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AF―After Fantasy―  作者: 04号 専用機
Vengeance is mine
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復讐するは我にあり

 僕には妹がいた。

 名を武神 櫛名(タケガミ クシナ)と言って、僕と同じ、黒に深い濃紺混じりの髪を肩まで伸ばして、切れ長の目と、通った鼻筋を持った、美人な子で……。

 なぜか妹は僕を強く慕ってくれて、僕もそれが嬉しくて、期待に応えられるようひたすらに剣を振り続けた。

 妹は優しく、また妹も、僕を優しい兄だと言ってくれた。


 妹が他の学生から人気があったことは知っていたし、恋人が出来たとか、そういう華やかな話をいつまでも待っていたけれど、どうやら妹はそういうことに興味がないらしかった。学校ではいつも僕と昼休みを過ごし、帰りはいつも一緒。それが僕達兄妹の在り方。変わることはなく、いつまでも続くのだと思っていた。


 それから中学生になって、剣道部に入部して練習をしていくうち、僕は人の呼吸を見て行動を読めるようになったのだと知った。

 入学したばかりだと言うのに誰よりも強い。そんな歪な力関係を、妹は誇らしそうに学友に話していたらしい。


 僕には薄暗い視線が集まり始めた。

 なんでアイツが。なんであんなやつが。家が道場だから。恵まれてるから。才能があるから。

 羨望は嫉妬になり、嫉妬は憎悪へ移り変わっていく。その最中にいて、僕はただ前を向いて剣を振っていた。


 妹は、その姿を愛していると言ってくれた。

 その期待に応えたかった。


 いつしか、誰もが僕を避けるようになっていった。

 中学二年の秋頃にはもう、僕が指導に回ることもなくなった。僕のやり方には誰も着いてこれず、また、ひたすらに鍛錬を積んでいられる僕は皆に恐れられた。


 バケモノ。

 何度も、面と向かって、その言葉を唾と共に吐かれた。

 機械みたい。同じ人と思えない。

 狂ってる。

 剣道しか頭にない。

 いつか人を殺す。

 近付かない方がいい。


 皆僕を避けた。


 それでも僕は剣を振った。振るい続けた。

 それで良かった。強くなり続けて、妹が僕を好きだと言ってくれるなら、誇りを胸に進んでいけた。


 あくまで真剣に、あくまで真っ直ぐに、僕は剣という道を歩み続けた。


 疑うべくもないけれど、僕が皆に好かれているはずがなかった。

 僕には何も無かったから。

 剣と妹以外、何もなく、誰もいない。剣を振るうことだけが、妹と僕の絆だった。

 嫉妬の目は僕の強さではなく妹との関係に向いていたが、それでも構わなかった。

 妹は僕を愛し、僕は妹を愛した。

 兄妹としてではなく、気付けば一組の男女として。

 別にそういうことに耽る訳ではなかったし、そういう関係だと証明することもできない。

 歪な関係だったかもしれない。時たま二人で街に出かけ、決して多くない小遣いを出し合って、両親が買ってくることのない洋菓子を食べる。

 そんな二人の在り方が、荒み始めた心をなんとかつなぎ止めてくれた。



 中学三年の頃だ。

 忘れもしない。

 僕は主将になれなかった。

 副将にも。

 それはまだ、いい。許せる事だ。部に貢献出来るような学生ではないし、部員をまとめるなんてできそうもなかったから。

 それはまだ良い。


 部活を辞めろと言われた。

 和を乱すからと。

 僕の強さが部員のやる気を削いで、稽古にならない。

 勝手な言い草だと、自分でも信じられないほど激昂したのを覚えている。



 それは今までずっと秘めてきた感情だった。

 怒り。

 ずっと鎮めてきた感情だった。

 僕の剣は、僕の今までは、人の身勝手なやる気とやらのせいで、すべて否定されてしまうのだ。

 ただ僕が剣道を続けると言うだけで、その道を降りる人間が何人もいた。でもそいつらは勝手に降りていっただけだ。僕には一言も言わなかった。

 僕も同じように降りろとは、一言も言わなかった。


 当たり前のことだけど、僕は断った。

 意味のわからない理由で追い出されるなど真っ平ごめんだ、それに――弱いのは環境や才能のせいではなく、それだけ鍛錬を怠っているからだ。

 そう言ってしまったことが、彼らの背中を押したのだろう。


 じゃあやり方は選ばない。

 やってみろ。

 後悔するぞ。

 させてみろ。


 帰り際に交わした言葉が、今でも脳裏に響いている。



 その夜に事件が起きた。

 妹が帰ってこない。

 不安が過ぎって僕は家を飛び出す。

 街中探し回った。

 結局、妹がいたのは学校の――倉庫で。


 乱雑に服を剥がれ。

 液体に塗れ。

 虚ろな目をして。

 穢されたその姿。


 今でも鮮明に覚えている。

 今でも、鮮明に覚えている。

 その後のことは何も覚えていないけど。

 気付けば周囲にいた人間が血だらけで倒れていて、僕は一本の鉄パイプを握っていた。



 この世界は腐っている。

 糾弾されたのが僕で、許されたのがコイツらなんて間違ってる。

 

 この世界は腐っている。

 僕の強さを否定するために、妹を傷つけるなんて。


 この世界は腐っている。

 妹を守るために、コイツらの日常を壊してはいけないなんて。


 この世界は腐っている。

 こんな世界間違ってる。

 だから正すんだ。膿で溢れたこの世界を。

 僕の力で。僕の強さで。

 血塗れになった剣を振るいながら、そんなことを考えた。


 ヘルメットは返り血を浴びて、前がよく見えなくなってしまった。

 煩わしいな。

 脱ぎ捨ててしまおう。

 鬱陶しい重荷は全部、脱ぎ捨ててしまおう。


「さて……こんなことに閉じ込めてどうする、だったか。大方予想は着くだろう?」


 そんなことを思い出しながら、僕は鍵束をジャラジャラと鳴らした。

 格技場の中に、目当ての学生を全て集めて数時間ほど経った。

 電気は付けているものの、窓も扉も閉めてカーテンも閉じているからか、どこか薄暗い。

 昼前だというのになんだか陰気だ。

 原因は、分かりきっているけど。


 目の前で震える男女数名。

 僕の目を見て、更に青ざめていく。


「他の人間がどうなったか見たはずだ。貴様らもじきにそうなる」


 元剣道部の部員たちを、じっくりと眺めた。


「が、貴様らに限って俺の顔見知りだ。どうしてもと言うなら死ぬ前にチャンスをやる」


 帯びていた刀を外し、鞘と柄をキツく縛った。

 職員室から拾ってきた木刀を放ってやる。


 さぁ、復讐の時間だ。


「俺を殺してみろ。出来ればの話だが」


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