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ボカティオパレスにて

「おかわり」


「はい、かしこまりました」


「……いやお前、何我が家みたいにくつろいでんの。いい加減帰れよ」


 ボカティオパレス。中央都市にある、唯一転職が出来る館。そこでリリは、お菓子を頬張っていた。どうぞ、とフルーラが差し出した飲み物をぐいっと飲み干して、満面の笑みを見せている。対してこの館の主、ランクスはその表情を見てゲンナリしていた。


「しょーがないでしょ? カイル達、森に行っちゃったんだから。虫がうじゃうじゃしてる所なんて無理よ。ここには仕方なく来て上げたのよ、仕方なくね」


 これ美味いわね、と飲み干した器をフルーラに見せていた。恐縮です、とフルーラも頭を下げている。


「ウチは来て欲しいって頼んだ覚えすらないけど? 仕事中なんだから帰れ帰れ。フルーラも、こいつの言う事なんかいちいち聞くなっての」


 何やってんのさ? と主に叱責され、それでも執事であるフルーラはこう返した。


「ですがランクス様。この方は、アメルさんにとって大事なお人だと思われます。無下に扱ってしまうのはいかがかと」


「むむ……」


「そーだそーだ」


「デカ女は黙ってろい!」


 リリにビシッと指を差すランクス。そんな事はお構いなしに、リリはお菓子を食べ続けていた。ランクスは深い溜息を吐き、諦めた様に言う。


「……客が来たら帰れよ? それまではまぁ、アメルに免じて居ても良いことにしてやろう」


「どの口が言ってんの?」


「ここの主だよっ!」


 その後も喧嘩腰で話す二人のやり取りを見て、フルーラは優しい微笑みを見せていた。



「にしても、迷いの森か。報告だと、迷えなくなっちゃったんだっけ?」


「はい。整地されている所を直進していても、気がついた時には入口に来てしまったと証言する冒険者もいたとか」


「それさ、【東の魔女】とかのせいじゃない?」


「ギルドの文献にあった、あの?」


「そそ」


「……それは、あり得るかもしれませんね。その魔女が健在でああれば、になりますが」


「まぁね」


 口喧嘩にも疲れたのか、ランクスもお菓子を食べ始めていた。基本的に、ボカティオパレスには客が殆ど来ない。滅多なことでは外出許可が降りないランクスは、こうやってよくフルーラと話していた。


「まぁライムがいるし、なんとでもなるでしょ」


 何の気無しに、そう言うのはリリ。


「……なんでそう思うんだ?」


「え? アイツより強い魔物っているの?」


 ランクスの質問に、リリは不思議そうに返す。さも当然の様に告げるリリに、ランクスとフルーラ、二人共眼を見合わせた。


「……ウチが視た中で、唯一魔法は有効なのが分かってる」


「でも魔法使いじゃ、ライムの速さについていけないわよ。アイツやたら速いんだから。それに、剣とか効かないでしょアイツ。無敵じゃん」


 カイルが首吹っ飛んでも大丈夫だったしね、とリリが告げる。ーーあのスライムと敵対した場合、戦えるのがこちらに何人いるか……全く、エラいもん従魔にしやがって。大体、眼の前のコイツもおかしいんだよ。魅了は分かるけど、洗脳ってなんだ? ……ったく、どいつもこいつも馬鹿げてる。それにカイルの奴、首吹っ飛んだってなにさ? 聞いてないぞ、そんな話。


 リリの鑑定をしながらも、考えを巡らせているランクスはどんどんと渋い顔になっていく。そして、ここへよく顔を出す厄介者の言葉を思い出していた。


 ーーカイル君がもし、俺達へ牙を向けた場合……今は無いだろうけど、何が起こるか分からない。対策はちゃんと考えておいた方がいいよ、ランクスちゃん。


 あってたまるか、そんな事。ランクスは舌打ちをして、最悪の事態になった時、という思考そのものを打ち消した。


「何舌打ちしてんのよ、本当の事じゃない。ねね、そんなどうでもいいことよりさ! カイルについて、なんかないの?」


「……はぁ?」


「カイルが私の虜になってるのは間違いないんだけど、やっぱ溺愛させる位じゃないと。カイルについて知ってる事ないの? チビ助あんた、カイルと付き合い長いんでしょ?」


「誰がチビだ! この脳内お花畑のデカ女め!」


 そこから更に悪態を吐こうと口を開けたランクスが、ふと動きを止めた。真剣な表情でリリへこう告げる。


「……リリ」


「何? 急に改まって。今更媚びへつらっても、アンタなんか子分にしてやんないんだから」


「そんなの、死んでもゴメンだね。一つだけウチが、ありがたーい忠告をしてあげる」


「なによ」


「カイルに、髪色の話だけはするな」


「は? なんでよ?」


「さぁ? 嫌われたいならしてみれば? 見たこと無い一面を見せてくれるよ」


「……意味分かんない」


 腑に落ちないという表情のリリに満足し、ランクスはお菓子を頬張りながら、フルーラへ飲み物のおかわりを告げた。

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