決意と結果
ちょっと長いです。
「よし……行くか!」
朝、俺は頬を両手で叩き気合いを入れて家を出た。スキルの不動は寝ている時以外、常時発動出来るようになった。意識していなくてもだ。これでようやく、胸を張ってあいつらと歩ける。
「……にしても、早く出て来すぎちまったか」
気合い、入れすぎたな。ギルドは開いているが、カイル達はまだ朝食とかだろう。どうしたもんかと頭をかいていると、住民から声が掛かった。
「おう、アミカ。今日は早ぇな、どうした?」
「早いのはそっちだろ、おはようさん。カイルに、いや、オーガキラーに会おうと思ったんだが早く来すぎちまってな」
「オーガキラー? あぁ、そういや朝早くティアジャールんとこ行くのを見たぞ?」
「ほんとか? ちょっと行ってみるわ」
武器の手入れでも頼むんじゃねぇか? あそこの開店時間は知らねぇけどな、と住民は笑った。こういう時、顔が広いってのは便利だよな。ありがとよ、と告げ俺はティアジャールさんの店へ向かった。
向かう途中で、件の人を見つけた。カイルだ。隣には、カイルよりデカい奴がいるな。なんなら俺よりデカそうだ……人か? あれ。
「おう、カイル。それと……新しい従魔、か?」
「! アミカさん!」
俺が手を上げると、カイルが嬉しそうにしてくれるもんだから、こっちも嬉しくなっちまった。その場で少し話をすることに。嬢ちゃんがジュエレールで水の巫女になった話。隣にいる従魔の話。
「アミカさんの方は、どんな感じですか? やることが出来たって、そこから少し経ちましたけど」
カイルの一言で思い出した。そうだ、今日はそれを伝えに来たんじゃねぇか。俺は真剣にカイルへ伝えた。
「俺をーーーーお前達のパーティーへ入れてくれ」
カイルは本当ですか!? と嬉しそうにしてくれたが、あ、と何かを思い出したかの様な声を出した。
「どうした?」
「あ、いえ。仲間になってくれるのは嬉しいんです。実は……」
そう言って詳細を話してくれた。今一緒にいるイッカクというゴブリンキングの変異種、なんちゅう魔物を従魔に加えてんだと思ったが。コイツと共に仲間になった従魔がいる。その従魔にパーティーの核となる参謀を任せたと。
「おい、人のパーティーにケチをつけたい訳じゃないが……大丈夫なのか、それ?」
「【東の魔女】って言われてる人で、魔物になってしまったらしいです。俺なんかより、博識なんですよ」
カイルはそいつを信用してるみたいだった。元々カイルはお人好しだから、その辺りはしょうがない所なんだろうが……しかし、【東の魔女】か。どっかで聞いた気がするな。魔物になった? なったってなんだ?
「そんな訳で、仲間の人選も一任しちゃっているんです。俺が独断で決めちゃうのも違いますし、アミカさんなら問題無いと思います。一度、会ってみてもらえますか?」
「あぁ、構わないぜ」
じゃあちょっと聞いてみますね、と言ってカイルが上を向き始めた。少し見ない間で、訳の分からん行動が増えたな……本当に大丈夫なのか? カイルが少ししてこちらを向き直る。
「アミカさん、午後にギルドへ行ってみてもらえますか? 会えばすぐ分かると思います」
「お、おぉ? カイルお前、今何してたんだ?」
「あぁ、その従魔になってくれた人が、どう言ったらいいかな……頭の中に、連絡用の回路を繋げてくれたみたいで。それで話をしてました」
「だ、大丈夫なのか? それ」
大丈夫です、笑顔でそう告げるカイル。いい加減心配になってきた。そいつに会ったらひとこと言ってやろう、そう心に留めた。カイルは午後、昇格の為領主と謁見があるらしく、その場は解散した。
「領主と謁見……てことは、B級クラスって事だよな」
いくらなんでも昇級までの速度が早すぎる。聞いた話では、今回はパーティー単位での昇級らしいが。それでもだ、どうなってんだ?
「お主が【重戦士】か?」
ギルド前でそんな事を考えていると、声を掛けられた。女性二人組だ。珍しい、黒髪と真紅の髪色をした女性達。
「アミカだ。カイルが連絡を取っていたってのは、アンタか?」
俺は女ウケするタイプじゃないしな。
「……付いておいで」
そう言って女性は先に行ってしまう。慌てて追いかけると、人目に付きにくい所に着いた。不思議に思っていると、急に地面が光り出す。
「な、なんだ!?」
「【重戦士】のくせに慌てるんじゃないよ。いや……あやつもこんな感じだったか。とにかく、主様に要らぬ迷惑を掛ける訳にはいかないからね」
そう【東の魔女】であろう女性が告げた瞬間、景色が移り変わった。
「……は?」
どこだ……ここ。辺り一面、森じゃねぇか。
「呆けてるんじゃないよ、こっちだ」
そう言って、またもやさっさと歩いていってしまう。この森、まさか……東の所か!? 迷えなくなったと聞いていたが、そもそも道が分からねぇ。迷ったら終わる! そう思った俺は、見失うまいと二人の後をついて行った。
到着した場所には、半壊している古家があった。こ、この人の家……なのか?
「お掛け」
そう言って【東の魔女】は座り、もう一人の女性は従者か何かだろうな。飲み物を淹れ始めていた。
俺も対面の椅子へ座らせてもらう。色々ありすぎて混乱してきたが、今一番気になる事を女性に聞いてみた。
「ち、ちょっと確認させてくれ。アンタは、【東の魔女】なんだよな? 本当にカイルの従魔なのか?」
正直言うと、カイルに仕える必要は無いはずだ。ここまで一瞬で来た事といい、多分魔法の類だろう。凄ぇ力を持っているのは明らかだ。そんな奴がわざわざカイルの下に? となると……まさか、恩恵が目当てなのか?
「……そうでなければ、お前さんと話す必要もないだろう? 強制された訳じゃないが主様の頼みだ、話は聞こう。パーティーの一員になりたいとの事だが」
「あ、あぁ。そうだ」
話してると、まじで人みたいだな。ホントに魔物なのか? 会話も流暢で、俺なんかより余程頭も良さそうだ。実物を見るまで心配が勝っていたが、改めてカイルを見直した。
「では【重戦士】よ。お主のスキルを教えておくれ」
「個人スキルの話か?」
「【職業】と個人、どちらもだ」
俺は個人スキル、不動の詳細と、【重戦士】の挑発があることを告げた。【東の魔女】は眼を見開いており、俺はしてやったりと更に話を続ける。
「前衛の盾としてピッタリのスキルだろ? 不動も最近ではあるが、常時発動を可能にした。一人だけへばるみたいな事も、もう無い」
俺の発言を聞いていた【東の魔女】は……頬杖をつきはじめた。なんだ? これ、呆れてるような顔に見えるが。
「なんだい、主様が出会った時から【重戦士】だと聞いていたが、スキルは挑発しか持っていないのかい?」
「? あぁ、【重戦士】は元々挑発しかないだろ?」
故に不遇な【職業】として位置づけられているが、俺は挑発の扱いには自信がある。ギルド職員からのお墨付きだ。にしても、面白いことを聞くもんだな。【東の魔女】は俺の発言に対してだろう、深い溜息を吐いた。
「はぁ……【重戦士】と聞いて少しは期待していたが、やはり今の者達はこんなものか。ーー不合格だ。お前さんは、うちのパーティーに必要ない」
「……は?」
淡々と言われた事に、一瞬頭がついていかなかった。
俺は納得出来ず、苛つきながら【東の魔女】へ問い詰めた。
「おいおい、そりゃないだろ? そもそも、実力も見てないのに、スキルだけで決めつけないでもらおうか」
当然だ、こっちは生半可な気持ちで来てる訳じゃねぇ。
「自解も満足に出来ない者が調子に乗るな。ホムラ」
「はい」
「抜刀を許可する。身の程を教えておやり」
「ハッ!」
付いておいで、と促され俺達は古家の外へ。
「何しようってんだ?」
「この娘、ホムラの攻撃を全て防ぎ且つ、一撃でもかすればパーティーの一員になることを許可しよう」
「ほぉ、それなら分かりやすくていい。二言は無いだろうな?」
「出来るものならやってごらん」
そう言って【東の魔女】は後ろへ下がり、立ち塞がる様にホムラと呼ばれた女性が俺の前に立つ。俺は武器を取り出し、ホムラへ告げた。
「ホムラって言ったな。怪我しねぇ様に手加減はするからよ、そこは心配しないでくれ」
その瞬間、辺りが熱気に包まれた。な、なんだこれ!? 熱っ! 発生源は、眼の前にいるホムラからだった。身体から火が立ち昇っている様に見える。に、人間じゃねぇのか!?
「……舐められたものです。カイル様の友人と伺っていたので、どう手加減しようかと考えていましたが……その必要は、無いみたいですね?」
眉間に皺を寄せて笑顔を見せるホムラ。そこから一足で距離を詰められた俺は、慌てて大盾を前に出す。と同時に途轍もない衝撃が走り、不動を発動していたにも関わらず、俺は体勢を崩し地面を転がってしまった。
「くそっ!! まだまーー」
起き上がろうとする俺の首筋へ、熱気を帯びた剣がゆっくりと当てられる。熱いはずなのに、血の気が一気に引いて寒くなった気がした。
「やはり、この程度か」
近くで声がする。見上げると【東の魔女】が無表情でこちらを見下ろしていた。
「主様のよしみだ、チャンスをやろう。お前さんがこの現状を受け入れ、それでも仲間になりたいと願うのであれば。今度は自力でここまで来てごらん。そうしたら、今と同じ条件でまたやってあげよう」
どこか諭す様に告げられ、【東の魔女】が手をかざしてきた。東へ来た時と同じく、景色が一瞬で移り変わり、俺は見覚えのある場所へ一人戻ってきたみたいだ。ここは、ギルド前か。【東の魔女】とその従者、ホムラの姿はなかった。
「は、はは……なんだアイツ等……ただの化物じゃねぇか」
あれだけ頑張って、常時発動を習得したのに。ようやく胸を張ってカイル達と歩けると思ったのに。ーーーーこんなものか、不合格だ。【東の魔女】に言われた言葉が、頭の中を駆け巡る。
「……畜生っ!!」
近くにあった壁に怒りをぶつける。周りの住民がざわつく中、俺は物に当たり、悔しさを噛みしめることしか出来なかった。




