話し合い.4
「納得できませんっ!!」
「ア、アメル様……」
アニエスさんの言っていることが把握できた瞬間、私は椅子から立ち上がり叫んでいた。何? 足手纏いって。私だって頑張ってるんだ。
アニエスさんは深い溜息を吐いた。
「後から言うのもと思って、この場を設けたというのに、全く……聞き分けのない子は苦手だよ」
「そんな事知らない! 後から入ってきたくせに……大体、いざという時ってなんですか! ありもしない事を言わないで下さい!」
「ーー彼の者【従魔士】は、この世界そのものと関わりを持つ事になる」
「なっ……!?」
「これは、必然だ。初代、そして二代目もな。三代目となる主様、彼の者もまた、この世界の問題と向き合う時が来る。その時、私は主様だけで手一杯となるんだ。だが、お人好しな主様の事だ。お嬢が危険な状況となれば、我が身を顧みずお前さんを助けにいくだろう」
「それは……」
カイルさんが私のために。嬉しいことだけど、そのせいでカイルさんに傷ついて欲しくない。
「【従魔士】が死亡した場合、従魔になっている魔物その全てが、命を落とす」
「え!?」
じ、じゃあもしカイルさんが死んでしまったら、リリもライムちゃんも、それにアプサラスも、皆……?
「……分かったかい? 主様がお嬢の為に動く。となれば、我々も主様の命を護る為、その様に動かなければいけなくなる。そんな事をしている場合じゃないのにも関わらず、だ」
故に、足手纏いになるであろう私は、その時が来たら付いてくるな。そういう事なんだろう。
私は力を抜き、ゆっくりと椅子へ腰掛けた。アニエスさんは私の様子に、満足気な笑みを浮かべた。
「納得してくれたかい?」
「……お話は分かりました。ですが、納得できた訳じゃありません。私が嫌だと言ったらどうするんですか?」
「やりようはいくらでもある、とだけ言っておこう」
その時が来たら、アニエスさんは実力行使で私を連れていかいない、という事だろう。ここまで一瞬で来た転移陣、という魔法みたいなもの。これを使われたら、私ではどうにもならない。
「では、言い方を変えます。私は足手纏いにはなりません。アプサラスが居てくれれば百人力です。なので、付いていきます」
アプサラスが、肩で翼をバサッと広げた音がする。嬉しかったのかな? アニエスさんは私の言葉を聞いて、額に手を当てながら空を仰いだ。
「はぁ、ここまで聞き分けのない子とは……おいで、ホムラ」
アニエスさんの側で、地面が光る。現れたのは赤髪の女性、ホムラさんだ。ホムラさんはアニエスさんへ跪いた。
「アニエス様、いかがされましたか」
「聞いていただろう? 抜刀はするな、魔法も駄目だ。その上でーー圧倒しろ」
「ハッ!」
アニエスさんは立ち上がり、私へ告げる。
「おいで、お嬢。外へ出るんだ」
半壊した家から外へ出た私達。イッカクさんがこちらを見つめる中、アニエスさんがこう告げる。
「お嬢、精霊化をするんだ。その状態でホムラを倒す事が出来たら、同行を許可しよう」
ーーアニエスさんから条件が出た! 眼の前に居る女性、ホムラさんを倒せれば、カイルさんといつまでも一緒に冒険出来る!
私は気合いを入れて声を掛ける。
「アプサラスっ!!」
「精霊憑依!!」
アプサラスも顕現のスキルを発動し、私のやる気に応えてくれて素早く憑依をしてくれた。水の精霊化、その状態になった私を見たホムラさんは、何故か笑みを見せていた。
「流石はアニエス様。久方振りの感覚……胸が踊ります!」
直後、ホムラさんからとんでもない熱気が。
「おっと」
アニエスさんは、慌てて結界を展開したみたいだった。ホムラさんの身体からは、節々に炎が立ち昇っている。
「アメル、と言いましたね。構えなさい。恨みはありませんが、水の精霊相手に手を抜くことは出来ません」
その言葉に、私は急いでホルダーからセロシキを抜き取り、構えた。ホムラさんは人型のなにかであって、人ではないんだろう。銃を構えても、誰一人驚く様子も無かったし。いざという時は、ホムラさんの足を撃って動きを止める!
私はそう思っていたが、ホムラさんが何故か不思議そうにしており、一度アニエスさんの方を振り向いていた。
「ア、アニエス様……?」
「構わん、やれ」
「……分かりました。アメル、一つだけ忠告しておきます」
「な、なんですか」
「ーー私に、物理的な攻撃は効きませんよ?」
「え!?」
銃が効かない!? でも不思議そうにしていたホムラさんを見ていたら、嘘を吐いているとは思えない。そんな事を考えている内に、ホムラさんが一瞬で眼の前に現れ、突如、身体に痺れる様な痛みが走る。
「うぐっ!!」
(アメル様!)
お腹を殴られたみたいで、私はそのまま膝をついて倒れてしまった。ホムラさんを見上げると、どこか困惑している表情だった。
「水の精霊化をしておいて……こんなものなのですか?」
それはどこか有り得ない、という言葉に聞こえた。そんな私の視界に、ゆっくりとアニエスさんが歩いてくるのが見える。ホムラさんにご苦労と告げると、ハッ! と嬉しそうに膝を着いていた。
アニエスさんは、上から私を覗き込む様に見つめてくる。……止めて。
「口ではなんとでも言える。分かったかい? お嬢。身の程を知るんだ。私は、引き際を間違えて命を落とした者を何人と見ている。ホムラ、あの娘を倒せて最低限だ。出来ないようじゃ、とてもじゃないが連れていけない」
アニエスさんのその言葉には、何の抑揚もなく、淡々とした事実だけを告げていた。
宿に戻った私を遅かったね、大丈夫だった? とカイルさんが声を掛けてくれた。その優しさが嬉しくて、同時に少し悔しくもあって。私は努めて笑顔で大丈夫です、と応えた。




