表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
AF―After Fantasy―  作者: 04号 専用機
Vengeance is mine
86/166

アスク・ア・クエスチョン

「あ? 誰が誰の私兵だって?」

「この二人が、私の、です。新しく仕入れまして」

「ほーん……」


 マステマと呼ばれた女は、ボクの顎から棒を離した。

 それから、ユダとボクを交互に見る。


「物好きもいたもんだ。悪趣味な化粧じゃあないのさ」

「おやおや先輩、ノア様がお聞きになったらなんと仰るか」

「ふん。信仰心の薄いあんたに言われたって怖かぁない」


 どうやら切り抜けたようだ。マステマは来た道を戻っていく。


「邪魔が入ったが、まぁ良いさね。時間が押してる。さっさと行くよ」


 最後まで、藤高は変わらず青い顔で一言も話さなかった。



◆ ◆ ◆ ◆



「さて、それでは質問を一つだけ受けましょうか」

「なに?」


 あの部屋を出てから、果てしない地平線を歩いた。依然変わらずユダの後を着いていくと、遠くに黒い穴が見えることに気が付いた。

 おそらく、穴の正体を聞いてくると思ったのだろう。そんなわけにはいかない。


「この兵隊はなんなんだ。人間なのか?」


 どうやら意外な質問ではなかったらしい。ユダは粛々と答える。


「彼らはNS(ノアシード)と呼ばれています。人間ではありません。神の作った人間モドキと言ったところでしょうか」

 要は人造人間です。とユダは付け加え。

「先頭に立つマステマも、この私ユダもNSということになります。製造元は違いますがね」


「違いは――」

「質問は一つです。あとは出てから聞きましょう」


 どうやらボクらが穴を潜る番らしい。

 目の前で渦巻く黒い穴。何も映るはずがないのに、まるで鏡のようだと思った。

 姿見のように、空間にポッカリと穴が空いている。


「“トビラ”を抜けます。しっかりと着いてきてください」


 そう言って、最初に暗闇の中へ踏み込んだのはユダだった。

 後に続く。もちろん藤高の手を引いて。


 暗闇の中で、朧気なユダの後ろ姿を追いかける。すると徐々に背中が近付いてくる。ボクの脚が突然速くなることはないから、ユダがペースを落としてくれたようだ。

 暗闇だから何も見えないようなものだけど、どうやら足元はしっかりしている。歩く分には問題なかった。


「藤高、大丈夫か?」

「……ん、大丈夫だ」

「お前、喋んなかったけど。なんかあった?」

「そりゃ、何かあるだろ」

「大丈夫なら聞かないけどさ」

「あーもう。大丈夫だっつーの。心配すんな」


 藤高の顔色が優れない。体調は万全とは言えないが、どうやら意識ははっきりしている。それだけ確かめると手を離して、また歩き出す。

 不意に、藤高が言った。


「なんでアイツは殺せたんだろうな」


 その言葉が、ボクの脳裏をざわめかす。


「分からない」

「へ? 高田くんでも分かんない?」

「からかうな。全知全能ってわけじゃないんだ、ただものを忘れないだけ」


 分からないなりに、予測は出来るけど。

 そうつけ加えてみたものの、実際は分からないというのが正解だった。

 だってそうじゃないか。あいつは数ヶ月前まで、ボクらと同じ――とは、言えないかも知れないが――学生だったんだ。

 一つ下の後輩。剣道で成果という成果を全て手に入れ、なのに段位という肩書きを持たなかった男。

 不思議な奴だと、前から思ってはいた。


「でもそうだな。敢えて理由を付けるなら……」

「付けるなら?」

「十中八九、妹のことだ」


 あれは嫌な事件だった。

 例えこの記憶力が無い人間だとしても、中々忘れることはできないだろう。もしかしたら、一生ものの思い出かもしれない。

 少し嫌な言い方をしたけれど、それくらいの事件だった。人によっては、記憶の奥底に鍵をかけ、永遠に開けないようにするような、そんな事件の記憶。


「スサノオは……武神(たけがみ)は、その渦中にいた。……っていうか、原因を作った人間だから」

「私も興味ありますね。何せ彼は自分の身の上を語りたがりませんから」

「ユダ……」


 まだ抜けるまで時間があるらしい。

 前を歩く集団はもうすっかり見えなくなってしまったが、それは良いのか。

 気にするなと言いたげだ。ボクが話してくれると信じきっているらしい。

 ……ほぼ見ず知らずのユダにこんなことを話すのは、正直どうかと思う。

 でも、助けてくれた恩義がある。それに、これは恐らくだけど。


 スサノオが何をやろうとしているかは分かる。このままだととんでもないことになる。


 アイツは、もう二度と戻って来れないだろう。ボクらと同じ場所に。


「……分かった。知ってることだけな」


 掻い摘んで、その事件を話すことに決めた。


「アイツ、スサノオには妹がいたんだ」



 ボクが高校一年だった時のこと。

 スサノオはまだ生きていて、ボクにやたらと絡んでくる、人懐こい印象の後輩だった。

 でも、ボク以外だと妹と話しているところしか見たことがなかったから、きっと友達は少なかったんだろう。

 後で聞いた話だけど、スサノオは剣道の推薦を受けて、中高一貫校の……つまり、ボクと同じ学校に来たらしい。

 スサノオはボクの一つ下。とてつもない実力を持っているにも関わらず、アイツは剣道部の主将になれていなかった。

 誰よりも強いのに、主将でも、副将でもない学生。いや、その強さは学生なんて言う枠に納まるものではなかった。

 なんでも大人をボコボコにした経験があるとか、本気で戦えとか叫んでたとか。

 スサノオには良くない噂がついて回っていた。


 なのに、ボクはスサノオが喧嘩をしているところを一度も見たことがない。


 おそらく誰も、彼と直接戦うほど無謀ではなかったんだろう。勝てないことは目に見えていたし、いじめだって出来ない。

 やったらその分を必ず返すという気迫が、幼いながらに確かにあったのを覚えている。


 でも、そんなギリギリの安寧も長くは――いや、三年も保ったんだから長いか――持たなかった。

 きっかけがなんだったのか、ボクは知らない。なんでも、主将の練習に口を出したとか、後輩への指導が厳しすぎるのが問題になったとか。みんなスサノオを怒らせるのが怖かったから、顧問へ報告できずにいる中。

 皆が気付き始めたことが一つあって、そして皆思春期で、だから。

 やりすぎることを、決して悪いと思っていなかった。


 確かにスサノオは厳しいやつだったのかもしれないし、あまりに強すぎたのかもしれない。

 でも、やつは一度だって、本当に一度だって、誰かに喧嘩を売ることも、誰かに怪我をさせることも、何かを壊すこともなかったんだ。


 皆が嫉妬していたんだろう。

 スサノオには才能があって、存分に特訓できる環境があって、その上可愛い妹までいる。

 しかも、その妹は兄貴に首ったけときた。

 スサノオに、その妹に関わったことのある男なら、誰しもが思うことらしい。

 その妹、武神 櫛名(たけがみ くしな)を穢してみたいと。


 正直言って、吐き気のする願望が、あの事件を引き起こした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ