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AF―After Fantasy―  作者: 04号 専用機
Vengeance is mine
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トゥー・ビギン・ウィズ

待たせたな。

 血と肉の焼ける臭い。

 屍の山。

 その頂上でボクを見下ろすその影を、よく覚えていた。


「……武神、勇志」

「お久しぶりです、高田先輩」


 死んだはずのその影は、血みどろだということが信じられないほど眩しい笑顔で座っていた。

 その表情に、少なからずの後悔と、ほんの少しの羨望を抱いたことを、ボクは忘れられない。





 ほんの少しだけ時を巻き戻し、自分のことを語ろうと思う。

 なぜ自分がそこにいて、彼の――武神 勇志の前にいるのか。その詳細に至るまでを。


 そう、あれは確か、半年ほども前のこと――




◆ ◆ ◆ ◆



 夢を見る。

 夢の内容はいくつかの幕間を挟みながら、最後はいつも同じと決まっていた。


 温かな毛布に包まれながら、ボクは誰かに運ばれている。

 手足は短く体躯は未熟で、驚く程に体重は軽い。

 何度も繰り返し見てきたから、それは「赤ん坊の頃の記憶なのだな」と知っている。


 ボクを運ぶ誰かの顔は見えないが、あまり大事に抱えてはくれない。ガクガクと揺れるうち、目隠し代わりだった毛布がズレて、外の様子が視界に飛び込む。



 今だから言えることだけど、あれはボクの故郷の空だ。

 当然それを見たのは、小さな小さな、それこそ言葉も話せない赤子の頃が最後であって、今はこの世のどこにも、そんな空も、荒野も、在りはしないと知っている。



 真っ黒な空。



 ボクがじっと見ていると、そのうち目がチカチカして来て、空が俄に色付いて、七色の光を放って――



 決まって、そこで目が覚める。


 いつも見る夢の最後は、決まってこれだ。




 眩い光に目を細め、ボクはいつものように体を起こした。


「あら、起きた」

「…………おはようございます?」


 答えてから、落ち着いて辺りを見渡す。見知った保健室だ。確か、熱っぽいとかなんとか理由を付けて、昼から寝ていたんだった。


「高田くん、お友達は先に帰っちゃったけど、良かったの?」

「ああ……構いませんよ。待たせるつもりは無かったんで」


 机の上で書類を作っていたらしい保険医に軽く挨拶をして、窓の外を見る。

 まだ明るい。

 放課後にはなったようだけど、部活動に励む生徒達で校庭は活気立っていた。


「高田広希、16時13分に起床……っと」

「いちいち付けてるんですかそれ」

「生徒の健康はしっかり把握しないとね。お仕事だから」


 ご苦労なことだと思いながら、ちらと時計を一瞥する。起きてからすこしぼんやりしていたようで、時計の分針は6を指していた。


「君、学年は?」

「一年です。高等部一年」

「オッケー。記録できたからいってちょうだい。お大事にね」


 感謝を述べて、軽く頭を下げておく。 学校に用はないし、さっさと退散することにしよう。寄りたい場所も出来たしね。



◆ ◆ ◆ ◆



 電車に揺られながら、もう一度目を閉じた。

 別段眠いというわけではないが、その日一日の記憶を整理するには丁度いい。

 ガタゴト揺れる力に身を任せ、瞼の裏に流れてくる映像を早回しで飛ばしていく。


 ボクは一度見聞きしたものを忘れることができない。

 それを苦しいと思ったことは無いが、夜になって目を閉じるといつも映像がフラッシュバックして、中々寝付けないからこそ、こうして「目を閉じる時間」を設けて脳を休ませる。

 今日は短くて済みそうだ。

 特に沢山の人から話しかけられたわけでもなく、特別に取り上げるようなこともない、いつも通りの日々。

 ただ授業のことを整理して――一度読んだ教科書や、他の参考書と照合していく。

 あまり頼りにならない教師にため息をついて、同時に電車のアナウンスを聞いた。

 もう降りる駅に着いたらしい。



 学校から徒歩5分、そこから電車で20分。駅から歩いて15分。

 締めて40分。

 軽い小説なら一冊読み終わる程度の時間で、目的地にたどり着く。


 あの夢を見た日は無性にここへ来たくなる。


 今や空き家になってしまった、比較的大きな道場に併設された一軒家。


 表札には「武神」と書かれている。

 僕の後輩がかつて住んでいた家だ。

 過去形なことに理由はある。少し前に悲惨が事件があって――そのせいか、この辺りにはあまり人が寄り付かなくなってしまった。

 だから、人がいることは珍しいのだが。


「あれ」


 今日はその『珍しい』例に当てはまるようだ。

 先客がいる。


 家の前で誰かを待っているのだろうか、それにしては違和感だらけだが。

 高価そうなスーツ――礼服だろうか、それに身を包んだ、姿勢正しく立っている、背の高い男。

 タバコを吸うでもなく、端末を弄るでもなく、ただそこで表札を見ている。

 なんだこいつ。


 先に声を上げてしまった僕に気付いたのか、男が僕のことを見た。

 物腰の柔らかそうな印象を受ける。


 男が口を開く。落ち着きのある低めの声。


「おや、珍しい。来客ですか」


 こちらのセリフだ。

 返せないまま訝しげにねめつけると、男は手を挙げる。


「そう警戒しないでいただきたいですね。私は人を待っているだけでして」


 武器は持っていないと言いたいのか、ニッコリと笑って見せた。

 胡散臭いのはそこじゃないんだけどな。


「こんなところで待ち合わせですか?」


 睨むようにして、少し荒い語気できいた。


「ええ、こんなところで。おかしいですか?」

 相手はケロリと答えて見せた。



「いや、珍しいなって。この辺、最近物騒ですから」


 どうにも怪しい。ボクは毎日ここに来ている訳ではないけど、こんな男に会ったことは一度として無かった。

 誰なんだコイツは。


「物騒と言えば……嫌な、事件でしたね、あれは」

「知ってるんですか?」

「ええ、まぁ。一家四人が殺害されたのは、まだ記憶に新しい」


 そう、そうだ。

 だからこそ怪しいと思う。犯人は現場に戻ってくると言うじゃないか。

 別に犯人だと疑ってるわけではないし、そもそも首を突っ込むつもりもないけれど。

 でも、男は家の中を見つめながら、ボクに向けて言った。


「そういえば、まだ見つかっていない遺体があるんですよね。ご存知で?」


 知るわけないだろ……と言いたいが。ボクはそれを知っている。


「報道に若干の偏りがあった」咳払いをして。「警察は明かしたくない様だけど、明らかに一人見つかってない」


 そう、この現場から一人だけ、遺体で見つかるはずの人間が見つかっていない。少し注意深くニュースを見ていれば気付くことだ。


「名前は武神 勇志(タケガミユウジ)。年齢は15。一昨年までは剣道で優秀な成績を修めてた。何をやるにも真面目で、今どき珍しいくらい真っ直ぐな――」


 そして、それがここに来ている理由。

 今傍らに立っている男とは違い、ボクには『追悼』という理由がある。


「――ボクの後輩、だった男だ」


「それはまたお気の毒に」

「ボクは追悼に来ているんですよ、時々ね。これが理由です。それで? 隣のあなたはどんな理由があってここに?」


 悼むでも無い、誰かを待つでもない。明確な理由もなく、わざわざ死人の家――言い方が悪いか――空き家の前に陣取っている。

 おかしいと思うのが普通だろう。ただでさえ近隣住民は減っているのに。

 犯人もまだ見つかってないし。


 ボクの怪訝な視線に耐えかねたのか、男はまた手を挙げて肩をすくめた。


「いえね? 私はただ、この家に入っていく人影を見ただけですよ。その証拠にほら、鍵が開いている」


 そう言って、男は扉を指さした。

 玄関の引き戸が少しだけ開いていた。


「興味あるでしょう?」

「……何者だ、アンタ」

「おや? そういえば自己紹介がまだでした」


 思えば、これが全てのきっかけだった。

 いつも通りの夢。突然の来訪者。まるで招き入れるように開いていた扉。

 そしてこの男の名前を知った時。


 歯車は嵌り、動き始めた。


「名はユダ。ただのユダです。以後お見知り置きを」



 これはアフター・ファンタジー。


 終わったあとの物語だ。


これより二章の投稿を開始する!!

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