東の森で.3
古家の中は、物も殆ど無くこじんまりとしていた。老婆は、頭に被っていたローブを下ろし、使い古されている椅子へ腰掛ける。ローブから出てきた白髪は、綺麗に整えられており滑らかだった。そして、机に置いてある……あれ、魔石だよな? をおもむろに齧り始めた。ガリッという音がして、老婆は時折噛みにくそうにしている。硬そう。
魔石の大きさは、一際デカい。もしかしなくても、中層域で見たオーガの魔石と同じ大きさだった。老婆は半分ほど齧った所で手を止めて、一つ息を吐き話し始めていく。
「さて……どこから話そうかね。とりあえず、好きな所へお掛け。敵意はないから警戒した所で無駄だよ、実力差は分かっているだろう?」
お見通し、ってか。俺はもういいといわんばかりに、老婆の対面にあった椅子へ腰掛けた。アメルも近くの椅子へ。スキルを解除すると、途端に身体が重くなった。今回は息切れが無いだけマシか。老婆は俺達の様子を見て、満足気に話し出した。
「私はアニエスという、こっちはイッカクだ。先も告げたが【従魔士】カイル、お前さんを待っていた」
「俺を? どうしてまた」
「ちょっと待っておくれ」
そう告げた老婆が眼を閉じるとーーーー頭上に『従魔契約可能』の文字が現れた。……は!? 急な事に、俺は頭が追いつかなかった。
「何か、変わったかい?」
老婆は知っているかの様に尋ねてくる。自身をアニエスと名乗った老婆、その落ち着きように俺は違和感を覚えた。それに、アニエスという名前、どこかで見た気が……。
「……従魔契約可能、という文字が出ています。アニエスさん、貴方は……魔物なんですか?」
アニエスさんも希少種、なのか? ……それなら、希少種の魔物を従えているのも納得できなくはない。アニエスさんは俺の言葉を聞いて、満足そうに笑った。
「そうか……賭けには勝ったようだね」
待った甲斐があったよ、アニエスさんは嬉しそうにしている。まるでこうなることを予想していたかの様。賭けってなんだ?
「話が見えてこないんですが、どういう事です?」
「あぁ、まずは私が魔物なのか話そうか。その文字が出たなら私は魔物になった、という事になる」
「魔物に、なった?」
聞いたこともない、そんな事があり得るのか?
「元々私は人族だよ。初代から、その文字は魔物、それも変異種や希少種しか現れないと聞いている」
……やばい、情報量が多すぎる。
「し、初代というのは?」
「私が知る限り、初めての【従魔士】だった者の事だよ」
初めての【従魔士】という言葉に、胸がドクンと波打つ。ギルドの文献に書かれていた【従魔士】。居た、ということしか分からず、詳細は何も書かれていなかった。この人は、初代を知っている……?
「初代に話は聞いていてね、この辺りに文字が浮かんでいるのだろう?」
「え、えぇ」
アニエスさんが指差すその位置に、文字は記されている。
「私には、初代と離れるまでついぞ見える事は無かったけどね。自分がこの立場になるとは……何が起きるか分からないものだ」
一気に色んな事がありすぎて、訳分からなくなってきたぞ。俺は話を遮って、一度話を纏めてみる。
「えっと、話を整理させて下さい。アニエスさんは、俺と従魔契約をしたくてここへ呼んだという事ですか?」
「大筋はそうだね。主になるであろうお前さんの強さを見たかったのもあって、イッカクを向かわせてみたが……正直、ここまで弱いとは思わなかったよ」
えらい辛辣じゃないの。だけど……言い返すことは出来ない。この人が従えているイッカクという鬼に、俺達は一撃も入れることが出来なかった。
「責めている訳じゃない。お前さんが契約している魔物は、全て希少種や変異種なのだろう?」
「はい。でも、どうしてそれを?」
「スライムとはしている様だけど、他の従魔とは何故融合していないのか気になる所だが……そもそも、お前さんーーーー従魔隷属は使わないのかい?」
従魔、隷属? 初めて聞く。スキルか?
「スキルですよね? 【従魔士】のスキルみたいですけど、俺は持っていません」
「……持ってない?」
俺が頷くと、あやつが従魔契約を持っていなかったのは偶然ではない? とアニエスさんはぶつぶつ言い始めた。
「あ、あの?」
「あぁ、話が逸れたね。そうだね、色々と聞きたいこともあるだろう」
知っておいて損はないと言い、アニエスさんはこう切り出した。
「ではまず----恩恵と誓約についてから話そうか」




