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AF―After Fantasy―  作者: 04号 専用機
Vengeance is mine
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ザ・マッチョマン

ネタじゃねぇんだ、このタイトル。

 『何か』が始まったのを感じた。

 ニヤニヤとこちらを見てきたあの女がいないのだ。ボクはなんとなく、彼女がどこかに行ってしまったのだなと結論付けた。

 偶然今日は来ていないだけだとか、どうせあと数分もすれば顔を出すだろうと考えてから、おそらく数時間は経った。

 この部屋には時計も水道もコンロもなく、当然ながら人が生活出来るような部屋じゃない。

 そういうわけで、ほんの少しどころでなく喉が乾いたし、トイレにも行きたい。お腹が空いた。その影響なのかは分からないが、時間の感覚がかなり曖昧だ。


 今は昼なのか夜なのか、朝なのか。はたまた夕方だったりしてな。


 寝ぼけた頭を必死に回しながら、そんな下らないことを考えた。

 拘束は解かれていたし、動けはする。でも扉は開かない。外から鍵をかけられているのか、うんともすんとも言わない。

 離れ離れになった藤高が心配だった。

 スサノオは彼のことを「ゴミ」と呼んだから、きっとまともな扱いは受けていない。スサノオの持つ亡霊のような瞳を思い出して、何度目か背筋が寒くなった。


 藤高は無事だろうか。ボクのたった一人の親友。唯一の理解者。もし脱出の目処が立ったとしても、彼を置いていくことはできない。

 せめて生きていてくれと願った。


 弱気になっている。乾きと飢えのせいだろう。そういうことにしておく。

 なにか変化がないと気が狂いそうだ。なんせ外の音がしない。窓もなく、空気の流れもない。

 異常な淀み――そのただ中にあって、本当の意味でなんの変わりもない時間を全て記憶してしまう、自分の頭を恨んだ。

 自分が足を踏んでいないところは既にない。時間の感覚がないから何分頃というのはまるで分からないけれど。

 助けを求めるのは悪手も悪手だ。誰がいるかも分からない。分からないことだらけだが、してはいけないことだけは分かっていた。

 ミカエルと呼ばれていたあの女、彼女とは関わらない方がいい。

 妙な目をしていた。歳はそう変わらないはずなのに、まるで老婆のような目。その癖してボクのことを興味深く見て、全てを見抜いてくる。できることなら、次入ってくるのはスサノオの方がいい。その方がはるかにマシだ。

「…………」

 なんていう下らないことを考えながら、それでも一言も発さずにいると、ついにドアノブが動く。

 目の錯覚だ、早くも幻覚まで――そう言い聞かせようとして、すぐさま否定する。


 音を立てて、扉が開いた。


 上枠に頭をぶつけないように屈む姿は、あの女では到底叶わない。圧倒的に高い身長。細い見た目に良く似合う、高そうなスーツ。電灯の明かりを反射したメガネを正し、その分厚い手の甲を見せた。


 その男を知っている。

 落ち着いた空気を纏う、それでいてどこかおどけた雰囲気の男。

 ボクがここへ来るきっかけを作った張本人だから。


「ユダ……?」

「お久しぶり、というほどでもありませんか。お世話になっておりますどうも」


 その男は、確かに答えた。


「熱いラブコールをありがとうございます。確かに受け取りました、このユダが」



 ラブコールなんぞした覚えはない。

 ともあれ、部屋に入ってきた以上は何かしらの用があるはずだ。ボクが聞くより早く、ユダは持ってきていた鞄から服を取り出す。


「着替えてください」

「ここで!?」

「ええ。時間がありませんから」


 意図が読めない。扉は開いたままだ、逃げようと思えば今からでも――


「逃走のために必要な準備です。一人でなんとかしようと思わないこと」


 ふざけているとしか思えないが、しかし……このままユダから逃げ切れるとは思えない。

 体格が違いすぎる。運動をしていない、細い体のボクとは違う。

 無駄のない肉体なのだろう。見た目だけでそう判断できる。

 従うことにしよう。着替えを見られるのは恥ずかしいが。


「なんだこれ、軍服?」


 渡された服を広げてみると、どうやら随分としっかりした……どこからどう見ても、軍人用の装束だ。


「ええ。木を隠すなら森の中と言いますからね」

「いや無理だろ、どう見たって軍人なんて顔してないぞ」

「大丈夫ですよ。着替えて着いてくれば分かります」

「信じるけど、いい?」

「ええもちろん」

 強気な奴だな。

「じゃあ着替える」今のところこれしか解決策がないしな。「藤高の――もう一人捕まってるやつのこと、頼める?」

「最初から助けるつもりです。マスターの命令ですから」

「ふーん……?」


 マスターか。

 マスター……長。船長。主人。雇い主。何かを熟達したり、使いこなすこと……この場合は「主人」が当てはまるだろうな、

 船長って線はないだろう。スサノオはこの部屋を方舟とか言っていたが、船長自ら捕虜を放すのでは意味が通らない。


 ユダの主人か。悪趣味なやつなんだろうな。


 背を向けて着替え始めると、再び扉の閉まる音。おそらく藤高のところに行ったのだろう。

 頼んでおいた手前、彼に任せて良かったのだろうかと考えた。余りにも胡散臭い。本当に助けてくれるとは思えない。

 藤高のことを考えると、早く服を替えて自分で探した方がいいだろう。

 ……その前にトイレ。



◆ ◆ ◆ ◆



「似合ってますよ高田くん」

「なんだお前、ひょっとしてバカにしてる?」

「滅相もない」


 馴染まない軍服を着て藤高を探す、と言っても残すところ一部屋だ。鍵を掛けられていたからまず探すべきは――


「おい」

「はい?」

「いや、はい? はこっちのセリフだって、何してる?」

「扉を開けようかと」

「鍵もないのに?」

 待て待て待て、とりあえず構えを解け。扉に殺意を向けるな。何をする気か知らないが、さすがに扉を体一つで破れないだろ。

「ご安心を、私の筋肉は万能キーなので」

「は?」

「フ――……」

 ユダが深く息を吸ったかと思うと――

「んッ!!」

 服が弾け飛んで――

貫通爆弾筋肉バンカーバスターバルクッ!!」


 まるで、軽いプラスチックケースを外すかのようにユダが壊れた扉を脇においた。……ひしゃげた扉板を片手で持っている。それほど薄くない。


 勝手な行動をしなくて良かったと心から思った。


「なんで脱いだ?」

「力むとこうなるんですよ」

「なんでポージング?」

「モストマスキュラーです。いかがです? 冷蔵庫一台増量キャンペーンです」


 頭が痛くなってきた。


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