ギルド医療班.2
「畜生っ!! なんでこんな事に!!」
「痛え!! 痛えよぉ!!」
「アメルさん! こっちに回復薬だ! 急いで!」
「はいっ!」
次々と担ぎ込まれる冒険者達。さっきまでの静けさが嘘みたい。私は回復薬をセラさんに渡す。ありがとうと言い、足早に患者の外傷へ。同時に痛みによる大声が上がる。
「我慢するんだ! 貴方達は立派な冒険者だろう!?」
セラさんが鼓舞し、冒険者も応えるように歯を食いしばって、痛みに耐えていた。
その後、動けるようになった冒険者を、そのまま治療室から出る様にセラさんは指示していく。
「次の方を連れてきて!」
セラさんが入口の扉から声を掛ける。搬送の担当であろうギルド職員さんが、次から次へと患者を連れ奔走している。目まぐるしく続く、担ぎ込まれては治療してを繰り返す光景。
一度患者が居なくなったタイミングで、セラさんに尋ねてみた。
「医療班の方って、こんなに忙しかったんですね」
「いや、今日はおかしい。こんな短期間に、それも、パーティー単位で患者が運ばれてくるなんて。一体、何が……」
セラさんが考える素振りを見せた時、それを許さないといった様子で次の患者が運ばれてきた。【戦士】、【魔法使い】、それに支援職の様な格好の方が一斉に。
何部屋かある所にも、同じ様に振り分けられていくみたい。ほんとだ、いちパーティーがそのまま集団で。
「アメルさん、回復薬を!」
「は、はいっ!」
セラさんの掛け声で、私は回復薬を取り手早く渡す。腕を負傷した冒険者は、回復薬を掛けられて顔を顰めていた。
「ぐっ……い、医療班……本部に、報告を頼みたい」
「あまり喋らない方がいい。貴方はまだ軽傷の部類だがそれでも、傷に響きます」
「既出している情報なら、いい。だが、言っておか、ないと……」
それを聞いたセラさんが、真剣な面持ちで話しを続ける。
「報告は必ず、伺った後すぐにでも。この短期間で、これだけの冒険者が運ばれてくるのは異常だ。何があったんですか?」
「ダンジョン内……五本目以降の灯りが、消えていた。俺達は、その付近で、オーガにやられた。ギルド職員が、入口で制止してくれていたんだが……聞かなかった、俺達の失態だ」
「オーガだって!?」
セラさんが慌てて聞き返す中、ゆっくりと頷く冒険者。つい先日まで、灯りが消えていたのは八本目以降だったはずなのに。今はもう五本目の目印までオーガが来ている?
「アメルさん、一度ここを離れて大丈夫。ジェシカさんに今の話を伝えて欲しい」
「分かりました!」
私は部屋から飛び出し、ジェシカさんの元へ。ギルドのエントランスも、異様な雰囲気に包まれていた。朝、元気よく挨拶をしてくれたジェシカさんも、真剣な表情で職員さんとお話している。
「ジェシカさん」
声を書けると、職員さんと挨拶を交わし、その職員さんは慌ただしくその場を後にした。
「アメルちゃん、どうしたの?」
冒険者からの話を伝える。やっぱりそうなのね、とジェシカさんは納得した様子だった。
「今運ばれているパーティーは、ダンジョンへ向かった冒険者達よ。目印の光源が五本目まで壊されていた、それは提供された情報とも合っているわね。他にも、四本目近くでオーガに襲撃されたという報告も受けているの」
「ほ、本当ですか!?」
えぇ、とジェシカさんが頷く。四本目までくると、地上の明かりが見え始めてもおかしくない距離だ。そんな所までオーガが!?
「とにかく、ダンジョンは封鎖。上にも報告済みよ。まだ、患者が運ばれてくるかもしれないから、もう少し手伝って上げて」
真剣な表情で告げるジェシカさんに返事をし、急いでセラさんのいる治療室へ戻る。丁度、セラさんが治療をしている最中だった。
「くそっ! これ以上回復薬を使う訳には……」
セラさんが治療している冒険者は出血が酷く、かろうじて息をしているみたいだった。傷口が痛々しい。
「た、助からねぇのか!? なんとかしろよ医療班!!」
「私を庇ってくれたの! お願いします、助けてあげて!!」
仲間なんだろう。軽傷の部類だと思う彼等は、仲間を助けて欲しい一心で、その場から動こうとしなかった。
「わ、私の力では……」
セラさんが弱音を吐き、冒険者達も理解は出来るが納得したくない。仲間を失いたくないと、セラさんへ怒声に近い声を掛けていた。どちらも悪くない。冒険者の気持ちも分かる。でも、セラさんだって頑張っている。そんなに言わなくたって……。
私はセラさんに近付いて、肩に手を置いた。セラさんは身体を震わせながら、ゆっくりと私の方を振り向く。
「ア、アメルさん?」
私は笑顔を作り、セラさんの横へ座った。
「な、何を……」
「差し出がましい真似を、失礼します」
そう言って、患者に手をかざす。
「ーー癒しの羽衣」
ギルドの職員だけでなく、他の冒険者も見ているから……なんて、そんな悠長な事を言っている暇はない。私はスキルを発動し、透き通る水色の羽織りを出現させる。羽織りは患者へ覆いかぶさっていき、眩い光を発しながら彼を完全に包みこんだ。
皆、いきなりの光景に驚いていたみたい。
「あれ……俺……? ここは……」
光が収まり、何事も無かったかの様に起き上がる冒険者を見て、仲間の二人が飛びついていた。
「わっ!」
「お前ぇこの野郎!! 無茶しやがってこの!!」
「馬鹿、馬鹿っ! 貴方が死んだらどうするつもりだったのよ!」
そう言われた冒険者は苦笑していた。
「ここは……地上か。俺達、帰って来れたんだな。あの鬼から逃げれただけでも大したもんよ、な? 死んだらって、お前達の方が余程の怪我じゃ……って、あれ? 俺、血だらけだな」
冗談こいてんじゃねぇぞこの野郎! と嬉しそうに頭を叩く仲間達。セラさんは、何が起こったのか分からない、といった感じだった。
「セラさん」
「ア、アメルさん。今のは……貴方が?」
私は頷いて、言葉を続ける。
「無礼を承知で、お願いがあります。私はーー誰も死なせたくない。外傷のみ、という条件で重傷の患者がいたら、ここへ連れてくるよう伝えて下さい。私が、治します」
頭を下げると、わ、分かりました、と理解半分の様子で治療室を出ていくセラさん。冒険者達には、次の患者が来ますのでと退室を促した。
帰り際に、あの娘は神の使いに違いねぇ! と冒険者達の嬉しそうな声が聞こえたけど……私が神の使い。もしそうだったなら、お父さんもお母さんだって今頃……。
私が考える間もなく、全身傷だらけの患者が運ばれてきた。セラさんが不安そうに私を見つめる中、ゆっくりと頷きスキルを発動していく。連続でスキルを使うのは初めてだったけど、特に問題は無かった。怪我が全快した冒険者は、何がなんだか分からないといった様子で、自分の身体と私を交互に見返していた。
後からジェシカさんに聞いた話だけど、数十といる患者の中で、死者は一人も出なかったと感謝され、私は胸を撫で下ろした。




