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中層へ

「貴様! 性懲りもなくまたやって来たのか!」


 改めてダンジョン前へ辿り着いた俺達。そこで、先程も警告をしてきたビーティンさんが、声を荒げながら近付いてきた。


「よもや、私達が居なくなる隙を窺っているのではあるまいな!?」


「いや、あのですね」


「残念だが異変解決まで、ここは二十四時間厳重監視体制だ! お前達の様な者が無闇に入らない為にな!」


 分かったらさっさと帰れ! と足早に告げるビーティンさん。こっちの話、まるで聞いてくれないな。


 埒があかないと思い、リョウさんからもらった手紙を取り出す。その動きに、ビーティンさんも話を止め尋ねてきた。


「なんだそれは」


「リョウさんからの推薦状です」


「リョウから……見せてみろ」


 ビーティンさんは、俺からむしり取る様に紙を取り、内容を確認していく。見終わった後、静かにこちらへ向き直った。


「確かに、リョウの推薦に間違いない」


「ありがとうございます。そしたら、ここを通っても良いですよね?」


「ならん」


「……え?」


 ちゃんと合意も得れたと思っていたのに、見当違いな返答が来て困惑してしまった。


「リョウは、他の者に対して評価が甘すぎる。みすみすお前達を犠牲にする訳にはいかん」


「いや、でもそれじゃ推薦の意味が」


「くどい! 分かったらさっさと立ち去れ! 私達は暇ではないのだ!」


 ビーティンさんはそう言って、俺に背を向けた。正式な手順を踏んでいるのに、無駄にされてしまっている。俺達の命を案じての行動や言動なのは分かるし、嬉しい所もあるけど……どうしよう、話が通じ無さ過ぎて苛ついてきたぞ。それなりの覚悟はしてきたつもりなのに、俺達の意思は無視するのか?


 ひとこと言ってやろうと思い、ビーティンさんに近付く。それよりも先に、イッカクがビーティンさんの肩を掴んでいた。振り向いたビーティンさんは苛つきを隠さず、イッカクを睨みつけている。


「なんだ? さっさと離せ! ……? くっ、この……!」


 手を振りほどこうとしたビーティンさん、だがイッカクの腕はビクともしない。ビーティンさんは両手を使いだしたが、それでも微動だにしなかった。


 イッカクはそのまま、ビーティンさんの服を掴み持ち上げていく。


「退ケ」


 ギルド職員がこちらの光景を見て驚いている中、イッカクはそのままビーティンさんを無造作に投げた。そして俺の方を向き、一言。


「イクゾ、主」


 そう告げて、先にダンジョンへと進んでいく。俺も後を追いかけるが、今の俺達を止めようとする職員は居なかった。


「貴様達! 命を無駄にするつもりか!!」


 ただ一人、起き上がったビーティンさんだけが、こちらに向かって叫んできた。


「……死にに行くんじゃありません。マズいと感じたら、すぐに戻ってちゃんと報告します」


 ビーティンさんへは向き直らず、俺達はダンジョンへ足を踏み入れた。



 ダンジョンの中は、本当に暗かった。今は外の明かりが届いてるだけまだ良い。どうやら、二本目までは灯りがついてるっぱいけど、奥は眼を凝らした所で何も見えないし、先が見通せない恐怖を体感していた。ライムとは融合しているから、死ぬことは無いと思うんだけど……どうしよう、既に帰りたい。


「主、大丈夫カ?」


「いや、うん。眼が慣れたとしても、満足に動けるかはちょっと怪しいかな」


「ソウカ」


 そう言ってイッカクは片手を広げた。イッカクを覆い尽くす程の赤い鬼火が現れる。これは……朱の方だな。


「コレデ、ドウダ?」


 めちゃめちゃ明るい。やっぱり、ホムラさんの時より更に明るく感じる。


「ありがとう。でも、イッカクはそのままで大丈夫なの?」


 動けるとは思うけど、片手が塞がっている事になる。集団で来られたら、イッカクでも苦労するかもしれない。


「問題ナイ」


 イッカクがそう言うと、鬼火である朱がスーッと俺達の前へ視界を遮らない形で浮遊し始めた。前方は視界が開けて、いつもの探索より見やすい位になっている。


「凄いな……これ、イッカクが操ってるの?」


「朱ハ、俺ガ思ウ通リニ動カセル」


 なるほど、操縦型の火球ってところか。なにそれ、超便利じゃん。後方は前方に比べ暗い所が目立つが、見落としをしないように動いていけばいいんだもんな。俺は辺りを注視しながら、どんどんと歩みを進めていくイッカクを追いかけた。



 三本目の目印まで来た俺達。やはり、光源は破壊されていた。道中、オーガはおろか、ゴブリン一体すら見ていない。これはこれでおかしな話だな。


 確か、リョウさんが三本目でオーガと対峙したって言ってたな。リョウさんが討伐したと仮定するなら、この付近の魔物が少ないのも納得は出来る。


「主、来タゾ」


 考えている所に、イッカクから声が掛かる。目線の先に赤色のオーガ、数は一体だけみたいだ。俺がスキルを発動し構えを取ると、イッカクが制止してきた。


「中層マデ距離ガアル、任セロ」


 そう言って、赤いオーガへ向かって手を翳す。すると、朱がオーガへ向かって高速で移動していき、食べるように身体を炎で覆い尽くしていく。


「ゴオォ!!」


 立ったまま炎に包まれたオーガは、叫ぶような声を上げた。それすらも炎に包まれていく。


 少しすると膝から崩れ落ち、身体も消失していった。その場所に残ったのは魔石だけ。


「すげぇ……!」


 オーガを火球で燃やしただけ。説明すると簡単だが、やってることはもの凄いことだ。朱は、再び俺達の近くで浮遊を始めた。


「イッカク、鬼火を展開してて疲れはないの?」


「ソウナッタ事ハ、一度モ無イ。切ラスツモリハ無イカラ心配スルナ」


 イッカクは更に碧の鬼火もある。多分、両方を使用してても何とも無いって事だな。頼りにしてる、とイッカクへ告げ、俺達は中層へと向かっていく。



 道中、俺が戦うことは無かった。現れたオーガは全て、イッカクが一人で倒していた。目印の五本目以降は、オーガも数を増やしていたが、まるで意に介さない様子で、当たり前の様に一体ずつ確実に葬っていた。これで本気を出してないって? どうなってんのさ……。


 オーガの変異種。イッカクが居るとはいえ、強さは同格かそれ以上かもしれない。段々足を進めるのが億劫になってきた。でもここまで来て帰る訳にはいかないし。


 そんなこんなで十本目、上層最後の目印へ到着した俺達。


「……ここを下ると、中層か」


 下るように道が進んでおり、奥まではイッカクの鬼火でも見ることは出来ない。俺は覚悟を決めて、下へと進んだ。


 ーー中層。上層の様な洞窟が幾つも繋がっている構造とは違い、とにかく広かった。端は見えないが、平地の様な感じ。何も無いただ広い空間に来たみたいだ。天井も見上げて何とか分かる位か、かなり高い。空気は冷たく感じるが乾いており、上層の様なジメジメとした印象は無い。


「上層と中層で、こんなにも違うんだな……」


(広いなー)


 ライムも同じ感想だった。


「主、奥ノ方。シバラク進ムト居ル様ダ」


「居る?」


「俺ト同ジ。主デ言ウ所ノ、変異種ダ」


 イッカクに告げられた俺は、集中し直して一気に警戒を強めた。

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