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AF―After Fantasy―  作者: 04号 専用機
Beyond belief
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 止められない。

 ルシフェルは止まらない。

 もし今、この攻めを凌いだとしても次がある。更に防いだとして、その次は? その次の次は?

  意味の無い思考がぐるぐる回り――魔力 が電光のように走る。

 受け止めた刃は頭上で止まり、それでもなお強く、重りは僕の体を沈ませていく。

 動けない。

 余りある枷。その瞬間に縫い付けられたかのように、僕はそこから動けずにいる。気を抜けば全てを二つに裂かれ、二度と元には戻れない。

 在るのはただ、明確な死。

 諦めれば、僕は死ぬ。

 死ぬんだ。

 いつもこうだと、思わず笑みを零す。吊り上がった口角はすぐさま引き締めて、俯かされた面を上げて睨みつける。


 前を見ろ。

 今ここではなく、次の瞬間を。

 次を。その次を。更にまた次を。諦めるな。勝利の先まで。辿り着くまで歩みを止めるな。

 目の前の瞳に、はっきりと、 不退転の意を叩き付け。

 思いに呼応し、魔力が炎のように刀身から昇る。

 スパーク。明滅。走馬灯。あの日。あの時。いつかの瞬間。めぐるましく。

 暗く。眩く。

 だけれど、確かに、誰よりも熱く。

「知っているはずだ」

 ここまで歩んできた。

 ここまで辿り着くために。

 やっとその背中に届く。

 離れない。もう二度と!

「諦める気は無いと」

 何も手に出来ない人生だった。

 友はなく、敵はなく、愛を知ろうとせず、だから葛藤も、思慮も、理想も、達成感も後悔も。

 夢でさえ。

 僕にとって空虚なものだった。

 空っぽのまま生き、空っぽに死ぬのだと思った。何も知らないまま。何も思わず。

 きっと、ルシフェルが来なければ、僕は願わずとも、図らずとも、そうなっていただろう。

 でも方舟で、僕は知った。

 自らの命を。

 夢の形を。

 欲しかったものを。

 ルシフェル、お前は僕をどう見ている。お前にとって、僕はまだあの時の――ただお前に殺されるだけだったあの時の――臆病で、(うつろ)な子供のままか。

 こうして、まさしく今のごとく、ずっと進まないままか。

 だけどお前は知っているだろう。ずっと見てきたのだから。父より、母より、妹よりもずっと、もっと誰よりも近くで、僕を見てきたお前ならば。

 ルシフェル。


「立ち止まるのはもうやめにしよう」


 僕は進む。


 例え何を置き去りにしても、前へ進む。


 だって、僕はもう知っているから。

 死の淵で面を上げた人間にだけ、未来と言う向こう岸が見えるということを。

 死の淵で諦めなかった人間だけが、向こう岸へ跳べるということを。

 だからルシフェル、お前はそこで待っていろ。僕が死の淵を超えるその時まで。お前はそこで待っていて、ただ僕が落ちることを思うだけでいい。

 どれだけ無様と笑われてもいい。

 気にも留めない。

 僕はついに手にしたのだから。

「今度こそ……お前に追いつく!」

 叶えたい夢を――歩み続ける覚悟を――誰よりも熱く、何よりも深く、どんな刃よりも、鋭く。

 どんな砂漠を往くよりも、遥かに過酷な渇望を。

 僕は遂に、手に入れたのだから!

「おおおおおッ」

 意思が体を突き動かす。誰の声でもなく、僕自身の心が、勝つのは今だと叫んでいる。

 今こそ、死の淵を超える時。

 迸る魔力が全身を軋ませながら、錆び付いたような関節にまで巡る。

 押し返していく。

 今までは、決して返せなかったルシフェルの力を、徐々に押し返していく。

 早鐘のような心音が心地よく、乱れた呼吸に快感を覚える。


 戦えている。

 あのルシフェルを相手に。

 如何にハンデがあるとは言えども、紛れもない事実だ。


 無理矢理息を整えて、未だ伸し掛る重圧をいなす。

 未来を予知。攻撃はやはり止まらない。ならば、すべきは一つだけ。

 血の形状を再び一本の刀へ。空いた手に握られた刃はまっすぐに僕の首を狙う。

 その角度、衝撃、速さ。全て予見通り。

 合わせる。

 前へ踏み出す。

 攻撃のタイミングに合わせ、速度に乗る前に叩き落とし更に前へ。

 繰り出される挟撃よりも早く前へ。

 敵が下がるより早く。

 その拳を突き出すより早く。

 早く。

 早く、一歩でなくとも、半歩でもいい。とにかく前へ。躱しながら防ぎながら流しながら、ひたすらに距離を詰めていく。下がる相手から離れず、自分の間合いへと引きずり込む。

「この……っ魔力も無しに……!」

 見えた。

 下がる足に僕のつま先を差し出す。不意の足払いに思わずルシフェルの動きが鈍る。

 ここだ。

 決める。

 ありったけの魔力で肉体と刃を強化する。

 防御を欠かさず。かと言って攻撃も疎かにせず。

 イメージしろ。振るうは大剣。なれど刃は大業物。それを振るう自分自身を。

 鋼鉄のような筋肉を――叩き上げられた心で。

 イメージしろ。すべてを斬り裂く鮮やかな剣戟を。

 風など吹かずとも。

 光速に迫らずとも。

 僕の考えうる中で、最も美しい一撃を。

 無駄な力を削ぎ落とし、必要な部分だけを強く意識。筋肉の一つ、血管の一本その全てまで。

 極限の集中で、敵を下せ。

「シィィィイイ――!!」

 強く。

 呼気を短く――叩き込め!


 滑らかな光が、方舟の空を掛けて行く。

 振るったはずの僕自身、それをどこか遠い目で見つめていた。

 一秒先に勝ちを見た。

 刃の到達を。

 鮮やかな軌跡が、方舟の空を斬り裂いていく。

 空気がヒュウと鳴る。

 風の音。

 それを僕は、どこか遠い目で見た。

 柔い感触――返り血を浴びて――硬い――骨まで到達した刃は臓物を斬る。

 剣の勢いは死に、無くなったような、通り過ぎたような手応えと、鈍色の輝きが。

 確かに、ルシフェルに届いたことを告げた。


「……か……は……あ……」

 しばらく、固まって、互いに荒く息を交わした。


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