謁見
「ギルドの方、今そんな感じになってるんだ」
「はい。昼前になって落ち着いてきたから、もう大丈夫ってセラさん……えっと、カイルさんを診てくださった医療班の方が言ってくれたので」
「あぁ、あの人ね」
優しそうな人だったのを覚えている。俺達は領主へ謁見、そして昇格の書状を受け取るため、領主宅へ向かっていた。アメルに聞いた話だと、ダンジョンの上層、その丁度中間くらいまでオーガが来ているという。そんな中、俺達は呑気にしてても良いのかな。
「カイルさん、ジェシカさんからの伝言です。『こっちは気にしなくていいから、先ずは領主に悪印象を与えないように! 必要時は呼びに行くわ』だそうです」
「そっか。じゃあ、今は謁見の方に力を入れないとだね」
先読みされちゃったな。まぁ、二年以上顔を合わせているし、俺の考えもバレバレか。一つずつこなしていこう。俺達は遅れないように、領主宅への進みを早めた。
領主宅前に到着。外観だけでも、とにかく大きいのが分かる。警備も厳重で、騎士団が担当しているみたいだ。知っている人もちらほら見かける。入口の警備をしている騎士団へ、昇格の為謁見へ来たことを伝えると、中まで案内してくれた。
「ここはかなり広いものですから。それに、時間厳守の綴りがあったと思います。その、領主は自分の時間を大切にされている方で。それを乱されたくない、という事みたいです」
「なるほどです」
話しながら、俺達は一際大きい扉の前まで来た。案内してくれた方は、扉前にいる騎士団へ話を通してくれていた。俺達へ挨拶し、持ち場へ戻っていった。
「昇格の書状を賜る為、謁見と伺いました。ウィズテーラスの皆さんで間違いありませんね?」
「はい」
「くれぐれも不敬の無い様お願いしますーーーーアロガンス様、ウィズテーラスの方々がお見えになりました」
「通せ」
騎士団が扉を開けると、広い空間が顔を出す。目線の先には段差があり、そこに王座、といっても過言ではない装飾が施された椅子へ腰掛ける人物が。その後ろには、それも部屋の装飾なのか分からないが、綺麗な剣が台座へ突き立てられていた。大剣、か? 大きいな。
座っている男性は、若く見えるが少し小太りという印象が強いか。
「--私が三代目領主、セバンタート・アロガンスだ」
そう名乗った領主は、俺達をどこか睨みつける様に言い放った。
「此度はB級への昇格だったな? ウィズテーラスとやら」
「は、はい。そうです」
俺が返事をすると、面倒くさそうに側で護衛をしているであろう人に、持ってこいと告げる。紙を受け取った領主は、そこへ何か書いている様だ。
「B級以上の昇格からは、私の直筆となる。有難く思え」
領主からそんな言葉が飛んできた。そういえば、今までの書状はサインだけだったか。それにしてもえ、えらく横柄な態度だな。
「こんな短期間で、まるで飛び級ではないか。ギルド本部は何をしているんだ全く……ほら、何をしている。書き終わったから取りに来い」
「は、はい」
領主の側まで向かい、護衛が見守る中書状の紙を受け取る。今回は個人の昇格ではなく、ウィズテーラス自体の昇格とジェシカさんが言ってくれていたな。アニエス氏がいるならB級でも低いくらいよ! といつにも増して熱が入っていたし。
「……お前がリーダーか。住民からはオーガキラーと、随分名が知られているそうではないか」
返事をしようとしたが、領主は矢継ぎ早にこう言ってきた。
「ーー囃し立てられているようだが、あまり調子に乗るなよ? 中央都市の領主は、私だ」
下がれと言われ、かろうじて分かりました、と返事を返すことしか出来なかった。な、なんか俺、嫌われてる?
「すると、そっちのが水の巫女候補か。名を何という」
「……アメルです」
領主が尋ねると、アメルはぶっきらぼうに答えた。ち、ちょっとアメルさん? 睨まないでおこう? 領主なんだから。
「肩に水鳥か……ふん。ジュエレールとの交易が以前より盛んに、そして円滑となった。褒めてやろう。中央都市繁栄の為、ジュエレールからの要求には積極的に応える様に」
「善処します」
アメルを一瞬睨むように見つめた領主は、溜息を吐いた。
「……もう用は済んだだろう? 私は忙しいんだ、下がれ」
と告げ、俺達を見ようともしなかった。
西の都ジュエレールの領主であるルーベルさん。領主として比較対象がそこしか知らないから、そもそも比べたりしちゃいけないんだけど。なんだか……当たりの強い人だな。人数を絞っておいて良かった。リリが居たらエラいことになってたぞ、これ。
【……嘆かわしい】
こちらも、ずっと嫌な空気にさらされるのは嫌だから、会釈をして扉へ向かおうとしたんだけど……どこからか、声がした。
「……?」
「カイルさん?」
俺達でも無いし、領主の声でもない。振り向くが、人数が増えた訳でもないな。辺りを見渡していると、領主と眼が合ってしまった。
「……なんだ、まだ何かあるのか?」
「い、いえ」
「ならばさっさと行け、私は忙しいんだ」
領主の手を振る仕草に少し苛つきを覚えながらも、俺達はその場を後にした。
【貴方は、もしや……待っていますよーー可能性の子よ】
部屋を出て、扉を閉め切られる前に、そう聞こえた気がした。




