表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
AF―After Fantasy―  作者: 04号 専用機
Vengeance is mine
91/166

ハロー・ワールド

知ってる人は知っている。知らない人は覚えてね。

「じゃあ、もう一回確認するよ? 君はさっきまで方舟ってところにいて、筋骨隆々の男に助けられて、あのテロを止めようとして学校まで来た。すると首謀者は君の後輩で、意味深な――ええっと、つまり君の分はないって言って去っていったと」

「合ってます」

「いや、合ってないでしょう。そんな落ち着いて答えられても、君の証言はおかしすぎるよ」


 バン、と強く机を叩く音。

 目の前には狭いテーブルと、カツ丼。向かい側に座っているのは警察だ。

 藤高も別の部屋で尋問されてるのかな、なんてことをぼんやりと考えた。


 スサノオ達が撤退した後、ボクらに待っていたのは美味しいご飯に柔らかな布団ではなく、冷えた飯に硬い椅子の聴取室だった。

 聴取開始からもう随分経ったと思うけど、開放される気配はない。


 それにしても、この警官はボクの記憶力をまだ疑っているらしい。何分何秒にどんなことを聞かれて、いつカツ丼が出てきて、どんな風に答えたか、全部そっくりそのまま返すことができたのに。


 ついでに言うと、学校に来ていた野次馬の、その一人一人の見た目まで全部答えられたというのに、まだボクを疑っているらしかった。

 そりゃそうか、方舟なんて突飛な話、いきなり信じろと言う方が無理だ。事実、僕も未だに整理がついていないもの。

 でも確かに方舟は実在していて、スサノオがそこにいたのも真実なんだ。

 どれだけ嘘だと言われても、真実を曲げることは出来ない。

 信じたくないものでも、今は信じなければ。


「埒が明かない」

「ええ全く」

「君が嘘をつかなきゃいいんだって!」

「ついてませんよ。全部本当ですから」


 警官はウンザリした表情で、こめかみをトントンと叩いた。


「……本当に嘘をついてないとして。君と容疑者、えーっと――」

「スサノオ」

「そう、スサノオ。彼との関係は否定できないんだろ?」

「はい。それも、全く以てその通りです」


 そう、ボクとスサノオの関係は否定できない。方舟でもう少しちゃんと話していれば、止められていたかもしれないからだ。

 それに、去り際にあんなことを言われては、疑われるのも仕方がない。

 だから、正直に話せば話すほど、不利になるのはボクの方だった。

 釈放までしばらくかかりそうだ。うんざりしてきてため息をつく。

 結局あの後どうなったのか、ろくに知ることもできない。事情聴取なんて初めて受けるからワクワクもしたけれど、なんのことはない。

 方舟に比べれば刺激のない思い出になりそうだった。

 退屈だと思うけれど、それを見せては相手の逆鱗に触れるだろう。必死に欠伸を噛み殺す。さてボクに話せることは全て話したけれど、そろそろ方向転換して釈放されるような話を捏造してみようかな……


 なんて良くない考えを巡らしていると、聴衆室にノックの音が転がり込んだ。

 警官は交代の人員と思ったのか、いそいそと扉の方へ歩いていく。

 救いを求めるような表情で開くと――


「チワーッ交代の時間でーっす!」


 紙切れ一枚持った小さな女性が、そこに立っていた。


「なんだお前!? どこから入った!?」

「免状があるのに裏口から入らねばならない理由があるのかね? いやーそんなわけでお兄さん、お疲れ様でした。こっからは私が話聞くんで」


 女性は早口に捲し立てて歩いてくるが、景観がすかさず肩を掴む。

 小声で何かを話した。

 読唇術でもやってみるか、なになに……?


 あ、か、ば、ぐ、み……免状……こ、ま、る……や、か、い……ふむ。

 どうやらボクはこれから厄介なことに巻き込まれるらしい。


 警官の顔色はみるみるうちに青くなって、さっさと聴衆室を出ていった。


 残されたのはボクと、女性だけだ。

 何者なのか分からないが、マトモな筋ではないだろう。

 警戒を解くかのように、女性が両手を前に出して話し始めた。


「ウェイヨー! 調子はどうだい少年! 私の名前は春原 新芽(ハルバラ アラメ)! はるばる来たぜ手口は荒目!」

「もうちょっとマトモな韻を踏んでください」


 春原と名乗った女は恥ずかしそうに頭を掻いて帽子を脱いだ。


「いやぁ、悪いッスね。昨日始めたばっかなもんで、初心者B-Boyなんスよ、私」


 下手な敬語で話しかけ、春原はボクの前に座った。


「ところでさ、カツ丼食べないんスか? 冷えちゃったら美味しくないよ?」

「食欲がないので」

「あー、それ食べても調査への協力に合意したことにはなんないスよ。私警察じゃないんで」

「ほぉ……ならいただきます」


 春原が声を上げて笑った。


「面白いッスねぇ! 現金というか現実主義っつーか! これならいい話が聞けそうだ!」

「嘘はつきませんよ。覚えてることを話すだけです」


 冷えたカツ丼を頬張る。肉は硬くなっていた。

 音を立てないよう気を付けて咀嚼して、春原が資料に目を通す様子を眺める。


「高田 広希、16歳。品行方正、成績優秀……いやぁ随分頭がいいんスね。去年の全国模試一位? 私でもとったことないよそんなの」

「……別に難しくありませんけど」


 ニンマリとした笑顔を向けて、春原が机の上に名刺を滑らす。


「それじゃ、ちゃんとした自己紹介を」

「まだ食べてます」

「いいのいいの気にしないって。急ぎの話だからね」

「はぁ……?」


 目の前に来た名刺を一瞥する。


 春原探偵事務所、所長。電話番号と住所、それから名前が書かれた簡素な名刺。それだけなら普通だが、一際目を引く部分が一つ。


 下地に薄くプリントされた、紅葉の代紋。


「名前は春原 新芽。歳は23。大学の頃立ち上げた探偵事務所で活躍中ッス。以後お見知り置きを」

「…………で、ヤクザと関わりがある?」

「おお! そこに気付くとはさすが模試一位だね。どこの組か分かる?」


 さて、組、と来たか。

 さっき読み取った情報から想像してみよう。


紅葉組(あかばぐみ)ですか?」

「ご名答! もしかしてそっちに詳しい?」


 いや、自分で話していたじゃないか。確かに紅葉組と……そうか、本人は耳打ちで済ませていたっけ。


「すみません。口を読みました」

「そりゃ趣味の悪いこってス」


 相変わらずニマニマとして、春原は僕がカツ丼を食べるのを見て尚も話す。


「ま、そういうことだよ。探偵を続けてるとそっちと関わる機会が多くって」


 指に引っ掛けた帽子をくるくる回しながら、春原は言う。


「私が取り扱う事件は主に迷子の猫探し。それから『異世界』に関することなんスわ」


 異世界、と来たか。

 どうやら、やっとまともに話を聞いてくれそうだ。


春原 新芽はその昔、「メーデー、こちら、猫の群れ」という作品で書いたキャラなのですが、まぁパラレルワールドみたいなもんで、同姓同名の別人かもしれない存在です。

同じ人かもしれないし、違う人かもしれません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ