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AF―After Fantasy―  作者: 04号 専用機
Beyond belief
64/166

威風堂々

 一歩。


 ユダの気配が消え去って。


 目の前に、装置が見えた。


 踏み込む。


 力一杯に。


 魔力の循環を一気に早める。イメージを崩さず。心臓の鼓動――血液の躍動――筋肉の――魔力の潤滑、その流量を、一気に、爆発的に上げて足を瞬間的に強化する。


 一息に装置へ。


 駆けたその先に、今度はルシフェルの意志が足を引く。

 いいだろうとほくそ笑み。

 一度だけ、ルシフェルの前で立ち止まる。


「来たな」

 ルシフェルは言い。

「ああとも」

 僕は答える。


 得物は抜かず、しばらく無言で目を合わせる。

 悲しみを帯びた眸。

 だけど、一歩の躊躇も覚えない。

 時は残されておらず、二人の間に壁はなく。また、敗北を恐れてもいない。


 負けない。


 ただそれだけ。


 短い言葉のやり取りは、互いの思いを伝えるには十分だ。

 語るべきはここにはない。

 嘆くべきはここにはない。

 それに気づいた時、二人は得物を手に取った。


 居合の構え。

 奇しくも考えることは同じだ。

 落ち着けと言い聞かせ、目を閉じた。

 見詰めることに意味は無い。だとして、今はただ、正確に未来を知るべきだ。

 その時を逃すな。チャンスは交錯の一瞬。

 一秒。

 二秒……。


 三秒。


 ここだ!


 間合いが重なったまま、ルシフェルの剣が抜き放たれた。

 それを一歩引いて躱す。

 狐につままれたような、ギョッとした顔。

「その面が見たかった」

 一歩踏み込む。

 意識が外れた隙を逃さない。

 一息に装置へ。姿をくらましたことに驚いたのか、ルシフェルはあたりを忙しなく見渡して。


 僕はそれを、装置の上に立って見つめる。


 ポケットから鍵を取り出して。


「これで……振り出しだ」


 確かに装置へ突き立てた。

 装置を覆うようにトビラが展開され、それに飲まれていく。

 鍵にはこういう使い方もあると、あいつが確かに言っていたか。

 ユダ。裏切りのユダ。常に役に立つ情報を持ち歩くが故に、あいつは裏切り者でいられるのだ。

 ルシフェルの目が驚愕で見開かれる。

「お前……! 自分が何をしたか分かっているのか!」

「分かっているとも。装置は二つ。だがそのどちらかが無くなっても、お前の願いは果たされない」


 だからこそ、こうする必要があった。

 僕だけが何かを取り戻さねばならない。そんな勝負は公平じゃない。

 揃えたかった。僕とルシフェル、お互いの想いを。

 渇望が必要なのだ。何かを手に入れたいという渇望が。

 家族だとか絆だとか人生だとか、そんな曖昧な物でなく。

 今確かに目に見える、何かが。


「選べルシフェル。二つに一つ。ここでくだらん戦いを続けるか、それとも戦いを捨てて装置を追うか」


 迷うことのない選択肢。僕から鍵を奪うことが最良だ。そんなことはルシフェルだって分かっている。

 僕はミカエルを助けたい。

 ルシフェルは装置を取り戻したい。

 これで、条件は揃った。

「出来ないよな? 選ぶべくもないだろう? だからこそ。……お前は俺と戦うしかない」

 さぁ今一度。

 刮目すべきは僕だ。

 ルシフェルを。ミカエルを。今ここにいる僕を。この場所は一体なんなのか。

 その全てを、知る時が来た。

 ああ、そうとも。ルシフェルの言った通り。


「来い。これで最後だ」


  これが全て。これが最後。

 僕が殺意を以て、家族に刃を向けるのは、これきりにしよう。


 ルシフェルは、その長い髪を掻き乱す。

 そしていつぞや叫んだ時と同じように、俯いて、唸るように言葉を零す。

「分からない……分からないぞ? なぜそこまで彼女にこだわる。お前にとって、彼女は敵だった……そのはずだろう?」

 そして、続ける。

「命を狙うことに変わりはない。お前は戦いに縛られてる。そう仕向けたのはミカエルだ。なのになぜ……何故だ? 何がお前を突き動かす!」

 バカバカしい問だ。

 あまりにも、分かりきった問いかけだ。

 目を閉じた。

 未来を視るはずの僕の目が、その時だけは、過去を見ていた。

 死の間際でなく、生の渇望の中、過去を見ていた。


 それはミカエルと出会った記憶だ。

 それはミカエルと戦った記憶だ。

 それはミカエルと手を結んだ記憶だ。


 それは、ミカエルに、支えられた記憶だ。


 僕は知っている。

 自分は勝てるということを。

 死でなく。命でなく。

 確かな勝利を掴めるということを。

 僕は既に知っている。

 勝利が、ルシフェルへの勝利が、なんなのかということを!


「…………初めてなんだ」

「なに?」

「初めてだった」

 柄に手を掛け、鞘を遊ばせる。

「今までずっと、それは夢物語に過ぎなかった。ずっと、届かないものと思っていたんだ」

 追いかけるだけ無駄なものだと。そこには存在しないものだと。

 僕がずっと、憧れるだけだった夢。

「その夢を、笑わなかったのはミカエルだけだった。――俺の夢に……『出来るよ』と! 背中を押してくれたあいつのために、俺は今この刃を振るう!!」


 理由なんて、それだけだ。

 ミカエルは出来ると言ってくれた。途方もない僕の夢を、笑わず受け止めてくれた。

 応えねばならない。


 応えなくては。


 その思いに。僕自身の夢に。


 決して嘘はつきたくない。嘘であったと言いたくない。

 僕はただ――ただ正直に。自分に嘘という泥を塗りたくないだけ。


 それで充分なのだ。それだけでいい。それが、僕の中にある、最も……最も。


 最も強き渇望だから。


「構えろルシフェル。どんなでもいい。ただひたすらに……情けない姿は見せてくれるな」


もちろん俺らは旅行をするで。

……なんで?

『車』で!!

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