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AF―After Fantasy―  作者: 04号 専用機
Vengeance is mine
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レディー

 好奇心がジクジクと疼く。

 知りたい、と思ってしまう。

 スサノオは知っているのだろうか。この世界の真実を。

 共通言語よりも前のことを、世界大戦より前のことを。この世界の成り立ちすら。

 おそらく何かを知ったのだろう。だからこそあいつは変わってしまったのだ。


「ずるいな、あいつは」

「高田、悪いことは言わねぇ。やめとこう」

「いーや、これは譲れないね。譲らないよ。ボクよりアイツの方が物知りなんていうのは我慢ならない」


 好奇心か、この厄介者め。どれだけボクを振り回せば気が済むんだ。

 まぁ、しっぽ振ってついて行くのはボクなんだけど。


「それで、紅葉組の目的は?」

「無論、日本を取り返す」


 口調は強く、確信に満ちている。出来ると信じて疑っていない。

 同い年くらいに見える女性なのに、なんと強気なことか。

 はだけた着物を直し、組長はしっかりとボクらを見据える。


「さて、ここまで話してしまった後で申し訳ないが、改めて聞こう」


 その瞳がギラリと光る。


「我々に協力してくれるな?」


 さて、どう出よう。

 こう来ることは薄々分かっていたというか、事情聴取からこっち、こうなるだろうなとは思っていた。ユダに出会ってから全てが変だ。

 世界はまるで変わってしまった。

 今まで通り、平和に、何も知らずに生きていられたかもしれない。けれど、それはもうできない事だ。

 ボクと藤高は、世界の真実の、その一端に触れてしまった。世界を支配しているのが人間でないなんて、一体誰が想像するだろう。ボクだって想像しなかったことを。一体誰が。


 ちらりと藤高のことを見た。いつも通り、そこにいる藤高は何も変わらない。安心でも不安でも、期待でも失望でもない。ただ、ボクに判断を委ねた顔だ。

 信頼して、答えを待っている。きっとどうなっても、藤高はちゃんと着いてきてくれるだろう。

 それだけで気分が楽になる。

 何を恐れる必要があるんだ。誰が相手でも、どんな結果になったとしても、ボクは後悔しないでいられる。

 地獄の果まで、方舟の果てまで。藤高となら歩いて行けるだろう。


 もう一度、藤高を見た。彼は黙って、組長へ応えるように手を向けた。


「協力します」


 答えは最初から決まっていたんだ。

 ボクは好奇心に逆らえない。

 スサノオのことを知りたくなった。

 方舟のことを知りたくなった。

 一体どこまで深く世界を解き明かせるか、知りたくなった。

 自分自身の限界を。

 知りたくなってしまった。

 なんだか、スサノオの――武神のようなことを言っていると思う。結局は似た者同士なのかもしれない。

 けれど、決定的に違っている点がある。

 アイツは方舟に乗ることを選んだ。

 ボクは方舟に乗らないことを選んだ。

 それだけのことなんだ。


「その意気やよし」


 復讐でも報復でもない。

 これは戦いなんだろうな。世界を解き明かし、日本を取り戻し、NS二その力を知らしめて。

 ボクたちの存在で威嚇する。

 それが目的なんだろう。

 我々はこれだけの戦力を持っているぞ。いつでもかかってこい。返り討ちにしてやる。

 そういうことなんだ。

 穏便なやり方があるはずだと言いたかったけど、相手は元警察組織だ。そのやり方がどれだけ変質したかは分からないけれど、ボクのような――さっきまで一般人だった物すら引き入れようとするのはきっと、最終手段だ。


「なら数日は泊まっていくと良い。訓練を付けよう」


 帰す気がないあたり、その覚悟が見て取れる。

 まぁ、育ての親はほとんど家にいないから、別にいいか。



◆ ◆ ◆ ◆



「藤高、家に連絡した?」

「高田んとこに泊まるって言っといた」

「あーね」


 今日は色々あったな、なんて言いながら、二人して軒下で涼む。

 本当に色々あった。

 方舟からの脱出、ユダの筋肉、トビラの存在、スサノオのこと。

 世界の真実。

 人とNS。


「覚えきれねぇよ、オレ」

「大丈夫だ。そこはボクが負担する」


 沢山のことがあった。

 何に巻き込まれてしまったのか、なんとなく見えてきた。

 誰もそうは言わないだけで、これは、紅葉組と方舟の戦争なのだろう。

 組長の紅葉 楓は、これにどれだけの覚悟を持って挑んでいるのだろう。まだ若いはずなのに。

 NSと戦うこと。きっとその中で、スサノオとも出会うはずだ。

 目を閉じて、今日の記憶ゆっくり反芻する。

 しばらく待っていたのか、藤高が言う。


「あのさ」

「なに、藤高」

「お前、そんなに武神(タケガミ)のこと好きだった?」

「…………いや、むしろ気味が悪いと思ってた」


 スサノオが一番荒れていた時期に、話に付き合ったことはある。でもそれだけだ。ボクとスサノオはそれ以上の関係がない。


「まぁ、確かに下手に刺激しないように手を回したり、擁護したりはしたけどさ」

「それよ、それ。不思議なんだよな。高田さ、なんであいつ庇ったわけ?」

「ああ……」


 そこか、確かに言ったことがなかった。


「兵隊が欲しかったんだ」

「はぁ?」

「ボクは戦えないから。だから少しでも戦力が欲しくて、恩を売ったんだ」

「いや、いやいやちょっと待てよ。じゃあオレも?」

「そうだよ。何か不満?」

「…………今が違うならいい。なんで欲しかったわけ?」

「戦えないからだよ。今は戦争がない時代だけど、そんなのきっと一時的なもんだと思ってたから」


 だから、生き残る術が欲しかった。

 ボク一人ではどうもならない。筋力も体力もないし、拳法なんて触れたことすらない。カリスマもないし、人と相対した時に、どうにもならない未来しか考えられなかったから。

 そんな風に思っていた時、藤高に出会ったんだ。中学一年の時のこと。


「なんだか懐かしいって気分になったよ。お前に初めて話しかけたの、たった三年前のことなのにさ」

「結構前だぞそんなの」

「ボクにとっては昨日と同じさ」


 全部覚えている。一つも忘れたことがない。

 また目を閉じて、かつての日にピントを合わせて眺めていく。

 遠くから足音が聞こえてきた。これは記憶の中にある音じゃないな。


「ま、正解だったかな。ホントに戦争になるっぽいし」

「あーあ、まんまと乗せられちまったよな」

「悪い気はしないけどね。ボクも藤高も評価されてる」

「いーや、少なくとも評価はされてないッスねぇ!」


 隣にどっかりと座ったのは春原だ。

 なんだかいやに距離が近い。


「まんまと乗せられたな少年たち。地獄へようこそ!」


 力強く肩を組んで、睨みつけるようにボクを見る。

 地獄か。方舟を知ったボクらにとっては皮肉だな。


「なぁ二人ともさ。これで良かったとホントに思ってるの? 期待されてるって、本気で思ってる?」


 真剣な表情で聞いてくるものだから、こちらも考え込んでしまう。

 答えあぐねていると、藤高が言った。


「オレは思ってない」


 意外な言葉だった。


「期待されてるかどうかってのは後から分かるもんだろ。今はどうでもいいことだ。それに――」藤高がボクのことを見て。「コイツはやるって言った。だから着いていく。それだけだ」


 春原が「頼もしいことッス」と囃し立て、どこか遠くを見つめた。


「なんで、関わろうって思ったの?」と、ふとした疑問を口にして。「私、ちゃんと止めたと思うけど」

 彼女はどうしても知りたいらしかった。

「ホントにさ、いい事ないよ。そりゃ組長は美人だし、もしかすると色々知れるかも。でも、それってそんなにいいことかな?」


 呆れた人だと思った。

 ボクらは人間だ。だから知りたいと思う。それは、そんなにおかしなことだろうか。

 ボクには理解できない。一度は支配したこの世界を手放して、人でない何かの手に委ね、それで良しとするその心理が。

 その意味で言うと、スサノオは利口な方なんだろう。自ら支配者の側に回ったから。きっかけがなんであれ、どういう思惑があるにせよ、やつには「支配したい」という願望があったことになる。

 色々腑に落ちたのは確かだ。


「良いに決まってるでしょう」


 羨ましいと思った。

 スサノオの立つ場所が。

 方舟というフィールドに憧れるわけではない。

 でも、いわゆるそう言う、世界の裏側を知れることに、少なくない羨望があった。


「知りたいんです。この世界のこと。死んだ後のこと。人間がどういう生き物で、じゃあNSはどんな生き物なのかって」


 あの日。

 ユダと出会ってから。

 歯車は回ったままだ。


「好奇心には誰も勝てないから」


 でも、中心にある歯車はボクじゃない。ボクはただ、どこか端の方で、誰かと噛み合って上手く回っているだけだ。

 辛うじて回っているだけ。


「春原には言っておくけど、正直、日本を取り戻すとか言うのはどうでもいいことだよ。少なくともボクにとっては。重要なのは、ボクは不可欠な駒になるかも知れないってことなんだ」


 自分の能力を疑ったことは、一度だってない。


「支配がどうとか、そういうことじゃなくて」


 だからこそ、だからこそ。


「ボクはただ、試してみたいんだ」


 自分がどこまで通用するのか。

 それを試したい――いや、これも、違うかな。


 不満なんだ。

 スサノオを従えていたはずだった。

 アイツの心を掴めていたはずだ。きっと今もそう。だからこそまだ生きている。

 なのにアイツは別の誰かの下につき、その暴力を、違った方向へ発揮し始めた。

 ボクに被害は無かったけれど。

 でも、ボクならもっと、アイツを上手く使ってやれた。

 そうなれば、選ばれたのはスサノオではなくて、ボクだったはずだ。


 世界にその存在を知られていたのは、ボクだったはずだ。


「そのためなら何だってやってやりますよ。仲間もいる。後ろ盾もある。情報だって揃い始めた」


 自信はある。


「次は負けない」


 今度こそ、スサノオに勝ちたい。


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