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悠々異世界漫遊譚 〜おっさん旅すりゃ、世界がさざめく〜  作者: かたか那由他
第3章

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第28話「研究室にて」

 魔導技術院の一室。


 デニスの研究室へと入る。


 ランプに照らされた部屋には、所狭しと本が積み上げられ、棚には用途の分からない道具が雑然と置かれている。


 シェルダは慣れた様子で、本をかわしながら歩きつつ、ため息をつき、ノルは床に転がる毛布や手拭いを見て眉間に皺を寄せる。


 リンドは、本の山々に目を奪われていた。


「さぁ、それでここからが本番だね」


 そんな女性陣の様子を気にする様子もなく、デニスが見取り図のような図面をテーブルに広げた。


 中央に城が描かれ東側を沿うように川が流れている。


 その川から支流が作られており、正門と思われる南側から西側にかけて堀になっている。


 城の周囲は高い壁に囲まれ、見張り所の場所が、赤い印で示されている。


「軍が出払ってると言っても、王宮の警備はいつも通り。当たり前だけどね」


 デニスは図面を指さしながら続ける。


「南門、西門の堀に架けられている跳ね橋は夜間は上げられてしまう。東側は川と高い崖に接していて、北側の壁が一番高いけど入口はなく、外壁上に見張りも多い」


 一通りの説明が行われたところで、シェルダが口を開く。


「なにか、案はあるか?」


「物資に紛れて侵入とか、出入りの職人に変装して、とか考えてはみたけど、城の出入りには細心の注意が払われてるのはシェルも知ってるでしょ。それを騙すには下準備に時間がかかりすぎる」


「うむ……」


 顎に指を当ててシェルダは考え込んでいる。


「ちなみに、壁を無理矢理超える、とか、正門から突破とかは……ダメだよね?」


 一応聞いてみる。


「当たり前だ。マジメに考えろ」


「流石に大ごとにすると、ユル……魔王様に会うどころじゃなくなるね」


「すみません」


 俯いて、反省の意を示す。


「他に案は……」


 デニスの指が図面をなぞっていくのをみていると、水車のような絵が描いてあるのが目についた。


「この水車ってなに?」


 指で示して、デニスに尋ねる。


「ああ、それは城内へ取水するための水車だね。川に設置された水車を動力にして水を汲み上げてるんだ」


「へえ、ここから行けないのか?見張りの数も少なそうだけど」


「平面図だとわかりにくいけど、この城は川沿いの丘の形状を利用して建てられてるんだよ」


 図を示しながら手で傾斜を表す。


「つまり、東側は天然の崖になっていて、川からの高さは他所の城壁の比じゃない。崖の形状も抉れていて登るのは自殺行為だね」


「汲み上げられる水の道から行けないのか?」


 ふむ、とシェルダが少し考えて言った。


「人が何人も入れるほどの巨大な鉄桶が魔導鋼で作られた巨大な鎖に繋げられていて、水車の回転に合わせて崖を上昇していく。頂点まで行くと容器が傾いて、そこの貯水池に水が流し込まれる。そういう構造だったはずだ。容器に上手く潜り込めば上の貯水池までは行けるかもしれない……」


「水の中に入るのなら、わたしが水中移動に使える魔法を持ってます」


 ノルが言った。


「それなら、いけそうじゃないか?」


 俺がそう言うが、シェルとデニスはふたりとも難しい顔をしている。


「何か問題があるのか?」


「貯水池には、ケルピーの群れがいる」


 デニスが図面を指した。


「ケルピー?」


「馬と魚を足したような身体をしている生き物なんだけど、この貯水池に棲み着いていて水に入る者や水べりにいる者を、無差別に襲うんだ」


「なんでそんな物騒なモンスター飼ってるんだよ……」


 思わず口に出してしまった。


「飼ってるわけじゃないんだよ。おそらく昔棲み着いたのがそのままになっているんだろうけど、他の場所に行ったりしないし、侵入者の排除に役立つから放置されてるんじゃないかと思う」


「それと……ケルピーはモンスターではないんです」


 ノルが補足する。


「妖精と呼ばれる存在なんです。魔力を糧にして生きていて、精霊の眷属とも言われています」


「それもあって、排除の対象にならないんじゃないかなぁ」


 デニスが顎に手を当てて推測を述べた。


 なるほど、そのルートだとケルピーを相手にする必要が出てきてしまうわけか。


「ちなみにケルピーを倒したりは……」


「ダメだ。騒ぎは起こせない」


 シェルダが俺を睨みつける。念の為聞いただけなのに……。


「う〜ん」


 唸ってみるが、良い案は浮かばない。皆も同じようだ。


「……アノン」


 俺が呼ぶと、アノンは虚空から唐突に現れた。


「どうした」


 突然現れた精霊?を見て、デニスが固まった。


「この城に見つからないように入りたいんだけど、何か良い方法ないか?」


 アノンは少しゆらゆらと頭を揺らしている。


「あった」


「お、ありそうか?」


「ここ」


 アノンが指したのは水車だった。


「俺も同じ意見だけど、そこにはケルピーっていうのがいて、倒すわけにはいかないから難しいらしいぞ」


 アノンは首を横に傾ける。


「たおさない。ケルピー、ひかりにくる」


「倒さずに光におびき寄せるってことか?」


 アノンが頷く。


 俺もアノンとのコミュニケーションが上手になってきたと思う。


「でも、水の中にいるのに、どうやって光で……って……そうか」


 アノンが頷いた。


「リンドの魔法か!」


「そう。ケルピー、ひかりにくる」


 自分の名前が出て、リンドはびくっと身体を震わせた。


「え?……あっ、アノンさん、お久しぶりです」


 慌てながら、アノンに挨拶をしている。今の今まで本に心を奪われて、話を聞いてなかったらしい。


「細部はこれから詰めないといけないけど、この方法でいいんじゃないか?」


 シェルダとノルの同意は得られたが、結果として、その細部が固まったのは翌日の朝になった。


 アノンに興奮したデニスの知的好奇心を鎮めるのに明け方までかかってしまったためだ──。

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