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再試練を経て

「で、でもアニエスさん」


「なんだい? 言っておくが拒否権は無いよ。ジュエレールとのあれこれや、私事もあるだろうから最低限の配慮はするが、付いてくるなら今の強さでは困る」


「い、いえ、そうではなくて。ホムラさんは、私が……その……」


 消失、させてしまったし。言い辛そうにしている私の言いたいことが分かったのか、アニエスさんはあぁ、と言った。


「おいで、ホムラ」


 そして、いつも通りにホムラさんを召喚して……え? あれ……なんで……? ホムラさんは、初めて会った時と変わらない姿でその場へ召喚された。


 ホムラさんはアニエスさんに跪く。


「アニエス様、申し訳ありません。此度の失態、なんと言葉にすればいいか……」


「よい。面白いものを見れた。ホムラ、聞いていただろう。これから、この娘の相手をしておやり。お前が戦い方を教えるんだ」


「ハッ!」


 そう言ってホムラさんは立ち上がり、私の側までやってきた。


「ホムラさん……」


「アメル、油断していたのは確かですが……あの威力、お見事でした。倒した相手が教え手になるのは癪かもしれませんが、アニエス様の命令です。付き合って頂きますよ」


「え、あ、はい」


 私は未だ、ホムラさんがその場に居ることを飲み込めて居なかった。


「アメル、ホムラは私の()()の一つだ。死という概念は無いから、安心おし」


 どこか楽しそうにしているアニエスさんに言われ、ホムラさんは顔を赤くしていた。ち、ちょっと熱い気がするんだけど。傑作……ということは、アニエスさんが作った、って事? え、どういう事? 私が尋ねようとしたが、それより前にアニエスさんから話し掛けてきた。


「アメル、一度精霊化を解いておくれ」


「? はい」


 アプサラスにお願いして、憑依を解いてもらう。なんだろう?


「手を」


 アニエスさんが手を出してきて、思わずビクッとしてしまう。とって食べたりしないよ、とアニエスさんは優しく微笑んでいた。


 手を差し出すと、アニエスさんは両手で握ってきた。ほんのりと温かくて……本当に、魔物になってしまったのかと疑問に感じる程。アニエスさんは手を触りながら、眉間に皺を寄せていた。


「やはり……元々の魔力量が少ないな。魔力回路が貧弱なせいも相まって尚更だ」


 真剣に言ってくれてるんだろうけど……意見が真っ直ぐ過ぎて、少し悲しくなる。


「アメル。一、二年前だが、極端に栄養が取れなかった事はあるかい?」


「! それは……」


 思い出したくもない。叔父と暮らしていた時期だ。私が俯くと、アニエスさんはそのまま話を続ける。


「心当たりはあるか。アメルの年頃ならば、魔力回路の発達、魔力量の増加が見込める時期だ。個人差はあるがね。ただ、その時にしっかりと栄養を取れていないと、成長が止まる」


 どうやら私の魔力回路は、成長が止まっているみたい。そのせいで魔力量も少ないという事をアニエスさんが説明してくれた。


「教えて下さって、ありがとうございます。でも、そうなると今から頑張っても、その、どうにもならないんじゃ……」


「私が言う事を守れるなら、今からでも遅くはない」


 出来るかい? とアニエスさんは尋ねてきた。


 ーー強くなって、カイルさんの役に立ちたい。私に出来ることは全部やるんだ! 私はアニエスさんを見つめ、頷いた。


「よし、水の初期魔法は知っているかい?」


「は、はい。カイルさんに教えてもらいました」


 カイルさんに教えてもらった魔法。適性は水属性、それ以外は一切何も起こらなかった。水属性の魔法だって、掌にちょっと水が滲んだ程度だったし。


「少し痛むよ?」


「え」


 アニエスさんがそう告げた瞬間、身体へ何か流れてきた感覚と同時に、節々がズキンズキンと脈を打つように痛みだした。な、なにこれ!?


「アメル様!?」


 私が痛がってるのを見て、アプサラスは心配そうに声を出す。アニエスさんは構わず話を続けた。


「身体のあちこちが痛むだろう? そこが魔力の通り道、魔力回路だ。私の魔力を流して、そこを刺激した」


 少し荒療治だけどね、とアニエスさんは楽しそうに笑う。も、もの凄く痛いんですけど。


「そのまま何もしないと、流し損になってしまう。アメル、初期魔法を使ってごらん」


 私は痛みに耐えながら、手に魔力を集中させ水が湧き出ている場面をイメージする。いつもより、手が熱い気がした。アニエスさんの魔力が流れているからなの?


「水よ……溢れろ」


 私が言葉を紡ぐと、手から水がドバドバと溢れ出す。憑依して唱えた時程じゃないけど、勢いが凄い。


「わっ、わ!」


 どうしよう、床がびしょ濡れだ。アニエスさんは、慌てる私を見て笑っていた。


「くく、ここはもう更地みたいなものだ。気にしなくていい。アメル、今みたいに日頃から魔法を使うんだ。初期魔法でいい。回路が刺激に慣れ段々と発展していく。筋力の鍛錬みたいなものと思えばいい。そうすれば、私が魔力を流さなくてもその程度はすぐ出来るようになるよ」


 とアニエスさんは言ってくれた。


 今も手から溢れ落ちていく水の初期魔法。流石に場所を考えなきゃ。でも、鍛えることが出来るのを教えてもらったし、頑張らなくちゃ。


「あの、アニエスさん。ありがとうございます」


「なに、私が苦手とする属性だ。アメルが使いこなせる様になってくれるなら、試すには困らない」


 え、何を試すの? 気になったが、怖くて聞けなかった。


「よし、戻ろうか。と、その前にアメルや。その銃ーー私にも貸してくれないかい?」


 なに、見るだけさ、とアニエスさんは言った。


「ど、どうぞ」


 私は魔法銃をアニエスさんに渡す。ふむ、と一言。アニエスさんが持った魔法銃の色が、どんどん変化していく。それは赤黒く、光沢があった。


「……魔力の伝導率も悪くないな」


 そう言ってアニエスさんは、銃口を上に向け迷わず引き金を引いた。え!? お腹に響くような重低音を出しながら、空へと向かって極太な黒い光線が放たれる。……この人撃った! 見るだけって言ったのに撃った!


 アニエスさんは空へ消えた光線を見終わり、私へ向き直った。


「……良いおもちゃだ、大事に扱うんだよ」


 そう言って、楽しそうに魔法銃を返してくるアニエスさんへ、私は何も言い返せなかった。

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