エルフ領.3
俺達の前に、見たことがない食事が並ぶ。音楽が鳴り、踊り手の綺麗なエルフが舞を披露してくれていた。思わず見入っていると、横から凄まじい圧を感じた気がして、慌てて視線をずらす。
それはそうとして、この歓迎っぷり……帰ります、と無理を通すわけにもいかない雰囲気になったなぁ、ホントどうしよう。俺は、眼の前にある果実を手に取り、これからの動きを考えていた。緑色の果実、採れたてみたいで色が鮮明だ……っと、あれ? もしかしてこれ。
「すいません、ペトリアークさん」
「うむ、何かな?」
「この果実、食べさせてあげたい従魔がいるんですけど。構わないですか?」
「あぁ、構わぬよ」
笑顔で頷くペトリアークさんに、ありがとうございますと告げ俺は融合を解除した。森に入った時から、ライムとは融合したままだ。居心地は悪くないみたいだけど、自分で動けた方がやっぱりいいだろう。
そんな訳で、俺から急に光が放たれたものだから、辺りはどよめき、光が収まるにつれこの場は静寂に包まれてしまった。皆の視線が集まる中、俺は誤魔化すように早足でライムに告げる。
「ラ、ライム。これ、お前と名前が一緒の果実なんだ。食べてみる?」
「えー! 食べるー!」
ライムの中に、果実をぽいっと投げ入れた。一瞬で果実は溶け消えていく。
「……すっぱいー!」
ライムの身体が波打つように震えている。それを見たエルフ達はクスクスと笑いを漏らし、次第に音楽や踊りも再開されていった。
「カイルさん、今のは?」
ペトリアークさんが、興味深そうに尋ねてきた。
「元々、スキルで従魔と融合……あ、ライムって名前なんですけど。今は融合を解除したんです、この果実をライムにも食べさせてあげたくて」
「成程、カイルさんはお優しいですな」
笑みを見せてくれるペトリアークさん。話もしっかり聞いてくれるし、優しいん人柄なんだと思う。良い人なんだろうけど……帰してくれないんでしょう? 隣で座っていたアメルは、エルフの女性に迫られていた。
「ねぇねぇ、私カドリィっていうの! 貴女のお名前は?」
「アメルと言います」
「アメル! 可愛いねぇ! それに、その感じ……精霊化してる?」
「え、分かるんですか?」
「うん、なんとなく! ここでも精霊化出来る人がいるから。私は出来ないけど!」
アハハと明るく笑う、カドリィと名乗ったエルフの女性。釣られてアメルもクスクスと笑っていた。
「でも、腰のは森じゃ使っちゃいけないんだ。銃でしょ? それ」
「は、はい。何故、使っては駄目なんでしょう?」
「森が怖がっちゃうから! ……そうだ、弓教えてあげるよ弓!」
「ち、ちょっとカドリィさん!?」
一緒に来て! そう言ってカドリィはアメルを立たせ、どこかへ連れて行ってしまった。あの感じなら……多分大丈夫そうだな。
「元気なおなごだな」
「あれでも成人なのだが……もう少し落ち着いて欲しいものだ。腕は確かなんだがの」
少し離れた所で、ペトリアークさんとアニエスさんが話している。気になって聞き耳を立ててしまっていた。側にいるイッカクは樹にもたれ掛かっている。食べないの? 美味しいよ、料理。
「それにしてもアニエス、会った時から気になっていたがその姿、お主……」
「あぁーー代償さ」
「……そうか。それで済んだなら安いもの、と思うべきなのだろうな。森に危険が迫りつつあるというのに体たらくが……と思っていたが、その飽くなき探究心に免じて許そう。だがアニエスよ、その身体では……」
「問題ない、故にこうなっている」
そうか、とアニエスさんとペトリアークが同時にこちらを見てくるもんだから、眼が合ってしまった。なんだ、おっかないって。しかし、あの感じを見てると友人同士の気兼ねない会話、そんな雰囲気を醸し出してるな。昔からの付き合いなんだろう。
それからしばらく食事を楽しんだ俺達。時刻は分からないが日は暮れそうになっており、燃え移らないよう設置された松明達に火を付けていく。アメル達も、どこからかひょっこりと戻ってきた。ペトリアークさんが立ち上がり号令を掛けていく。
「よし、日も暮れてきた。歓迎はここまでとしよう。各々、いつも通りに過ごすように!」
俺は綺麗な一室へ案内された。アメルやアニエスさんとは、当然ながら別の部屋だ。どの家具も、ここの樹で造られているみたいだ。いい香りがする。
「まさか、帰れなくなるとは思わなかったなぁ」
リリは心配……してなさそうだけど、入口にいた職員さんやギルドは心配していそうな気もする。でもウィッチが現れない限りは、何日も缶詰になる訳で。それは、あまり考えたくない。最悪一週間したら、小気味の良いノック音が聞こえるはず。その時に伝言を頼めばいいか。
「ま、一旦寝るか。ライム、消すぞー」
「はーい」
俺は吊るされた小さな明かりを吹き消し、都市ではまだ活動しているであろう時間に就寝することにした。案の定、しばらく眼は冴え渡っていた。




