これからの方針
宿に戻った俺達、アニエスは居なかった。まだ家の方みたいだ、俺は回路を通してアニエスへ話しかける。
(アニエス、今大丈夫?)
(ん、あぁ、主様か。なんだい?)
(ちょっと、これからの動きを皆で決めたくて。アニエスを宿まで呼びたいんだけど、いいかな?)
(従魔召喚の練習も兼ねてだね、構わないよ)
了解は取れた。
「……よし」
「よし、じゃないわよ。アンタ最近上の空が過ぎるわよ? ババア成分のせいで、ジジイになられても困るんだけど」
リリが呆れたように言ってきた。
「ごめんごめん。今からアニエスを召喚するから、了解を取ってたんだ。いきなりだとマズいしね」
「私の時はやってたじゃない」
どういう事よ? と難癖を付け始めたリリを放っておいて、俺は召喚のスキルを発動した。
地面が光り、ゆっくりとアニエスが、現れた……けど。その、全然大丈夫じゃなかった。
アニエスは----生まれたままの姿だった。タオルの様な物で身体は隠していたけど、見えてはいけない部分もチラっと見えた気がする。
「ふむ、問題なく呼べる様だね。後は、複数同時に召喚出来るかどうか、か」
「ばっ……アンタ痴女なの!? なんで裸なのよ!!」
「あぁ、丁度川で身体を洗っていた所だったものでね」
リリが怒声を上げる中、さらっと告げるアニエス。大丈夫って言ったじゃん。大丈夫じゃないじゃん。なんでそんな涼しい顔してるの。
俺は顔が熱くなるのを感じながら、慌てて背を向けた。
「はは、すまない主様。こんな婆の身体を見せてしまって」
「いや……大丈夫」
ありがとうございます、凄かったです。とにかく着ろって言ってんの! リリに宿の着衣を投げられた様で、アニエスは苦笑しながら着替え始めた。布が擦れる音が生々しい。
気になりすぎて……ちょっとだけなら良いかな、とゆっくり振り向こうとした時、無表情のアメルがこちらを覗き込んでおり、一気に身体が固まって冷えていくのを感じた。
「ふむ。中層に変異種がいる可能性、その前提でダンジョンは封鎖。現状、実力のある者のみ、推薦状があれば入れると。主様、その推薦状は持っているのかい?」
「うん、ギルドの職員さんから貰ってる」
アニエスへダンジョンの現状を伝え、今後の方針を提案してもらうことに。アニエスは少考した後に、こう言ってきた。
「そうか……鍛えるには丁度いい。主様、イッカクを連れて中層まで行っておいで」
「……嘘でしょ?」
てっきり、様子を見ようとか、そうじゃなくても全員で中層まで行く、って言われるのを想定してたんだけど。
「アニエス、それって……イッカクと俺で中層へ、って事だよね?」
「ライムは連れて行くのだろう? 過剰な戦力は主様の為にならない」
そう告げるアニエス。過剰で良いんだけどなぁ、不安でしょうがないんだけど。
「アメルはどうするの?」
アメルは多分、一緒にと言ってくれるはずだ。その言葉が出たら情けないけど、アニエスへアメルも一緒にとお願いしよう。行くにしても光源が破壊されているダンジョン。俺では眼を凝らした所で何も見えない気がする。アメルが居てくれれば、索敵もしてくれるし安心だ。
そう思っていたが、アメルの反応は予想外のものだった。
「カイルさんも含め、皆さん強いですし大丈夫だと思います。なので、今回は辞退させて下さい」
「そ、そっか。分かった」
俺へ深々と頭を下げるアメル。そ、そこまでされると無理に付いてきてとも言えないな。アメルは顔を上げた後、アニエスへ視線を向けた。
「カイルさんが中層へ行っている最中、私はアニエスさんにお話がありますので」
「ほう?」
真剣に告げるアメルへ、不思議そうに返すアニエス。
「リリは?」
「私? 行ってもいいけど、その後……覚悟しなさいよね」
今夜は寝かさないわよ? と意地悪な笑みを見せて言うリリ。
「じゃあいいや」
「なんでよ!」
その後もリリが何か言っているが、一旦そのままにしておいて。となると……まじで俺、ライム、イッカクだけで向かうのか。
「イッカクが居れば、大抵のことはなんとでもなる。余程であれば、いつでも呼んでおくれ」
「……すぐ呼ぶかも」
冗談が上手いね、とアニエスが微笑む。本気も本気なんだけどな……。
こうして俺は、中層という未踏の地へ、パーティーメンバーを絞って行くことが決定してしまった。




