新しい相棒
ギルドを出た所で、馴染みのある桃色の髪をした女性が居るのを発見する。リリだ。道行く冒険者を立ち止まらせており、度々声を掛けられていた。全て無視してたけど。リリはこちらを見つけると一瞬嬉しそうな顔をしたが、すぐに眉間に皺を寄せながら近付いてきた。
「誰よ、その女。浮気?」
そして、開口一番これだった。……喋るとこれだもんなぁ。まじで仲良くしてくれよ?
「新しく従魔になった、アニエスとイッカクだ。アニエス、従魔のリリだよ」
「へぇ、この娘が」
アニエスが見つめる中、リリはアニエスに近寄った。
「どーも、カイルの女です。よろしくー!」
そう言って、俺を引っ張り腕を絡めていくリリ。
「ちょ、リリ!」
「ふふ……アニエスだ。主様はモテるんだね」
アニエスは楽しそうに笑っている。いや、助けて? お構いなしに、アニエスは話を進めていく。
「では主様よ。仲間と一人ずつ話したいんだが、良いかい?」
「あ、それなんだけどちょっと待って欲しいんだ」
そう告げて、俺は愛剣を鞘から抜いた。横にいるリリがそれを見て呟く。
「あれ、バキバキじゃん。それ、お気に入りだったんでしょ? なにしたのよ」
「まぁ、色々あってね……アニエス、一度行きつけの【鍛冶師】へ行きたいんだ。良いかな?」
「構わないよ」
じゃあ行こう、そう言って俺達はティアジャールさんの元へ。道中リリは、俺の腕を離してくれなかった。
「ここは……」
「ティアジャールさん、っていう腕の良い【鍛冶師】がいる所なんだ」
ティアジャールさんの店までやってきた俺達。辺りでは、甲高い音が規則的に響き渡っている。ティアジャールさんは工房で作業しているようだ。火も終始使っており、工房の中は高温になるから、休憩する時には外に出て来てくれる。来ることを伝えている訳じゃないから、ゆっくりと待つことにした。
五分もしない内に音が止み、主が顔を出した。
「どうも、ティアジャールさん」
「む……」
ティアジャールさんはこっちを向いて、何故か身体が固まったかの様に動きを止めた。視線の先は……アニエス? アニエスはゆっくりとティアジャールさんに歩み寄る。
「久しいね、ティアジャール。大きくなったじゃないか」
「……アニエス」
あれ……知り合い? ティアジャールさんは、アニエスにそれ以上話さず、視線を外し俺へ近付いてきた。
「どうした」
「これ、なんですけど」
そう言って俺は愛剣を渡す。受け取ったティアジャールさんは愛剣を抜き、刀身がバキバキに折れているのを凝視した。怒られるかな、と思ったがそんな事はなく、淡々と俺に質問してきた。
「腹で受けたか」
「すみません、戦闘中にとっさな事だったので……俺の力量不足です」
「何で折られた?」
「丸太です」
「……丸太?」
とティアジャールさんは二度聞いてきた。頷くと、丸太……と言いながら、工房へ戻っていく。多分、対武器相手に丸太は想定してなかったんだろうな。そんな事を考えていると、工房から出て来たティアジャールさんが一つの獲物を持っていた。
それは--赤い色をした剣だった。その剣を俺へ渡してくる。
「ティアジャールさん、これは?」
「抜いてみろ」
訳が分からないまま、俺は剣を鞘から抜く。抜き取った刀身も赤く、どこか光沢があり綺麗だった。
「二年は過ぎたか。耐久的にそろそろだと思っていた。鬼剣、鬼斬だ」
……なんだか美味そうな名前だ。俺は剣を改めて見る。重さ、長さもだけどこれ、愛剣と全く一緒じゃない?
「ティアジャールさん、ありがとうございます。これ、いくらです?」
「要らん、嬢ちゃんの余りで作った物だ」
「アメルの?」
セロシキの話か? だとすると、これは……。
「元は、オーガの角ですか?」
「研磨に少し手間取った。切れ味と耐久力は前の比じゃない。手に良く馴染ませてから使え」
ティアジャールさんは、肯定と取れる返答をした。セロシキを作るので、使い切ったと思っていたオーガの角。まだ残っていたんだな。
「ありがとうございます、大事に使います」
俺は次なる愛剣、鬼斬を鞘に収めた。
「ティアジャール、お前さんまだそんな事をしていたのかい? 本来の実力なら、こんな扱いはされていないだろうに」
そう言ったのはアニエスだった。
「放っておけ」
ティアジャールさんはその一言だけで、後は何も言わなかった。俺は、気になってアニエスに尋ねる。
「アニエス、どういうこと?」
「あぁ、こやつは神の領域に足を踏み入れた。なのにそれを良しとせず、こんな所でおもちゃを作っている。そんな勿体ない事があるか」
アニエスが面白くなさそうに言った。神の領域……? 話が明後日へ飛んでいったが、一つ思い当たる節があった。それは、アルクが言った言葉。
「ティアジャールさん。ーーティアジャールの至宝って、何ですか?」
「……どこで聞いた?」
「ジュエレールにいる【錬金術士】からです。個人スキルで鑑定を持ってるみたいで、アメルの銃を見てもらった時に」
「西の錬金……アルクか」
ティアジャールさんは、アルクを知っている様だ。これを知ったら、アルクも喜ぶかな? ティアジャールさんは息を吐き、一言。
「若気の至りだ」
と言った。頑固よの、とアニエスも呆れているみたいだ。ティアジャールの至宝、その言葉に思い当たる所があるんだな。少し追求してみたが、俺との話は終わりといわんばかりに、アメルへ近付き銃の確認をし始めた。
「主様、気になるなら後で見せてやろう。それはそうと、さっきの剣を貸してくれないか?」
「ん? いいけど、何するの?」
俺はアニエスに新しい愛剣を渡す。アニエスは鞘から剣を取り出し、赤い刀身にーーそっと口づけをした。え? 何してるの?
「ーーーーアニエスっ!!」
銃の手入れを始めていたティアジャールさんが、見たこともない顔で怒声を上げた。……めっちゃ怒ってるぞ、あれ。横にいたアメルも、驚きのあまり後ずさっている。アニエスはどこ吹く風だ。
「なんだい? 主様を護る為だ。お前さんの手から離れたのに、まさか駄目だとは言うまいね?」
「……」
ティアジャールさんはそれ以上何も言わず、銃の手入れに戻った。な、なんだったんだ一体……。アニエスは、剣を俺へ返してきた。
「アニエス、何したんだ? ティアジャールさん怒ってるけど……」
「なに、ちょっとしたおまじないさ。後で見せるよ」
そう言うなり、アニエスは近くの岩へ腰掛け本を広げ始めた。ほんと、どこに入ってるの?
「……すまん、近くで大声を出した。銃はこれで大丈夫だ、よく手入れしてある」
「あ……ありがとうございます……」
アメルも、おずおずとセロシキを受け取っていた。
「じゃあ、またな」
そう言って、ティアジャールさんは工房へ引っ込んでしまった。少しして甲高い音が辺りに鳴り響く。
「と、とりあえず行こうか」
俺達は理由も分からず、一先ずその場を後にした。




