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AF―After Fantasy―  作者: 04号 専用機
Beyond belief
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最後の光

 二刀を構え、呼吸を整え、魔力の揺らぎを抑える。

「お前に俺は倒せない。諦めろスサノオ」

 だから大人しく。そう言いたいらしい。

「断る」

 僕はずっと待っていた、この時を。この時をこそ。

 やっと戻ってきたのだ。

 もう怖くない。

 何も怖くない。

 震えもせず、恐れもせず、僕はルシフェルを前にしている。

 あの日と同じくルシフェルは二刀。その魔力に揺らぎは見えない。僕は大きな傷を負い、そしてあの日と違って、ユダという大きな味方もいない。


 あの日、あの時、あの場所で。


 僕はルシフェルのことを知った。それは始め、敵に過ぎず、憎むべき存在に過ぎず。妬むことしかない相手だった。

 幾度か相対するうちに、その気持ちは変わっていく。

 今この時も。

 憎しみは疑問へ。

 疑問は答えへ。

 答えは憧れへと。


 僕がルシフェルに抱くのは憧れだ。

 老いないことでなく。その強さではなく。

 渇望に、願望に、それを感じる心に憧れた。

 殺せなくとも構わない。

 命など喜んで差し出そう。

 ルシフェルにはそれだけの価値があり、僕は未だに空白で。

 その渇望には、その命には、その覚悟には、埋めがたいほど大きな谷で隔たれていて。

 そちら側の景色を知るには最早、橋を架けるか――飛び越えるしかない。


 超えていこう、今この時に。

 過去の自分を。


「ルシフェル。お前には負けない。今日こそ勝つ」

 こちらも荒く、息を整え傷を治す。

 傷を塞ぎ始めた瞬間に、ルシフェルの脚が地面を踏み砕いて、体を前へ加速させた。

 治癒の瞬間を狙うか。

 甘いな。

 心臓で渦巻く魔力の回転を一気に引き上げ、魔力をたちまち全身へ巡らせる。両腕を切り落とすはずの二刀は空を斬り、刃が重なるのに合わせて刀を叩きつける。

 崩した。

「ハッ!」

 確信に刃が走る。

 途端、地面に突き刺さった剣の片方が誘拐するように――元々は血液だったか――溶け、今度は盾を象った。

 短い息。あるだけの力で盾に刀をぶつける。

 厄介な。

 血液に形を与える能力か。これほどに使い勝手がいいとは。

 剣から盾へ。与えられる形状は一度に一つでは無い。

 血液に戻せば形状はリセット可能、攻守一体の能力。

 それに加え、赤いオーラに剣術と体術。

 勝ちの目など、後から探せばいいのだが。

 盾ごと相手を押さえつけながら、僕は言う。

「分かってたんだ。お前が強いことは」

 僕より強いことを、僕は最初から知っていたと。

「だからこそ、分からなかった。なぜ胸を張って家に戻ってこないのか。なぜ家族を殺したのか。なぜ俺の魂を付け狙うのか」

 分からないことだらけで。ルシフェルは何も話してはくれなくて。僕は自分で考えなくてはならなくて。

  そして、一つの答えにたどり着いた。

「なぁルシフェル、お前はもう…………この方舟で、家族を得たんじゃないか?」

 ルシフェルにとって、家族はここに居る。

 ミカエルがそうだ。

 ゼウスがそうだ。

 そして、僕もまた、そうだ。

 家族はすでにここに居る。ルシフェルはそれに気付いていて――


「やっぱり……お前、勘違いしてるよ」


 ――聞こえたのは、冷たい声。


「NSとは家族になれないんだ。あいつらは家族というものを知らない。必要ともしない。だから……だから、NSは、家族を求めないし、家族の形を理解していないんだ」

 それはつまり、ルシフェルの理想だ。それは僕の手にあり、僕の理想はやはり、ここにある。

「信じられるか? この方舟で俺だけが! 俺だけが理解してる! 俺だけが欲してる! 家族という繋がりを! 一人で立てないと! ずっと歩き続けてやっと! やっと気付いたんだ。その頃には、もう……」

 全てが手遅れだったと、ルシフェルは言う。

 盾は溶け、血はルシフェルの剣を覆い、その刃を巨大な物へと変えていく。

「嘘をつけば、それで良かったんだ。そんなこと分かってるんだよ……! わかり切ってる! だけど、出来ないんだ……どうしても、できない。あの人たちの前で、俺は嘘をつきたくなかったんだ」

 殺すしかなかった。真実の全てを受け入れてくれるはずがなかった。だからこれしかなかった。

 心に感じるのは後悔だ。自分の行いを、ルシフェルは誰よりも悔いている。

「本当は、胸を張ってこの姿を見せたかった……! あんたの息子は生きてるって。ここにこうして立ってるって……! でも、どうしてそんなことが出来る? 俺は人殺しで……戦場にしか居場所がなくて……!!」

 その言葉の一つ一つ。

 どれだけ零しても、決して消えない後悔だ。

「出来ないよ…………お前達は余りに……本物は余りに、眩しすぎるから」

 一瞬、その顔が皮肉に笑った。

 口角を吊り上げ、眉は苦しげに曲がり。

 笑うしかない表情を、強すぎる感情が食い潰そうとしている。


「だから、決めたんだ。その光をかき消そうって」


 魔力が一転。

 真っ赤なオーラへと裏返る。

「お前が最後の一筋だ」

 ふわり、と――あまりにも軽く、ルシフェルが距離を潰した。

 然して、その踏み込みは重く。

 振りかざされる超速の剣もまた、重い。

「せめてもの、赤く染まって死んでいけ」


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