ダンジョン前の様子.2
ちょっと長いです。
こちらまで歩いてきたリョウさん。ビーティンさんが俺達をじっと見る中、リョウさんが口を開いた。
「B級へ昇格したんだってね、おめでとう」
「いえ、パーティー単位でですし……俺自身はまだC級で」
その辺分かりにくいよね、とリョウさんは笑う。
「B級へ昇格したパーティー……カイル? まさか貴様……オーガキラーか!?」
「ビーティンさん、貴方位ですよ、顔知らないの」
そう言って、リョウさんは苦笑している。ビーティンと呼ばれた人は、俺をじろじろと観察し始めた。
「この男が、D級でオーガを倒したと……? とてもそうには見えんが」
「主、ドウスル?」
イッカクが俺へ声を掛けてきた。どうするじゃないの。嬉しいけど、何やる気満々なの。
「あの時は従魔、それに仲間達のおかげでなんとかです。俺自身は、そんな大層なもんじゃ無いですよ」
「……ふん、身の程を弁えているだけ、その辺の冒険者よりは聡い、か。リョウ、本部へ現状の報告を忘れるな!」
「はーい」
そう言ってビーティンさんは、俺達から離れダンジョン入口にいる職員の元へ。テキパキと指示を出していた。
「ごめんねカイル君。あの人、とっつきにくいだけで良い人なんだよ?」
「そう、なんですね」
流石に初対面だと、あの喋り方には後退りしてしまうな。リョウさんはイッカクを見た後、質問してきた。
「あの個体も、カイル君の従魔かい?」
「はい、イッカクって言います」
ふぅん、とリョウさんは興味あり気にイッカクを見続けていた。
「リョウさん、ダンジョンの中って今どんな感じなんですか?」
俺が尋ねると、リョウさんは俺に視線を戻してくれた。
「そうだね、目印を一つずつ潰されている感じ。今は四本目までが壊されていて、順路の三本目間近でオーガと対峙してきた所だよ」
「え!? リョウさん大丈夫だったんですか!?」
「そりゃあもう、一目散に逃げてきたよ」
リョウさんは、いやぁ危なかったなんて言っているけど。そもそも戦闘職、それも熟練した職員じゃないとダンジョンには入れないはずだ。なんなら一般の冒険者と同様、ビーティンさんに止められてそう。
ダンジョンに入ってきたのかと思う程、いつも通りのリョウさん。やっぱり強いんだな。
「それで、カイル君達はダンジョンへ入りたいのかい? ランク的に問題は無いけど」
ジェシカさんが教えてくれたが、改めてリョウさんからも話を聞く。
現状、B級以上のパーティーなら入っても良いということらしい。俺達は、その条件を満たしている。つい先日にだけど。
「でも今は特例で、ギルド職員からの推薦がいるかな。そのパーティーや個人に何かあった場合、推薦した人の責任が問われるみたい」
非常事態だしね、とリョウさんは言う。リョウさんの言い方が軽快で、本当に非常事態なのか疑ってしまう。
「リョウさん、その……オーガの変異種って、居るんですかね?」
「うん、間違いなく居るね」
「……っ!」
俺の質問に、リョウさんは即答した。
「オーガの知能は低い個体が殆どだ。カイル君も知っているだろう?」
「はい」
特に赤色は反応も鈍いしな。
「それなのに、順路の目印を丁寧に潰しながら地上へ向かってきている。これは、どう考えてもおかしい」
「それは、変異種が壊しているって事ですか?」
俺達が出会ったのはオーガではあったけど、変異種じゃなかった。
「そうかも知れないし、違うかもしれない。以前現れた変異種は、他の個体を操作する能力を持っていたんだ。さて、今回はどうかな?」
まぁ、進行は遅いし以前ほどじゃないかな。まーた間引きがって言われちゃうよ、とリョウさんは嫌そうに呟く。
「もし行くようだったら、推薦は僕がしても良いけど。カイル君、今って時間ある?」
「あ、はい。大丈夫です」
じゃあちょっと付いてきて、そう言ってリョウさんはどこかへ向けて歩き始めた。俺達も慌てて後を追いかけていく。
そうして着いたのは草原。
「よし、ここなら良いかな」
「あの、リョウさん。なんで草原に?」
確かめたいことがあってね、そう言ってイッカクへ視線を向ける。
「角を隠しているようだけど、彼はゴブリンキングじゃないね。オーガなんだろう? それも、変異種だ」
「!?」
ーー眼の良い奴には見破られる。アニエスが言っていたことを思い出した。リョウさん、鑑定持ちなのか!?
「リ、リョウさん。これはですね」
「分かってる、大事にしたくないからって事だよね? それは良いんだ。今からするのは確認だよ」
「確認?」
うん、とリョウさんは頷く。
「ダンジョンに居るオーガの変異種。さっきもいった通り、その個体は同種を操る能力を持っていたんだ。イッカクといったね、君が操られてしまっては正直、困るんだ。もし操られるにしても、強さはどの程度なのか今の内に把握しておきたい」
ほら、僕も一応ギルド職員だからさ、万が一に備えないとね。そう言ってリョウさんは笑う。確かに、イッカクがもし操られてしまったら……俺じゃ敵うはずもない。アニエスなら大丈夫なんだろうけど。命令すれば、こちらに軍配が上がるのか……その辺も怪しい所だし、不確定な部分が多すぎる。一応、主である俺がこんななんだし、リョウさんが懸念するのは仕方ない事だ。
「大丈夫ダ。今回ハ、ソウイウ感覚ガ無イ」
リョウさんの言葉に、イッカクが答える。
「へぇ……前回はあったって事だよね?」
「アノ時ハ、アニエスガ手ヲ貸シテクレタ」
「【東の魔女】が、ね。カイル君、【東の魔女】さんは?」
「アニエスですか? 今は自分の家にいると思いますけど。呼びましょうか?」
そう言うと、リョウさんには珍しく、少し慌てた様子で手を振ってきた。
「い、いや、大丈夫。ありがとう。そしたらイッカク……で良いかな? 君の力がどんなものか、一度見せて欲しいんだけど」
俺の方を見てくるイッカク。俺もイッカクの本気を見たい気持ちはあるけど……あ、そうだ。
「イッカク、融合した時のスキルに鬼火っていうのがあったんだけど。それ、見てみたいな」
「……鬼火、カ」
イッカクと融合した時のスキルは、鬼火、筋力強化、硬質化、状態異常弱化というものだった。その時、千変万化は確認出来なかったから、契約時に発現したスキルは、俺自身のスキルを発動している時だけ使えるとみて良さそうだ。
「主、少シ離レテイロ」
イッカクはそう告げて、両手を広げる。すると、イッカクの掌から炎が。それは赤と青色で、段々と炎が立ち昇っていき、炎はイッカクを包み込める程の大きさになった。距離を取った俺達にも、とんでもない熱気が届いている。
「まじ……?」
リョウさんは眼を見開き、呟いていた。
「イッカク、それが……?」
「アア。朱ト、碧ダ」
それぞれ性能が違う、とイッカクは告げる。え、炎に能力まであるの? なにそれ、めっちゃ知りたい。どんな能力があるのか詳細を聞こうとしたが、その前にリョウさんが声を掛けてくれた。
「ありがとう、もう大丈夫。君が強いのはよく分かった」
俺がイッカクへ向けて頷くと、鬼火はスッと宙へ消えていった。
「……重ねて聞く事になるけど。イッカク、今回は操られそうな感覚が無いんだね?」
「アア、問題ナイ」
リョウさんは、その言葉を聞いて紙を取り出し何かを書き始めた。書き終わったであろう紙を俺へ渡してくる。
「はい、推薦状だよ。ダンジョンは、ビーティンさん達が警備をするだろうけど、その紙を渡せば通してくれる」
それじゃ、僕は報告があるから。またね、そう言ってリョウさんは早々に去っていってしまった。……ほんと、身軽な人だな。
「俺達も一度戻ろう。入れるようになったとはいえ、情報はパーティーで共有しておいた方がいい」
参謀になってくれたアニエスへ方針を仰ぐべく、俺達は一度宿まで戻ることにした。
いつも読んでくださり、ありがとうございます。6/5(金)と来週は、投稿をお休みします。主に清書作業の為です。
楽しみにして下さってる方々には、いつもご迷惑をお掛けしています。のんびりとお待ちください。




