』、どっちでもないときは倒れない」
「は?」
「言ったろ?占いだよ。めちゃくちゃ当たるんだぞ、これ」
「そんなバカなこと……そもそも倒れないって何だ」
「まぁまぁ、試しに何か言ってみなって」
「全く……くだらない……。じゃあ、今の魔王様は男か?」
指を離すと、棒はシェルダから見て左へ、ゆらゆらと揺れてから『否定』に倒れた。
「え、魔王って女なの?」
俺がそう言うと、シェルダは偶然だろ、とつぶやいた。
「それにしても、その棒、倒れ方おかしくなかったか……?」
「まぁまぁ、この棒でこれやるとこんな感じなんだよ。じゃあ本題。今のエルフの結界は完璧すぎて問題が生じてる?」
指を離すと棒はまたゆらゆらとゆれてから『肯定』側に倒れた。あーやっぱりそうか。
一人納得していると、シェルダはやっぱり倒れ方が気になっている。
「疑ってるなー。じゃあ肯定否定で答えられない質問してみなよ」
シェルダにそう言うとシェルダは質問をまじめな顔で考えていた。
「よし……『この棒は、何なのか?』」
「ほい」
指を離すと、棒は左右にゆらゆらと揺れた後、指を離した元の位置に戻り静止した。
「ね?答えられないから倒れない」
俺がシェルダを見ると口をあんぐり開けている。
「魔法か?何かやってるな?」
棒の周りに糸がないか探ったり地面に仕掛けがないか見ている。
「一体何なんだ……?」
シェルダが再度呟くと、棒から仄かに光が漏れ出し、光は形を成した。球体から徐々に雪だるまのような姿へ、そしてその形は手脚のついた人形のような姿になった。シェルダは驚き、後ずさっている。
「こたえられない」
蔦や葉を模した髪に大きな目。口は見当たらないが可愛らしくデフォルメされた人形のようなフォルムをしている。
「おお、何だこれ?」
俺も思わず反応する。
「だから、こたえられない」
今まで愛用してきたちょうど良い棒から精霊?のようなのが出てくるとは。
「精霊とか?」
「ちょっと、ちがう、けど似たもの」
シェルダはわなわなと震えている。
「ちょっと落ち着けよ」
シェルダは無言で首をブンブン振った。落ち着いてられるか!って目をしている。
「俺たちに危害加えたりする?」
「しない」
「ほら、しないって言ってるんだしさ」
「いや、お前……」
「まぁ、俺もびっくりしたけどさ、この世界でも精霊って珍しいの?」
「……ま、魔力の多い場所などでは、その姿を見ることができるとは聞いたことがある、火山口の火の精霊とか、大滝の水の精霊とか……」
必死に落ち着こうと記憶を探っているようだ。
「結構いるじゃん」
「こんな何もないところにはっきり出てきて会話する精霊なんて見たことも聞いたこともない!」
一息で俺の感想を否定する。
「とはいえここにいるからなぁ……なあ?」
精霊みたいものに話しかける。
「ああ、ここにいる」
こちらを見て大きな目?を瞬かせた。
「ずっと棒の中にいたのか?俺が拾った時から」
「いた」
「不思議な棒だとは思ってたけどお前みたいなのがいたとはなあ……、じゃあ道案内とか、これまでの遊びの占いも、お前が答えてたのか」
「そう」
「なんでも知ってるんだな」
「なんでも、じゃない」
ゆっくりと顔を左右に振る。
「エルフの森でもノルさんのいる方向知ってたじゃないか」
「うごくとゆれて流れる。流れの先をたどる。そしたら、わかる」
「よく、わからないな」
「わかれ」
シェルダは落ち着きを取り戻したのか。顎に手を当てて考えている。
「揺れと流れ……。ノルが動くと大気──いや、大気中の魔力が揺れたり流れたりするのか?それを観測して辿る事で対象がどこにいるかを知るということか?」
「ちかい」
「シェルダやるなぁ」
「当て推量に過ぎん。そんなことができるのか、見当もつかない」
「じゃあ、前にギルドの受付にいる子に恋人がいるのか確認した時は?」
「お前そんなことを……?」
シェルダの目になんとなく蔑みを感じる。
「引くな、引くな。数日、何だか浮かれた様子だったからそうなのかなって思って、占ったんだよ!」
「ひとのこころの動きのかたち。ひとのまじわりのなごり。あわせて見たらわかった」
「これも魔力とかの動きってことか」
「そういうの、止めたほうがいいぞ……」
シェルダが冷たい目でこちらを見る。くそっ、いらない恥をかいた。話を変えよう。
「ところでさ!これまでモンスターぶっ叩いたり、魔力ながしたりして使ってきたんだけど、これまで通り俺が持っててもいいのか?」
「いい。いっしょにいく」
安堵の息が漏れる。
「良かった……、俺が使える唯一の武器だからな。断られたらどうしようかと思った」
「かんしゃしろ」
「…………」
「いつも、ありがとうございます」
大仰にアタマを下げた。
「そしたら、お前の事は何と呼んだらいい?名前とかあるのか?」
「なまえ、ない」
「名前がないのは困るな。呼びにくいし」
「なんでもいい」
「なんでもいいってのが一番困るんだよ。じゃあ棒から出てきたから『ボーちゃん』でいいか?」
「お前……それはあんまりだろ」
シェルダが口を挟む
「いや、だって、なんでもいいって言ってるし」
「なんか、いやだ」
「なんでも良くないじゃないか!」
「つぎ」
お気に召すまで苦労しそうだ。
いくつかの案をだしたがどれも却下。考え疲れた。
横になって、頬杖をついて次の案を考える。
見かねたシェルダがおずおずと手を挙げた。
「アノン、というのはどうだろう」
「お、良い響きだけど、どういう意味?」
「魔族の古語で『はじまりと終わり』転じて『全て』を意味する言葉だ」
「なんかいい感じじゃないか。どうだ?」
「いい」
やっとお気に召したようだ。
「よし、そしたら今からアノンだ!改めてよろしくな」
「わかった」
「じゃあ、本題だけど、ここの結界だけど瘴気はどこにいったのかな」
「どこにもいってない」
「ということは……」
シェルダが考えこむ。
その他にも、結界や瘴気について質問し、いくつかわかったことがあった。
話していると、廊下の奥から駆け寄る足音がある。
息を切らしたノルが格子からのぞき込んで目を見張っていた。
「ああ、ノルさん」
俺が手を上げると、アノンは真似するように手を上げた。かわいいな、おい。
「あの……、何ですか……?それ……?」
ノルは唖然としている。この顔、なんだか既視感がある。
「ああ、ノルさん。こいつ、アノン。今さっき命名」
「『こいつ』はふゆかいだ」
「ああ、ごめんごめん」
「ゆるす」
やり取りの間もノルは呆然としたままだ。
「ああ、ごめん。突然でびっくりするよね」
少し落ち着かせようと、これまでの経緯を掻い摘んで説明すると、ノルは
「なんか、ハァ……もう……わかりました」
と、ため息混じりに呟いた。
「わからないこともありますけど……、わかろうとすることをやめます。そういうものだと思うことにします」
少し遠い目をしているが、話を進められそうで安心した。




