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再試練

 ちょっと長いです。

「それで、お嬢。話とは何だい?」


 カイルさんが宿から出て行った後、アニエスさんがつまらなさそうに口を開いた。


「前回のお話なんですが、同じ条件でもう一度お願いをしたいんです」


「つい先日の話じゃないか。たった一日二日で、何が変わるというんだい?」


「……お願いします」


 私は、アニエスさんに言い返したいのをグッと堪えて、頭を下げた。アニエスさんは、深い溜息を吐き口を開いた。


「……何度も同じ事を言われては敵わん。お嬢ーーーーこれが最後だ、以降はない。それでもいいのかい?」


「構いません」


 私がそう言うと、主様のお人好しが移ったかね、全く……と呟きながら、アニエスさんは転移陣を発動させた。


「何アンタ達だけで盛り上がーー」


 リリが何か言おうとしてたけど、一瞬で景色が移り変わる。私達は、アニエスさんの家の前へ転移してきた。


「お嬢。確認だが、本当に同じ条件でいいんだね?」


「条件を緩くしてとお願いするようでは、カイルさん達へ付いていく資格はありませんから」


 アニエスさんの眼を見て、真っ直ぐに自分の意思を告げる。


「……気概は買うよ」


 アニエスさんは、ホムラさんを召喚した。ホムラさんは私を見て、少し眉根を寄せている。


「ホムラ、聞いていたね? 前回と同じだ。身の程を分からせておやり」


「ハッ!」


 ホムラさんは私に向き直り、熱気を放ってきた。


「アメル、私も舐められたものですね。たかが数日で何が変わったというのですか」


 自身を舐められていると感じたホムラさんは、いつもより低い声で私に話し掛けてきた。舐めてる……そんなことは無いけど、やっぱり怒ってるよね。私は背負っていた銃を取り出し、声を掛ける。


「アプサラス!!」


 あの日と同じく、アプサラスはすぐに精霊憑依をしてくれた。その様子を見たホムラさんは、呆れた様に話し始める。


「……また、銃ですか? 少しは何かあるかと思えば……まさか、それがあれば何とかなるとでも? 私に物理攻撃は効かない、と教えたはずですが」


 ホムラさんが溜息を吐く中、私はホムラさんへ迷わず銃を構えた。銃に魔力を流すイメージをするとーーーー銃は青白く、少し眩しい位に輝き始めた。


「これは……」


 後ろで見ているアニエスさんが、眼を見開いていた。


「……面妖な物を。撃ちたければ撃ちなさい。貴女も、一度現実を見たほうが良いでしょう」


 ホムラさんは向かってくることなく、さぁどうぞといわんばかりに両手を広げた。アニエスさんがホムラさんに何か言おうとするが、私は引き金に指を掛ける。瞬間、脳裏をよぎるものが。


 ーー森が怖がるから、銃は使っちゃ駄目。というカドリィさんの言葉を思い出した私。


「ごめんなさい……一発だけ」


 私は引き金を、引いた。

 音は、しなかった。


 以前引き金を引いた時は、銃口からチョロチョロと水が出て来ただけだったけど。


「あ……! ぐっ……!」


 今回私が撃った水の塊はホムラさんの半身を貫通し、アニエスさんのいる位置で少し軌道を変え、半壊していた家を更に破壊しながら、後方の木々も貫いていった。


「アニエ、様……申し訳、ありま……せ……」


 ホムラさんはその場に倒れ込み、そのまま消失していった。人ではないんだろうけど……なんだか、嫌な感覚が心に残る。


「魔法銃か、成程。精霊化している状態なら、破格の威力を引き出せそうな得物だね」


 アニエスさんは、ホムラさんの消失には何も言わず、この魔法銃へ関心があるみたいだった。


「それにしてもお嬢。私に当たったらどうするつもりだったんだい? 幸い、軌道が逸れたから良かったものの」


 そう淡々と告げるアニエスさん。


「当たらないのは、分かっていましたから」


「……何?」


 私がそう告げると、アニエスさんは真剣な表情で見つめてきた。話を続けていく。


「アニエスさんの周りには、何かありますよね?」


 そう言うと、アニエスさんは私に初めてとなる笑顔を向けてきた。


「お嬢、中で話そうか」



 アニエスさんに促され、私達はほぼ全壊状態の家へ。お掛けと言われ、椅子へ座らせてもらう。


 ……今更になって、とんでもない事をしちゃった。ホムラさんを条件とはいえ、その、消失させちゃったし。アニエスさんの家も以前より壊しちゃって……屋根も、アニエスさんからそれた銃撃により、ほとんど吹き飛ばしてしまっていた。


 カイルさんに付いていきたい一心で、他のことを軽く見てしまっていた私は、アニエスさんに何を言われるかと気が気じゃなかった。でも、なんだかアニエスさんは、私と話している中で一番機嫌が良さそうに見えた。なにか、鼻歌も歌っている。


「お嬢も何か飲むかい?」


「お! お構いなく……」


 アニエスさんは、私にお茶を出してくれた。ほんのり甘い香りがする。さて、と言われた私は身体を震わせた。


「いつから見えていた?」


「……え?」


「私の周りにあるものを、だ」


 いきなりの質問に、戸惑いを隠せなかった。てっきり、ホムラさんの話をされるのかと思っていたから。ーーアニエスさんの周りには、いつも何かが、あった。それは、アニエスさんを護るかの様に旋回している、盾みたいなもの。


「その姿に戻った時からです。薄い盾の様なものが、周りに幾つもありますよね?」


「……誰かに聞いた訳じゃない。本当に見えているんだね、これを見破られたのは久方振りだよ」


 アニエスさんは飲み物を含み、その後ゆっくりと口を開いた。


「それにしても、そんな銃があるなら出し惜しみせずに、初めから持ってきていれば良かったものを」


「この銃は、私だけでは扱えなくて。今までギルドに預けていました。アプサラスが居る今なら、もしかしたらと思って」


 昨日の夜、宿に戻る前ギルドへ寄り、ジェシカさんに頼んで魔法銃を受け取った。都市内で撃つわけにもいかないし、かといって夜に一人で草原やダンジョンへ向かうのも、カイルさんに要らない心配を掛けてしまう。やれたことは、部屋で精霊化をして魔力を流した位。輝き方が、一人でやった時とまるで違っていたから……正直、賭けだった。


「ぶっつけ本番で試したのかい? 全く……それで失敗したらどうするつもりだったんだ、私は出した条件を変えるつもりは無かったよ?」


「そうでもして……一日でも早く、アニエスさんに認めて頂かないと。そう考えていたものですから」


 アニエスさんは私を真剣に見据え、こう告げる。


「私が出した条件だ。二言はない、同行を許可しよう。ただ」


「ただ……なんですか?」


 アニエスさんは同行を許可してくれたが、その言葉に含みがあり、私は嬉しさと不安が入り混じった何とも言えない感覚になった。


「ホムラが慢心していたとはいえ、不意打ちになったことに異論はないね?」


「……はい」


 アニエスさんの言い分は、正々堂々な勝負ならこうなっていたか分からないだろう、という話みたい。前回と同じく、距離を詰められたら……接近戦でホムラさんに勝てるとは思っていなかった。だから先手を取って、魔法銃を撃つ気でいた。アニエスさんの言うことは事実で、私は何も言い返すことは出来ない。


「その銃があったとしても、ホムラの域まで到達しているとは言い難い。が、素質はある」


「え……」


 アニエスさんに初めて好意的な言葉をもらって、思わず呆けた声が出ちゃった。


「お嬢……いや、アメルと呼ぶべきだね。アメルや、お前さんも主様と同条件で、余暇時間を全てホムラとの戦闘訓練に充てるんだ」


 場所はここでいいだろう、とアニエスさんからこれからの提案をしてくれた。

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