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AF―After Fantasy―  作者: 04号 専用機
Vengeance is mine
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一線を越えろ

 敢えて通学の時間をズラして、自分の家から学校へ通った。

 乗り慣れた電車、歩き慣れた道。

 あの時のように竹刀袋は提げていないけれど、あの時のように一人で歩いた。

 閉められた校門の前で一呼吸。

 よく見知った人影があった。

 白衣を着た細身の幽霊。メガネを直す仕草。

 なぜいるのかは分からないけど、何故だろう。いると思っていた。


 何かが起こる直前には、いつもこの科学者が居る。


「久しぶりだな、ドクトル」

「おや、意外に早いね」


 堂々としてる、なんて言われてから、そういえば裏口からこっそり入った方がいい事に気付いた。

 今更だし直す気もないけれど、いつまでもここで話しているわけにはいかないだろう。なんせドクトルのことは僕にしか見えていないのだから。

 少しでも目を離せばたちどころに見失ってしまう幽霊。視界の隅に映ってくれるならまだマシだ。


「ユダから聞いたよ。やるんだって?」

「ああその通りだ」


 腕を組んで、ドクトルが息を吐いた。


「ついに来たんだね。君みたいな渡ってきた人間に、一番人気のイベントが」

「なに?」

「助けるんでしょ?」

「いや」何を言ってるんだこいつは。「助けないよ」

「え?」

「助けない」

 目を大きく開いたドクトルと目が合う。よほど意外だったのか、それとも。

 例えどう思われようが、決めたことには関係ないが。

「恩を売ったりしないわけか」

「何も返さないか、仇で返すかのどちらかだろ? アイツらには何も期待してない」


 そうだ、何も関係ない。崇められたいわけではないし感謝がほしいわけでもない。

 神に逆らうなんて以ての外だ。

 これはノアから与えられた、注目を集めるための行為。復讐を乗せて行ってもいいならこんなにいいことはない。


「殺すさ。生かしていても仕方ない」

「面白いね君は」

「そうか?」

「そうとも。普通はこんなこと思わないし考えもしない。どうすれば自分をよく見せられるのか、そんなことばかり考えるやつをたくさん見てきたから」

「虚像だ」

 それは虚像だ。

 嘘を吐いても仕方がない。もう自分を騙すのはやめたのだ。

 助けて恩を売ってもいいかもな。そんなことを考えたこともあった。だけど、巡り巡ってまた自分が傷つくかもしれないことを思うと……今やるか、それが少し遅くなるかの違いでしかないと分かる。

 結局答えは単純に出来ていて、僕は彼らを許せないままでいるのだ。

 心の奥がチクリと痛んだ。

 身内にはとことん甘いくせに、僕はそれを蔑ろにする人間は許せない。

 記憶力も学力もない頭を満たすのはいつも苦々しい過去のことで、剣を振ることでなんとか振り払ってここまで来たんだ。

 でも、もういいかなと思ってしまった。

 時は来たのだ。

 僕を止める者はもういない。この世のどこにもいないのだから。


「俺が今欲しいものは、あいつらの感情では賄えない」


 感情じゃないんだ。まして金や、他の物質的な欲求でもない。

 ただ過去にあった罪から目を背け、のうのうと生きてきたあいつらに、せめて命による報いを。


 身体に力を漲らせ。


「じゃあドクトル、行ってくる。ユダによろしく」


 僕は境界線を飛び越える。



◆ ◆ ◆ ◆



 僕は強い。呪文のようにそう唱えた。

 正しいことをするんだ。魔法の言葉。

 強くなるんだ。

 強く在るんだ。

 強く。

 ただ強く。

 だからもう、過去を引きずって歩くのはやめにするんだ。

 怖くない。

 怖くなんて。怖くないんだ。だからこれは武者震いだ。

 汗はこの蒸し暑さのせいで、視界が揺らぐのは単なる寝不足だ。

 はっきりしない思考に頭を振った。


 いつの頃か、一つの鋼のようでありたいと願った。靱やかで、厳かで、強かな鋼のようでありたいと。

 鋼には心がなく、また考えもなく、ただ人を抜き身に写すだけ。

 責任には責任を。罪には罪を。償いには償いを。

 そして、身勝手には身勝手を。罰には罰で以て応えるのだ。


 僕は(つるぎ)だ。神の持つ一振りだ。


 終わらせよう、あの日の後悔を。

 今この場所で、命を以て償わせてやる。

 それを見せる相手はもういないけれど。それにほんの少し虚しさを覚えたりもしたけれど。でも同時に、気が楽になるのも感じた。

 妹は、櫛名(クシナ)はひょっとして、復讐なんて望んでいないかもしれないから。


 櫛名、お前が僕を見たらなんて言うかな。きっと褒めてはくれないし、僕のこと叱るかもしれないな。

 それでいいんだ。お前はそういう女で、だからこそ僕を愛してくれて、僕はお前を愛したのだから。


 櫛名。僕のたった一人の妹よ。

 もうどこにもいないというのなら、僕の思い出になってしまったというのなら。


 お前が受けた穢れは、奴らの血で雪ぐ。


「前書き後書きを使って本編の補足をする」というダサい行為は極力したくないので、今後も作者本人はあまり喋らないと思います。


いつもご覧頂きありがとうございます。

04号 専用機は皆様のPVだけに支えられて書いてるわけではありませんが、それでも凄まじい燃料になっております。

これからもゆるりと投稿・更新していきますので、どうかお付き合いください。

以上04号 専用機の中の人、01号 試作機でした。

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