ダンジョンの異変
ちょっと長いです。
ダンジョン上層、中間地点を超え進んでいく俺達。順路に設置されている目印は、これで八つ目になる。
「……あれ?」
そこで俺は、いつもと違う様子に違和感を覚えた。ーー八つ目の灯りが、消えていた。いつもなら周囲を明るく照らしている、順路に設置された目印代わりの光源。それが消えてしまっており、先の方は何も見えず闇が広がっている。なんでだ? この感じだと、九つ目、十つ目の灯りも消えているみたいだ。
「カ、カイルさん」
「どうしたの? アメル」
アメルから声が掛かる。その声色はいつもと違い、戸惑いが感じられた。
「……ここから先、多分、九つ目辺りの目印付近、なんですけど……オーガが居ます」
「オーガ!?」
誰かが臭い袋を!? いや、それは無いはず。すれ違うパーティーもいなかったし、この暗がりを先に進む様なら光源がいる。順路を通っているなら、アメルの眼に入るはずだ。
「確かかい? お嬢」
そう尋ねたのはアニエスだ。
「はい。色は分かりませんが二体、見えない所にいるならそれ以上かと」
「それは丁度良いね。おいで、ホムラ」
な、なにが丁度良いんだ? 地面が光り、ホムラさんが召喚された。
「アニエス様、お呼びで」
「これからすることを、主様の眼に焼き付けておかないといけない。分かるね?」
「ハッ!」
アニエスがそう言うなり、ホムラさんが手をかざす。すると、多数の火球が現れ、パーティーの周りを浮遊し始めた。ホムラさん自身も、何故か身体から火が出ている様に見えるけど……ち、ちょっと熱いぞ?
俺達の周囲は、ダンジョン内なのに細部まで明るく照らされていく。
「ア、アニエス?」
「あぁ、ホムラはこういう時役に立つ。動く松明と思ってくれたらいい」
「恐縮です」
動く松明って……。ホムラさん、そんな評価で良いの? これ、やってることかなり凄いよ?
さ、行くよとアニエスに促され、俺達はオーガの元へと進んでいく。正直、対峙したくはないけど……この面子ならなんとかなるだろうと思ってる自分がいた。
「お嬢、ここはいい。任せておくれ」
「……? はい」
先制を取ろうと、セロシキを構えたアメル。だけどアニエスに止められて、アメルは戸惑いを隠せないでいた。ホムラさんによる灯りで、俺も少し先にオーガが居ることを確認できる。リクに乗っていたアニエスが、そこから降りて俺の元へ歩いてきた。
「アニエス? どうした?」
「今から少し試したい事がある。主様、従魔融合してくれないかい?」
「分かった。じゃあ手を」
触れることが融合の条件なのは伝えてある。俺がそう言うと、アニエスは何故か楽しそうに口角を上げた。
「……口づけじゃなくていいのかい?」
面白そうに言うアニエスに対し、動揺を隠せない俺。後ろでは、殺すわよババア! と怒声が飛んでいた。どこからか、圧も凄い気がする。
「……勘弁してくれよ」
「なに、ほんの冗談さ」
楽しそうにしているアニエスの手を借り、従魔融合をする。アニエスがスッと身体へ入ってきた。
アニエスと融合した俺は、身長が伸びる。というかこの感じは、歳を取ったという言い方が正しいかもしれない。大人になった時の俺はこんな感じなのかなぁ、とどこか他人事の様に思っていた。
眼を閉じて、アニエスのスキルを確認していく。魔力強化、魔力量増加、並列詠唱、無詠唱化、不死、鈍足、というものだった。
やはり、魔法を扱うものとしては最高峰なんだろうな。並列詠唱と無詠唱化、この二つは特にヤバいやつだ。俺でも分かる。
もう昔に感じるが、ハディットさんは一つの魔法を詠唱し、それを放っていた。並列とあることから、恐らくアニエスは二つ以上、魔法を同時に且つ、それを無詠唱で放てるって事なんだろう。いや、おかしいだろ。
それに、不死か。契約時に不死の魔女と書いてあったから、それに由来するスキルのはずだ。文字通りの意味なら、アニエスは死んでも死なない事になる。いやいやいや……。
鈍足は多分、スキルとしては弱そうだ。昨日融合した時には無かったスキルが今、散見してる。昨日無くて、今確認出来た。昨日と今日で何か違う所……まさか、俺自身のスキル?
今は常時発動中だ。それこそ眼前にオーガがーーーー
(さて、聞こえるかい? 主様)
頭の中で声がして、俺は現実へ戻された。
(あ、あぁ。聞こえる)
(きこえるー!)
(おや、ライムとも話せるんだね。融合とは面白いものだ。さて、先に言おう。今から二つ、魔法を見せる)
魔法を? なんで俺と融合してやるんだ? それこそ、アニエスが単体で放った方が強そうだけど。
(使うのは主様とライム、二人が扱える属性のものだ。融合してるこの身体に直接教え込む)
成程、習うより慣れろの精神ね。ライムは、まほー! と喜んでいた。
(ただ、それを主様の身体で出来るかは分からない)
だから試してみたいと。
(分かった、主導権は渡す。やってみてくれ)
オーガはこちらに気付き、ゆっくりと向かってきていた。数は二体、いや、後ろにも二体居るな。計四体か。
(あいわかった。では行くぞ、主様。持っていかれるなよ?)
(え?)
ーーーー瞬間、頭の中を訳の分からない文字列が駆け巡り、同時に強烈な痛みが走る。
「ぐっ!!」
(あ、あたまいたいー!!)
あまりの痛みに思わず膝をついてしまう。ライムも、出会ってから初めての痛みを訴えている。スライムに頭部の認識ってあったんだな、と考えてしまった。そんな事を考えれるなら、まだ余裕があるかもしれない。
「カイルさんっ!?」
「ちょっとカイル! アンタ大丈夫なの!? ババア成分取りすぎなんじゃない!?」
「あ、あぁ、スマン。もう大丈夫だ」
痛みは段々と引いていき、立ち上がることが出来た。眼前では、イッカクとオーガが睨み合っていた。ホムラさんとアメルも、側まで来てくれている。
(詠唱は済んだ。主様、手を前に)
(こうか?)
俺が手を前にかざすとーーーーイッカクと睨み合っていた鬼が、何かに包まれていった。それは、黒い球体。そこだけ、一切の光を通さない程の漆黒で、オーガはあっという間に見えなくなっていく。やがて球体はゆっくりと霧散し、包まれたオーガはその場におらず、大きな魔石だけが残っていた。ど、どういう事だ?
(闇の抱擁、という。対象を闇で包み、抗えなければそのまま葬り去る魔法だ)
なにそれ、えらく殺意高いじゃん。近くにいたもう一体のオーガも、初めこそ動かなかったが、俺がなにかしたと分かった様で、俺へ向かって駆けてきた。青鬼だ。
(さて、もう一つだ。主様、手を振り上げるか、振り下ろすかしてもらえるかい?)
(ふ、振れば良いんだな?)
(左様)
俺は駆けてくる青鬼に向かって、腕を振り下ろした。すると、俺の手から何か飛んでいく感触があった。それが青鬼に触れた瞬間、袈裟斬りの形で身体が二つに分かれていく。
「ガッ……!」
青鬼が何かをする事もなく、肉体は崩れ魔石へ姿を変えていった。
(エアリアルカッター、呼び名が長ければ風刃、とでも呼んだらいい。切れ味の高い、風属性の刃を飛ばす魔法だよ)
いくら青いオーガとはいえ、一撃で真っ二つにするなんて……とんでもない斬れ味だ。闇の抱擁と風刃、どちらも俺から放たれた事に、未だ現実味が無かった。だけど、強烈に来る倦怠感に俺は嬉しい悲鳴を上げる。
だけど、まだだ。奥のオーガもゆっくりとこちらへ近付いてきていた。
(主様、慣れない魔法を使ったんだ。私が融合しているとはいえ、魔力量には限度がある。もういい、後はイッカクに任せて少し休むんだ)
(いや、俺も試したい事があるんだ。ちょっとやってみる)
(……何?)
俺の推測が正しいなら。俺はライムのスキルを確認していく。……あった! 擬態、分裂、それに……なんだ? 即時回復って。いや、今はいい。
俺は今まで、一番使いたかったスキルを発動する。
「ーー擬態っ!!」
俺の身体が光に包まれていく。そしてーーーー俺は何も考えられなくなり、周囲が闇に包まれていった。




