各々の夜
「アニエス、ドウダ?」
「そうだね……まずは、弱い。そして、甘い」
「辛辣ダナ」
「事実だ」
ーーエルフの領域内だからと、融合を解除しているのが良い例だ。誰かに狙われると思ってもいないのか? 危機感がまるで無い。初代は基本的に解除をしていなかったしな。
「だが、従魔を酷使する様なタイプでは無さそうだ。そこは評価に値する。あれだけの力を持ったスライムともなれば、力を誇示したくもなるだろうに……てんでその気が見られない。馴れ合っているだけ、まるで友の様にも感じ取れたな。今まで見てきた【従魔士】とはかけ離れた行動ばかり取っている。ただまぁ……悪くはない、か」
そう言って、アニエスは静かに笑った。
「それに、妙な虫も付いている様だ」
「虫?」
「その辺りはなんとでもなる。さて、私は少し休むよ。イッカク、何かあれば起こしておくれ」
「分カッタ」
イッカクが応じると、アニエスは布団へ潜り込んだ。イッカクが窓の外へ視線を向ける。景色は開けており、ゆっくりと月が上り始めていた。
ーー同時刻、アメルはカドリィと共に過ごしていた。
「アメルごめんね? 急だったから部屋が用意出来なくって。私、外で休もうか?」
「い、いえ! そもそもお邪魔しているのはこちらですし……私こそ、すみません」
人数分の部屋を用意することが叶わず、アメルはカドリィの部屋で相部屋となっていた。
「それなら良かった! それにしてもアメル、弓の扱いすっごく上手かったね! ホントに初めてだったの?」
カドリィに連れ出され森へ入ったアメルは、弓の使い方を指導してもらっており、基本的な動作なら一人で出来るようになっていた。
「は、はい。カドリィさんのおかげですし、私は【射士】という職業なんですが、それも関係してると思います」
遠距離武器を幅広く扱うことが出来る職業、【射士】。ーー今日みたいに、音を鳴らしてはいけない場所なら銃じゃなくて弓も良いな。アメルはそんな風に考えていた。
「そうなんだ、【射士】って凄い! それにしてもアメル達も大変だよね。ウィッチを倒さない限り、ここから出れないんでしょ?」
「え……え!? そうなんですか!?」
「族長はその体で動いてるみたいだよ。あの人、気に入った人とか物は掴んだら離さないタイプだから。カイル、だっけ? あの子に期待してるんだと思うよ」
年上目線の言動にアメルは違和感を覚えたが、口には出さなかった。
「こんな言い方もどうかと思うけど、早くウィッチが出て来てくれると良いね」
そう言いながら、カドリィは灯りに手を掛けた。
「アメル、ここの決まりであまり遅くまで起きていちゃ駄目なんだ。一先ず灯りを消していい?」
「え、あ、はい。大丈夫です」
カドリィが灯りに息を吹きかけ、周囲が一気に暗くなる。ところでさ、とこれからと言わんばかりにカドリィがアメルの側へ腰掛け、話し始めた。
「アメルってさ……好きな人、いるの?」
「なっ、何故、ですか?」
「いやね、こういう話ってここの人とすること無くってさ。女の子が来たらしてみたいなって思ってたの!」
カドリィは楽しそうな声色で話す。
「カドリィさんは、居ないんですか?」
「あー、質問を質問で返したなぁ? 私はここの人達に好ましい人はいないかな、みんな真面目だし。どちらかといえば、自由にしてる人が好きかも。あ、カイルとか良いね、冒険者だし!」
「カイルさんは駄目ですっ!!」
アメルの声が強くなり、一瞬の静寂が。その後、カドリィがふーん? とアメルを見つめる。
「……アメルは、カイルの事が好きなんだね? ごめんね、冗談。取ったりしないから!」
「べ、別に……取る取らないの話じゃ……」
じゃあ寝よっか! 話したいことは話せたし、と満足気にカドリィは樹で造られたベッドへ横になる。アメルは少し渋い表情を見せながらも、し、失礼します……とカドリィの側で横になった。
「こんなに楽しいのは久し振りだぁ……ありがとね、アメル」
不意に言葉を投げられ、アメルも身体の力を抜いて返事をした。
「私も楽しい、です。ありがとうございます、カドリィさん」
そして同時におやすみなさいと告げ、眼を見合わせた二人は自然と笑いが漏れていた。
二人はその後、ぐっすりとーーーー眠れることは無く、外の騒がしさに眼を覚ます事となる。




