第27話「王都の門」
ワイバーン討伐から2日後の夕刻。俺は馬上で、王都の門扉を見上げていた。
「すごいな。こりゃ」
いかにも古都といった風情と威厳が、かっちりと隙なく組み上げられた石壁に染み込んでいる。
楼門には旗が複数風に踊り、先では門番が通行する民の身分証を厳しい目で睨み、審査していた。
俺の後には、一頭の馬に乗り合わせたノルとリンド。前では、デニスが樽を載せた荷馬車で手綱を握っている。
デニスが後ろを振り返り、目配せをする。──手筈通りにお願いしますね、といったところか。
自分達の番が来て、門の中に馬車を進ませると、デニスに声をかけた。
「魔導技術院の方でしたな」
声色は幾分やわらかだが、目の奥の厳しい光は失わない。
「これも規則ですから──身分証と持ち込む品の書類を。それと、後ろの冒険者もあなたの連れとのことですが、どういった事情で?」
「はい、これ身分証と書類ね。いやぁ、資材の搬入の帰りにワイバーンに襲われてね。偶々通りがかった彼らに助けてもらったんだ。聞けば依頼中でここに来る途中というから、護衛のために急遽雇わせてもらったよ」
「技術院の方が護衛なしとは珍しいですなぁ」
書類からちらりと目を上げて俺達を見た。その眼光は鋭い。
「いや、全く。普段なら軍に護衛を貸してもらうんだけど、ほら」
その後は敢えて言わない。門番も突然の軍事演習に軍が駆り出されていることは百も承知だ。
「なにせ、落ちつくのを待ってられない資材だ。研究が止まるのがなにより困る」
デニスは大仰にやれやれという顔をした。
「それに、これからこの冒険者の方への給金を予算から出せるか上司と談判だ。これ以上ない正念場だからね、お手柔らかに頼むよ」
デニスの冗談に門番は、にやりと笑った。
「それはそれは……健闘を祈ります。では君達も身分証を」
俺は冒険者証を懐から取り出した。ノルも森の外での活動用にと、以前作っていた冒険者証を出した。
「君も何か身分を証明できるものがあるかい?」
声をかけられたリンドがおずおずと、巻物を差し出す。
デニスがくれた偽の依頼文書だ。シェルダから依頼をうけて急いで準備してくれたらしい。
内容は──
「ふむ。では、この依頼をうけた君達二人が王都内の鍛冶屋スミス夫妻のところまで、この子を送り届けると……」
「はい」
調子に乗って変なことを言ってしまわないように、余り喋らないようにする。
確認中、天井を見遣ると、幾何学模様の魔法陣が彫り込まれているのに気付いた。あれが例の魔法探知か……。
「ん?」
門番が声を上げる。
何か、まずかったか?緊張が走る。
「冒険者等級『黒』って……ギルド最高位じゃなかったか? ああ、こりゃあ間違いなく本物だな……」
冒険者証を裏返したり、近くで見たりしながら門番は感心している。
「ええ、まぁ」
3年間こなしまくったモンスター討伐依頼。依頼をまわしたギルド員もドン引きするほどの働きに、いつの間にか、等級はとんでもないことになっていた。
「いや、門番は長くやってるが、こんなのは始めて見たよ。良いものを拝ませてもらった」
「いやいや、そんな……」
返された冒険者証をしまいながら、謙遜しておく。
「では、最後に樽の中を確認させてもらいますよ」
門番の言葉に空気がピリッとする。部下に命じて、バールのようなものを用意させる。
「6つとも開けるのかい? 見て楽しいものでもないがね」
さりげなくデニスが牽制する。
「まぁ、必要があればですね。手早く済ませますから勘弁してください」
1つめ。
樽の蓋が外され、蓋の隙間から白い石が詰められているのが見て取れる。
「石灰石ですかね?」
門番が聞く。
「ええ、届け出のとおり」
デニスは涼しい顔をしている。
2つ、3つ、4つ、5つ……。
最後の樽の蓋を開けるとそこには、先ほどまでと変わらぬ石灰石が詰まっていた。
「はい、結構です。通行許可証をあちらで受け取ってください」
示された窓口で、別の門番から、紙の通行許可証を人数分渡される。内心ドキドキしていたが、なんとか通過だ。
リンドもひどく疲れたように、大きく息を吐いた。
その後、俺達は人目を避けるように、魔導技術院の倉庫へと急いだ。
積荷の樽をどかしていく。樽を下ろした荷台。よく見ると、横板と下板の色が微妙に違う。そう──、二重底だ。
下板の釘を外して、持ちあげると、眉間に皺を寄せたシェルの顔が覗いた。
「……時間、かかりすぎじゃないか?」
シェルダが開口一番恨み言を漏らす。
もう一枚板を剥がすとようやく解放されたシェルダが強張った身体をギクシャクと起き上がらせた。
「まさかこんな狭い所に押し込められるとは……」
「だから、事前に腰痛はないか聞いたじゃないか?なんだかんだ、こういう古臭いやり方が一番なんだよねぇ」
デニスの言葉にシェルダは、ブツブツと文句を言っているが、ともかく王都に入ることができた。
まだ、街の散策などはできていないがそれを言うとシェルダから怒られそうなので、心に秘めて、次の作戦へ気持ちをむけた。
日暮れを告げる鐘の音が反響しながら、重く、涼やかな音色を街に響かせている。




