第16話「裏道」
パチパチと焚き火で薪が爆ぜる音が響いている。
エルフの里を出て3日。
森を抜けて、北の草原を進んできた。
先頭を黒い馬に乗ったシェルダが進み、ユキオさんとわたしがそれぞれ馬に乗って後に続く。
シェルダとわたしはともかく、ユキオさんは馬の扱いに慣れていないようで、里を出る時に借り受けた馬に悪戦苦闘している。大人しい子のはずなのだけど乗り手の経験不足が伝染しているようで落ち着かない。
「その子を信頼していいですよ。もっと手綱を緩めて背筋を伸ばして、力を抜いて……」
横に並んで、アドバイスしながら進むがまだまだ慣れないようだ。
シェルダはというと、一番気性の荒らい駿馬を容易く乗りこなしていた。
時折振り返りながら先導する様は凛としており、目深にフードを被っていても、その後ろ姿から毅然とした雰囲気を醸し出している。
緩やかな傾斜の奥、遠目に霞がかった山の峰が見える。
目的地はその山の向こう、ミディア高原にある魔族領。時折、モンスターと遭遇することはあったが、馬をまっすぐ歩かせるのにも苦戦しているユキオさんが、モンスターが出る度にあっという間に倒してしまう。馬に乗ったり、歩かせたりするのは下手なのに、降りるのは人一倍速いのが、ちょっと面白い。
「普通であれば、遭遇しないように細心の注意を払ったり、この人数なら逃げるしかないようなヤツもいたんだがな」
これは、キャンプの夜のシェルダのぼやき。
ユキオさんは誰より早くモンスターを発見し、「ちょっと追っ払ってくる」とさっさと馬を降りて行ってしまう。
わたし達が馬を連れて追いついた時には、既にモンスターを追い払うか、討伐してしまっている。
そういうわけで、旅路は順調。明日には、山岳地帯に入る。
わたしは報告用の手帳に今日の道程を記入して、懐にしまった。
◆
山岳地帯に入り、乗ってきた馬達とは一旦お別れだ。
馬具を外して目印の帯を首に巻き、草原に離された馬達はゆったりと草を食んだり駆け回ったりしている。
馬具を収納空間にしまいながらノルに聞く。
「馬は離しといて大丈夫なの?」
「そう遠くない場所に水場もありますし、モンスターがきても、森に逃げ込むことができます。賢い子達ですから、私達が戻るまでの間はここで待っていてくれますよ」
ノルが馬達を眺めながらそう言った。
「さ、ここからは徒歩だ。険しい道を行くから気を引き締めろ」
シェルダが靴紐を締め直しながら、宣言した。
俺の目には、ゴツゴツした岩肌しか見えない……。これを道だと言うならこの世界のあらゆる場所が全て道だ。
「なぁ、魔族領に入るのって、この道しかないのか?」
俺がそう問うと、シェルダは馬鹿にしたように小さくため息をついた。
「そんなわけないだろう。まだ国に報告もしてない特使を連れて行くんだ。バレたら国に入る前に大問題だ」
「シェルダは、偉いんじゃないのか?」
確か、魔王直属近衛師団とか言ってたはずだ。
「近衛師団に外交上の権限などない。今の魔族の政は宰相が担っていて、生憎私は宰相殿の覚えも良くないしな」
「おいおい、大丈夫なのか?」
俺はともかく、ノルの身が心配になる。
「そこは私も博打さ」
「ええ……」
ノルの方をちらりと見ると目があった。
「まぁ、そのくらいはちゃんと分かってますし、大丈夫です。いざとなれば観光に来たことにしますから」
と笑顔で答えた。肝が据わってらっしゃる。
◆
シェルダが先導し、ノルが続く。そして、最後尾を俺が行く。岩に手をかけ、足場を探しながら壁かと見紛う岩場を登っていく。
ノルも流石に身軽で羽根のように軽やかに移動していく。俺はというと、レベルのおかげで力もスタミナも素早さもあるはずなのに、どうにももたつく。いっそのこと、全力ジャンプで上の方まで飛び上がりたいところだが、そんな目立つことは先頭を行くシェルダが許してくれない。
岩壁登りを終えた後は、ようやく道らしき場所を行く。とはいえ、岩肌に張り付いて進むような崖の道。足を踏み外せば、先ほどの草原まで転がり落ちるのではないかと思う。
「ノル、なんか慣れてる?」
ジリジリと進む俺に対して、先を行くノルの足取りは平地と然程変わらない。時折、後ろを振り返って俺に手を貸す余裕すらある。
「普段から木の上を走り回ってますから」
道理で身軽なわけだ。納得する。
「ユキオさんは、今まで受けた依頼でこういう道を行くことはなかったんですか?」
もっともな質問だ。実際、討伐対象によっては山の奥地に潜むヤツもいた。
「あったけど……」
「どうしてたんですか?」
「基本的に道の良いとこ通ったり、どうにもならないところはまぁ……ゴリ押しというか……」
そう、レベリングとスキルのおかげで常人を遥かに超える跳躍力を手に入れた俺は普通のルートを使わず、その跳躍力にものを言わせて無理矢理な道行きで突き進んでいたのだ。
「はぁ」
なんとなく想像できたのかもしれない。ノルは詳しくは聞いてこようとしなかった。




