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警告

 僕は報告書に眼を通しながら、段々と見るのを止めたくなってきた。


 カイル君が新たにフォレイトス、東の森でギルドの資料にも記述されている【東の魔女】、それにゴブリンキングの変異種を仲間にしたという。その資料、相当古いはずなんだけど……まぁ、カイル君だからその辺は千歩くらい譲ろう。それはいい。


 問題は、もう一つの報告。上層、およそ八本目の目印から灯りが消えていた事。同時に、その付近でオーガと対峙したと書いてある。これは……。


「えぇ……じゃあこれって、十数年周期で起こるって事……?」


 これ多分、百鬼夜行に類似してるケーズだから、遠からずその件とも関係ありそうだ。となると……居るのか、中層に。


 僕は上を向いて溜息を吐くことしか出来なかった。


「ど、どうしましたリョウ様!?」


「おいリン。お前がウザ絡みするからじゃねぇの?」


「そ、そうなんですか……?」


 だとしたらもう少し控えないとでもリョウ様とお話したいしあぁ……とその場でオロオロし始めたリン。


「落ち着いてリン、そんな事は無いからね」


 僕が手を振って応えると、リンは良かったぁ……と心底嬉しそうにしており、シャトーはその様子を見て呆れ顔をしていた。


 夕方から夜にかけて、彼女達は僕の部屋に居ることが多くなった。今ではかなり慣れてくれた様で、二人共よく話し掛けてくれる。


「リョウさんよ、また厄介事か? 全く、【監視者】にはその類しか来ないのかよ」


「そう言わないでよ。これは、今回カイル君達がダンジョンへ入った時の報告書」


 報告書を二人に渡す。が、二人はいまいちピンと来ない様だった。


「オーガキラーが化物なのはアンタも知ってんだろ? 二体増えた所で、何を今更」


「……そっちはもう半分諦めてる。問題はダンジョンの方」


「目印……光源が付いている場所の事、ですよね?」


「そう。自分の身を危険に晒してまで、わざわざ光源を壊す奴は居なかった。出ない保証はないけどね。とすれば、一緒に報告で上がっているオーガ。コイツが破壊したと考えるのが妥当だ」


 シャトーは、分からないといった様子で尋ねてきた。


「その目印付近で発見された、ってやつだよな? 何が問題なんだ?」


「二つある。一つ、オーガは上層に来ることは先ず無い。そして、オーガに光源を破壊する知能も無いんだ」


 僕の発言に、二人共驚いていた。


「そう、上層へ。それも、光源を破壊しながら八本目までオーガが来ている。これが問題なんだ」


 もはや異常事態とも言える。報告だと八、九、十と目印の光源を順に壊されていたみたいだしね。


「じ、じゃあ、その上層に居たオーガが変異種だった、という可能性はないですか? 彼らが討伐したんでしょうし、問題は解決したのでは……」


 そう言うのはリン。魔石も提示されたらしいから、討伐したのは間違いないみたいだけど。


「惜しい。変異種はいるはずだ。変異種にはしっかりとした知能がある、まだ中層で息を潜めていると思うよ」


「まるで会ったことある様な口ぶりだね、えらく詳しいじゃねぇか」


「……縁があってね」


 二人から報告書を返してもらい、再度それを眺めながら溜息を吐く。これは……本部に警戒を敷いてもらって、騎士団にも状況を伝えないとか。シュヴァリエちゃん……はしっかりし過ぎてるから、後でいいや。ヤマト経由で師匠だな。あそこに伝われば、とりあえずどうとでもなるし。


 でも、一回はこっちでも見に行かないとか。


「報告はこれからするとして、見に行くのは明日だなぁ……」


「そんな嫌そうに言わないでくれよ。付いていく俺達も滅入っちまう」


「あぁ、ゴメンよ。明日は朝早くなるから、二人共それだけ注意してね」


「わ、分かりました!」


「はいよ」


 アンタの方が起きれるか心配だよ、とシャトーに笑われてしまった。何かと言いながらも、二人共指示には忠実だ。有り難いね。


 僕は意識を切り替えて、スキルを発動。件の少年を視る。この場所は、オルトルか。対面に一人、他には誰も居ない。今は食事中みたいだ。リストの最重要人物になっている彼。暇がある時は逐一動きを確認していた。対面の女性、僕は面識が無い。となると……。


「あれが【東の魔女】ね」


 アレは……見るからにヤバい。絶対に対峙したくないと一目で思える程だ。と、幾つか展開している千里眼の一つへ向けて、【東の魔女】が視線を合わせてきた。……嘘でしょ? 僕へ向けられる鋭い視線に、悪寒が走る。


 そして、何か呟いたと思ったら、この部屋の地面が光り始めた。これは、師匠の……!?


 そこから、ゆっくりと長身の女性が現れた。真紅の髪を揺らしながら、女性は辺りを見渡していく。リンはいきなりの事に固まっていたが、シャトーはリンを庇うように包丁を持ち、女性へと向けて構えた。


「君は……」


「私が見知らぬ場所へ召喚された時ーーこれは、警告です」


 恐らく貴方でしょう、と女性は僕へ視線を向けて、宣告をしてきた。


「アニエス様にとって、貴方は不利益になる行為をしましたね? アニエス様は寛大な方ですが、次はありません。もし、もう一度そういった事を行った場合ーー」


 そう言って、女性は自身から炎を立ち昇らせ始めた。周囲へ、凄まじい熱気により火が燃え移っていく。


「貴方にそれ以降、安息の日が訪れることはないでしょう。アニエス様の機嫌一つで、命が終わる事を心に留めておきなさい」


 私で良かったですね、と一瞬だけ僕を睨むように見つめた女性。身体から出ていた炎を収め、人となんら変わらない姿へ戻る。そして、では失礼しますと告げて、部屋の入口から出ようとしていた。


「おい、待ちやがーー」


「止めろ、シャトー!」


 女性を止めようとするシャトーに、慌てて声を上げる。身体を震わせるシャトーに賢明です、と女性はそのまま部屋を後にした。


 ……普通に帰っていったな。帰り道とか分かるのかな?


「おい、なんで止めるんだよ?」


「今の見ただろう? このまま戦闘に入れば、ギルドが全壊するよ」


 やるにしても場所を選ばなくちゃね、僕がそう言うとシャトーは舌打ちをしながら包丁を置いた。


 発動したままの千里眼。そこに、指に魔力を纏わせた【東の魔女】が文字を綴っていた。


『楽しい時間を邪魔しないでおくれ』


 二人が、家具に燃え移った火を慌てて消そうとしている中、僕は千里眼を解いて、顔を覆いながら溜息を吐く。【東の魔女】に認識されてしまったであろう僕。だけど【監視者】として、カイル君と関わりは持ち続けないといけない。でも、そこには【東の魔女】も居て……。


「……もーやだ、師匠に全部投げたい。というか投げよ」


「リョウさん! ブツブツ言ってないでアンタも手伝ってくれよ!」


 燃え移った火を布で必死に叩くリン。大声で叫ぶシャトー。慌てている彼女達を横目に弱音全開の僕を、どこかで盛大に笑う声が聞こえた。

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