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悠々異世界漫遊譚 〜引退してもいいですか? そうして始まった旅路は、世界の根幹に触れる〜  作者: かたか那由他
第2章

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第22話「燐光の魔法」

 焚き火を囲み、食事をとった。


 シェルダは、これまで見たことのない魔法に興味が尽きず、俺はというと、あの燐光で何ができるのかが気になって、シェルダと交互にリンドを質問責めにしていた。


 見かねたノルが俺たちを止めて、リンドはようやく落ち着いて食事をとることができたのだった。


「ふう」


 食事を終えたリンドが一息ついて、シェルダが話し始めた。


「しかし、一口に新たに魔法を生むと言っても、とても容易なことじゃない。研鑽と研究の結果だ」


 つくづく感心する、シェルダの言葉にリンドが照れて両手を振る。


「いや、母様のようには行かないんです。それに、結局あの魔法しか使えないので」


 謙遜するリンド。


「光の粒で雛を持ち上げてたけどどういう仕組みだったんだ?」


 俺も色々と気になる。


「えと、あれは魔力の粒みたいものでして──」


「それなんだ」


 と、シェルダが口を開く。


「普通、魔力そのものを体外に放出したあとにコントロールすることは不可能だと言われている。だから何らかの現象に変質させて放出し、コントロールするんだ」


 魔法使いが炎を操っているのを想像する。シェルダの講義は続く。


「魔力というのは、現象を起こしたり、身体を強化したり、質量をもたせたりできる言わば万能な存在だ。にもかかわらず、魔力そのものは体外への放出はできてもコントロールができない。そのため、使用方法を限定せざるを得ない」


 へえ、俺が棒に魔力を込めて斬ったり突いたりするときには質量を持たせているということになるのか。


「それなのに、さっきの魔法はどうだ。魔力を放出し、光の粒にしてコントロールし、雛を持ち上げた。これを通常の魔法でやろうとすれば、光を生成、移動先を事前に指定、並行して風を起こして、雛を持ち上げて移動させる──そういう手順が必要になる」


「とんでもないことをやってたってことか」


 素直に感心する。


「母様からのアドバイスもあったので……」


「とはいえ、すごいことだ」


 シェルダはしきりに感心している。


「つまり、あの光で色々なことができる、ってことだよね?」


 リンドに問う。


「はい、集めて盾にしたり、足場にしたり、飛ばしたりできます」


「へぇ、それは便利だな」


「母様が身を守る術も学ばなくてはならないから、とコツを教えてくれました」


 リンドは少し目を伏せた。龍を思い出しているのかもしれない。


「すまないがもう一度近くで見せてくれないか?」


 シェルダのお願いにリンドは頷いた。


 リンドが胸の前で手を重ねると燐光が溢れる。掌を開くとその上に燐光が光の粒のようにふわりとひろがった。


 リンドが指を立てると燐光は渦を巻いて指先に集まった。


「おお」


 リンドの顔を仄かに照らす光を見ながら思わず感嘆の声が漏れた。


「ん?」


 気付けば、アノンが姿を現していて、燐光を眺めている。


「急に出てくるなんて珍しいな」


「うん、みにきた」


 アノンは燐光を見ながら手をぱたぱたとさせている。


 リンドはアノンを黙ってみて、何かを言いたそうにしている。


「ああ、ごめんな。急に出てきちゃって。びっくりしたでしょ?」


 収納空間から棒を取り出す。


「この棒の精霊? みたいなものなんだけど、アノンって言うんだ」


「あ、母様から少し聞いてます。母様は『枝』って言ってましたけど」


「そこはよくわかってないんだよね。『枝』ってなんのことだろ?」


 リンドも首をかしげる。


「母様はわたしにも余り説明してはくれませんでした」


 変わらず、謎のままらしい。今更戻って聞くわけにもいかないし、リンドにも言わなかったということは、何か言わない理由があるのかもしれない。


「ところで、やっぱりこの魔法は珍しいのか?」


 話を変えて、アノンに尋ねる。


「めずらしい? わからない」


 アノンは首を横に振る。


「さいきんはみてない、すなおなまほう」


 素直な魔法? 確かにリンドは素直ないい子だと思うが……。


「素直な魔法……」


 アノンの言葉にシェルダが、考え込む。


「魔法の術式の構築が素直……いや……術式という考えかた自体が……」


 シェルダは顎に手をかけブツブツと思索に没頭しはじめた。


「ノルはあんまりこういう感じないよね?」


 シェルダを目で示しながら言う。シェルダの耳には入っていないようだ。


「もう、ユキオさん……。エルフは魔法の捉え方が直感的なんです。資質というか、個人の感覚に依存して使ってるというか……。だから、そういう魔法もあるのかなって感覚で……」


「魔族の方が体系的に理解してるってことなのかもね」


「ええ、その分魔族の方は、ほぼ全てが魔法使用者で、かつその水準が高いと言われてます」


「違うもんだねぇ」


 俺がそんなことを言っていると、シェルダは頭を掻きはじめた。


「ダメだ。ここで考えても埒が明かん」


 そして、ちいさくため息をついた。


「問題が片づいた後、よかったら私の知り合いと一緒に話をさせてくれないか?新たな知見が得られるかもしれない」


 シェルダが真剣な目でリンドの目を見ている。


「あ、えと、わたしで良ければ」


 リンドがその静かな熱意に押されて返事をする。


「一応言っておくけど、リンドの嫌がることはしてくれるなよ。俺も龍との約束があるからな、黙ってないぞ」


 そう言うと、シェルダはむっとした顔をした。


「馬鹿にするな。我々はそんなことはしない」


「だから、一応、って言ったろ?」


「心配なら、お前も一緒に、だ。その馬鹿げた強さ、研究者ならほっとかないぞ」


「勘弁してくれ……」


 俺がため息をつくと、シェルダは、ふんと鼻を鳴らした。


「それはそうと──」


 話を変えようとしたのか、リンドはアノンの方を改めて見た。


「アノンさんの雰囲気、どことなく母様に似てます」


 リンドはどこか嬉しげな目をしている。


「そうなの? 龍とは姿は似てないけどなぁ」


 すぐさま話に乗る。


「アノン、りゅうじゃない」


「見ればわかるよ。じゃあなんなんだ?」


「おしえられない」


「またそれか。いつになったら教えられるんだ?」


「さあな」


「口悪いな」


 そのやり取りを見ていたリンドはくすくすと笑い、それに合わせて燐光がふわふわと踊った。

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