これからの動き
ちょっと長いです。
宿へ戻った俺達は、明日の事について話を進めた。
「じゃあ、領主宅へ書状を貰いに行くのは……確か、水の巫女の話も上がっていたはずだから、俺とアメルは確定で。ライムとアプサラスも一緒だね」
「はい」
「おー!」
後はどうしようかな。あまり大勢で行くのも迷惑かもしれない。
「……とりあえず、この面子でいいか。明日はよろしくね」
明日の事は、大まかにだけど決まったな。俺はアニエスに聞きたかったことを尋ねてみた。
「ところでアニエス。ダンジョンでの事なんだけど、何か分かった事とかある? 気になる所とか」
「そうだね……ある程度の現状は把握出来たと思うよ」
そしてアニエスは、どこから話そうかね、と考える仕草を見せた後、ゆっくりと話し始めた。
「主様が倒れた要因からいこうか。あれは慣れない魔法を使ったのもあるだろうが、主様自身のスキルが大きいと見ている」
やっぱり、そうだよな。俺自身のスキル、ブースト。身体能力を向上させる代わりに、使い続けると息切れや酷いと気を失ったりする。諸刃の剣の様な性能。
「個人のスキルは、本人の強い願いや思いが、色濃く反映され発現に至る」
「……ん?」
なんか今、さらっととんでもない事を聞いた気がするぞ? 個人スキルの発現条件みたいな……。
「主様やお嬢にもあるだろう? スキルが発現した、その時の思い出が」
言われてみると……思い当たる節があるな。アメルはどうなんだろう? 見ると、なんだか表情を曇らせていた。
「発現するしないの境は、強い願いや思いがあるかどうかだ。主様のスキルは、自身の肉体を超える力を発揮できる。その代わり、使い過ぎると反動が来る、といった類のものだろう」
融合はしてたけど、教えたわけじゃない。それなのに、具体的にどんなスキルなのかを把握出来ていた。やっぱり凄いな。……となると、スキルで息切れをしたり、しなかったりする理由もなんとなく分かった気がする。使い始めこそ、それはもう息切れし放題だったけど、今は少し使う程度なら息切れもなくなっていた。身体が、その動きをしても大丈夫になってきたんだな。
「ライムのスキルを使おうとして気を失ってしまったのは、主様がそのスキルを扱うにはまだ早かった、という事だ」
「そ、そうなるよね」
ブースト発動中のみ、ライムの契約した時と、その後に増えたスキルを使える様になっていたみたいだけど。使う前に倒れてしまう様じゃ、しばらくはお預けかぁ。
「そう悲観することもないよ。主様が、そのスキルに耐えうる肉体を持っていれば良いだけだからね」
「え、何かいい案があるの?」
「そうだねーー余暇時間を全て、イッカクとの戦闘訓練に充てるんだ」
多少は良くなると思うよ、とアニエスは告げた。イッカクと訓練か。確かに、格上相手のイッカクと訓練してもらえれば、俺の身体能力も上がるかもしれないな。
「イッカクは俺と訓練する、ってなったら付き合ってくれるの?」
「アア」
イッカクから快諾してもらえた。なら、お願いしようかな。その時はよろしく、とイッカクに告げた。
「パーティーとしては、イッカクが前線にいるし、お嬢が全方位を注視すれば問題無いと思うよ」
確かに。イッカクが前衛に来てくれたおかげで、パーティーの安定度は跳ね上がったしな。
「それに、アニエスもいるしね」
俺がそう言うと、アニエスは首を横に振った。
「いや、私といると冒険にならない。今回同行したのは主様の強化、それとこれからの指針を提示する為だ。私は、基本的に森の家に居るよ」
「そうなんだ。でも、なんで?」
「色々あるが……一番は、私と行動を共にすると日が暮れてしまうからね」
アニエスはそう言って苦笑した。
「もしかして、鈍足ってスキルのせい?」
俺が何の気無しに言うと、アニエスは信じられないといった様子で目を見開いていた。
「……従魔召喚の時もまさかと思ったが。やはり、頭一つ抜けているな」
「な、何の話?」
「主様がしていることは自解、という。人の身で、そこまでの自解を会得しているとは……主様の美徳だね」
今ひとつピンと来ない俺に、アニエスは自解の詳細を話してくれた。
「自分を解く、と書いて自解。個人スキルが発現した時に、脳裏をよぎっただろう? あの感覚を能動的に発動させて、自身のスキルを把握していく技能の事を指す。本来、スキルを全て把握している者など居ないに等しい。何故なら、ギルドの資料やそういった【職業】に当たる人物へ聞けば、大まかなスキルは分かるからね」
なるほど。皆、【戦士】だったり【魔法使い】、【斥候】等、ギルドにはそういった【職業】にどんなスキルが備わっているか書いてある。それに、そういう資料を見なくとも冒険者に聞いてみたり、一緒に探索へ行った時に見せてもらったりすれば、そっちの方が分かりやすいしね。
それに比べて【従魔士】は居た、という記述しかなく、周りに【従魔士】は一人も居なかった。だから、試行錯誤を重ねてはいつも自問自答をしていた。
アニエスが褒めてくれるって事は、少しはやってた甲斐もあったかな。
「意図せず使えていた者も確かにいるが……まぁ、例外だろう。主様の言う通り、私には鈍足というスキルがある。私は、走ろうとしても走ることが出来ない。これは明確に弱体化のスキルだ。だが、その代わりにーー無詠唱化を得た。そういう縛りにして、スキルを発現させた」
……まーたとんでもないこと言ってるね、この人は。個人スキルを発現させたって……条件が分かっているとはいえ、それを実際にやったっていうんだから。
「そんな訳だ。余程のことがあれば、召喚してくれればいい」
「分かった」
「ねぇ、この難しい話いつまで続けるのよ。私、お腹空いたんだけど?」
今回、一番何もしてないリリから声が上がる。
「そうだね、その前にもう一つだけ。アニエス」
「何だい?」
「このパーティーの、参謀? みたいな役割をお願いしたいんだ。この中だと、アニエスが一番博識だからさ。新たに仲間になりたい人がいれば、その選定も一任したいと思ってる」
アニエスが選んでくれた人なら、大丈夫のはずだ。
「それは……パーティーの役割としては、核になりうる立場だ。主様、本当に私で良いのかい?」
「うん」
俺が即答すると、アニエスは眼を細めて俺を見つめてきた。
「たった数日しか、行動を共にしていないというのに……全く。とんだお人好しだね、我が主様は」
「たまに言われるよ」
アニエスの言い分に、俺は苦笑しか出来なかった。もしかしたら反論があるかもなと思ってたけど、意外なことに誰も口を挟むことはなかった。皆、アニエスの実力を認めてくれているみたいだ。
「……主様」
「うん?」
「ーーーー従魔は主様からの命令には逆らえない、それがどんな命令であってもだ。命令に近い発言ほど、効力は強く発揮される」
「……まじ?」
なんか、またとんでもない事言ってない? この短期間に情報量が多すぎるんだけど。じゃあ、リリやアニエスにも命令出来るって事……だよね? い、色々マズくない?
「アニエス。ソレハ言ウツモリハ無イ、ソウ聞イテイタガ……良イノカ?」
ほら、イッカクもなんだか慌てている様に見えるし。
「ふふ……思わず口が滑ってしまった。主様、忘れておくれ」
イッカクとは対照的に、アニエスはどこか楽しそうに言っていた。その様子に釣られて、俺も笑ってしまう。
「努力するよ」
「ちょっと! 二人でキャッキャウフフしてんじゃないわよ! ご飯どうすんの!」
「あぁ、そうだった。それじゃ、話も済んだし皆でーー」
どこか外で食べようかと提案しようとした時、アニエスが話に割って入ってきた。
「すまないねリリ、今日は主様と二人で話したい気分なんだ。主様は借りていくよ」
「ババア! 何アンタ色気付いてんのよ! 待ちなさーー」
地面が光ったと思った瞬間、景色が移り変わる。ここは……宿の外だった。
「さて、主様よ。どこかゆっくり出来る場所を知っているかい?」
「あ、あぁ。とりあえず、オルトルに行こうか」
皆との埋め合わせは……今度するか。横で楽しそうにしているアニエスと、オルトルを目指しゆっくりと歩き始めた。




