ダンジョンへ
「本当に伝えないまま来ちゃったけど……大丈夫なんだよな?」
翌日。俺達は中央都市のダンジョンへ向かっていた。称号持ちである俺達は、ダンジョンへ行ってきた、という報告をすればいいとジェシカさんは言っていた。一応、入口の職員さんに確認してみるか。
ダンジョン入口に到着し、職員さんと眼が合うが特に何も言われることは無かった。
「あの、すいません」
「はい、何でしょう?」
「えっと、称号持ちなら事後報告だけで良いと聞いて、ギルドに寄らずここまで来てしまったんですが……大丈夫ですかね? あ、っと。ウィズテーラス、リーダーのカイルです」
俺がそこまで言うと、職員さんは苦笑していた。
「はい、存じていますよ。オーガキラーとして、君の活躍を知らない人は中央には居ないんじゃないかな? 君の言う通り、ウィズテーラスの様な称号持ちパーティーであったり、高ランク帯の方であれば事後報告で構いません。お気をつけて」
「分かりました、ありがとうございます。行ってきます!」
確認も取れた、大丈夫そうだ。俺達はダンジョンへ歩みを進めた。
「よし……ここならいいな。おいで、リク」
ダンジョン入口が見えなくなった辺りで、アニエスが狼のリクを召喚した。リクの背に腰を下ろすアニエス。
「オホォ! 相変わらず丁度イイ柔らかさだなアニエス!」
「やかましい」
生々しい言い方をするリクの頭を、アニエスは拳で叩く。
「ババア、アンタから言い出したんでしょ。楽してんじゃないわよ」
そう言うのはリリ。
「すまないね、リリ。私に合わせると、どうしても進行が遅くなってしまうものでね。気にしないでおくれ」
そういえば、アニエスは常に最後尾を歩いていたな。パーティーから段々と遅れていたし。本人は疲れた様子とか無さそうだったけど。俺が考えていると、リクから声が掛かる。
「おう、サキュバスの女。なんなら、お前も乗せてやろうか?」
「嫌よ、臭そうだし」
「まぁ、そう言うなや」
リクが口角を上げたと思った瞬間、リリの身体が宙に浮く。
「え……?」
一瞬の出来事で、呆気に取られながら落ちてくるリリを、空いている背で綺麗に受け止めたリク。
「ホホォ! やっぱ女は柔らかくていいなぁ、オイ!」
そして嬉しそうに声を上げた。この狼、やはり下品だ……!
「……悪くないわね」
背に乗ったリリも、乗り心地の良さにまんざらでもない様子だった。
「主様、呆けておるぞ。さ、進もう」
「っと、ごめん。行こう」
眼の前で繰り広げられた光景に呆然としていたけど、ここはもうダンジョンなんだ。油断している場合じゃない。先頭には、オーガを圧倒出来ると思われるイッカクが。俺の少し後方にはアメルが。最後尾にはアニエスが居る。
滅多なことでは崩れないパーティーのはずだ。安心感が今までの比じゃない。
「カイルさん、前方から敵が来ます!」
「分かった!」
いつにも増して、アメルも気合いが入ってるな。いつもより早く声を掛けてくれた。
順路ではない暗闇から出てきたのは、ゴブリン四体。先頭にいたイッカクがこちらを向く。
「主、ドウスル?」
どうする? どうするってなんだ?
「イッカクが倒してしまってもいいか? という意味合いだよ、主様」
とアニエスから助言が。
「……いや、今回は俺達の動きを見たい、ってアニエスが言っているから、やらせて欲しい。ヤバい時は助けてもらってもいい?」
「分カッタ」
そう言って、イッカクは後ろに下がる。
「行くぞ!」
俺はスキルを発動し、ゴブリンの群れに突っ込んだ。ライムとは既に了解を得て融合済みだ。ライムの様にはいかないが、ほぼ一瞬で間合いを詰めた事に、ゴブリン達は驚いた様子を見せる。
俺は新しい愛剣、鬼斬を抜き横一線に薙ぎ払う。
「ガッ!」
「ギイッ!」
二体を一気に仕留めることが出来た。が、三体目は偶然剣の軌道にあった得物に防がれてしまった。
「主様、斬りつける瞬間に魔力を込める練習をするんだ。そうすれば今みたいな状況は起きない」
「分かった!」
後ろから、戦況を把握するアニエスによって的確な指示が飛ぶ。まだ手に馴染んでいない動き。俺は刀身に触れ、魔力が流れていくイメージをする。刀身に光の筋が走り出すのを視界に入れながら、仲間の死に戸惑いを見せる残りの二体を斬り伏せた。うん、当たり前だけどいつもよりスムーズだ。
「お嬢、発見の報告だけじゃなく【射士】であるお嬢が先手を取るんだ。前衛に任せきりになってはいけないよ」
「……はいっ!」
「今もそうだ。戦闘が終わった直後、一番弛緩してしまう。特に前衛はね。そんな時、私達後衛職が憂いを無くーー」
「分かりました!!」
アニエスがアメルにも指示を出してくれる。その指示はどれも的確だ。アメルはどこか足早に返事をしている様な……気のせいか。
「おいおい……マジかアニエス。お前、あの程度の男を主にしたってのか?」
そういうのはリクだった。
「……言いたい気持ちは分かるが、そうしなければお前も私も今ここに居ないんだ」
気持ちは分かるがって、アニエス……そこ擁護しようよ。リクも嫌な顔しないの。
「それに、伸びしろはある。それを確かめに来たんだ」
「そーかよ」
アニエスの言い分に、リクは呆れた顔をしていた。俺だって、立ち止まるつもりはない。もっと強くなりたいんだ。
ありがたい事に、戦闘の度アニエスからそれはもう的確な指示が飛んできた。こんなに直していく部分があるんだな、って少しヘコんだのは内緒。




