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AF―After Fantasy―  作者: 04号 専用機
Beyond belief
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契約

 跳ねるようにして体起こした。

 どれくらい寝ていた?

 戻ってくるのに何分かかった?

 ミカエルが、危ない。

 忙しなく部屋を見渡して、自分の刀を引っ掴む。

「お前、ホントに寝起きっから騒がしいな」

「ゼウス、俺は行く」

「はいよ、好きにしな」

 ベッドから降りて。

 ポケットをまさぐり。

 鍵ではない、別のものに手が当たる。

 ……というか、このパーカーはもう使えそうにないな。派手に破れているし、血塗れだ。

「……世話になった」

「分かんねェぜ? 世話になんのはこれからかもな」

 ぐぅ、と腹が鳴る。

 消耗した体には、補給が必要だった。

 ポケットから携帯食糧を取り出して、パーカーを脱いで畳む。

 ベッドの上に置いてから。


「食うのか?」


 そう、ゼウスが問いかける。

 この行為に、何か意味があると言いたげに。

 急いでいる。

 急いではいる。

 だからこそ、目の前のこと、一つずつを片付けていかねば。

「ああとも」と、僕は答えて。

「そうかい」と、ゼウスは返して、「お前が決めたことなんだな?」

 腹が減ったから食うのだ。それ以上も以下もない。

 頷くと、ゼウスは満足気に息を吐く。

「なら食ってけ。ゴミはコッチで処分しとくよ」

 促されるまま、封を開けて口に頬張る。

 甘い――固めの食感――チョコレートのような――固形の食料。

 それを噛み砕き、胃に落としていく。嚥下は喉に引っかかるようで、しかし水を飲んでいる暇さえ惜しかった。

 一分一秒を争う。

 梱包を放り投げて。

「ありがとう」

「礼を言うのはこっちの方だよ」ゼウスは嬉しそうに目を細めて。「これで契約完了だ」

「……何か言ったか?」

「いンや。行ってらっしゃいってだけさ」

 気になるが、いいだろう。

 また、確かめに来ればいいだけだ。

「では行ってくる」

「推薦状書いとくよ、期待しとけ」

 僕は戸を開け、表層へと躍り出た。


◆◆◆◆


 方舟を駆ける。

 駆ける。

 駆ける。

 一縷の望みに賭ける。

 ミカエルはまだ生きている。

 その望みに賭けて、駆ける。

 願わくば、なんの障害もなく、彼女の元まで辿り着けるように。

 だが現実はそうはいかない。

 駆けていく方向とは少しズレた位置へと引き寄せられる。目的地が徐々に遠のいていく。

 装置まであと少し。あと少しなのに――僕を引き止めるものが、確かにいた。

 そう、僕はこいつを倒さねばならない。

 たどり着くためには。

 救うためには。

 この男――

「また、会ったな」

「感動の再開ですねぇ」

 ――裏切りのユダを、超えて行かねば。


 集中。今まで曖昧だった魔力の中心点、収束点を心臓に定め――流れに従い、魔力を流す。

 乱れず淀まず、血管の中を流れるように。


「……結構。どうやらまた一段とお強くなられた」

「まだ試していないもんでな。お前はうってつけというやつだ」

 柄に手をかけた僕を見て、ユダは敢えて何もせず。

「やめにしましょう」

 ただ、ゆっくりと両手を上げる。

「なんのつもりだ」

「どうもこうもありませんよ。あなたは我々にミカエルを引き渡した。ならば私はルシフェルの隙を作らねばならない」

 ふと、少し前に交わした言葉を思い出し。

「そういう取引をしたはずです」

「断っただろう」

「あの時はね。しかし約束は果たされました」

 結果的にはだ。僕にその気はなかった。

「だから、ここは一時休戦です。貴方が無傷で、いち早く装置まで辿り着くこと。それこそが、ルシフェルの隙に繋がります」

 どうやら。

「本当に戦う気はないのか」

「無論」

 構えは解かない。

 装置の形。その位置。ミカエルの協力と、ルシフェルの目。その二つを持ってして、僕は正確に把握している。

 ユダを倒していくことが最大の懸念だった。

 後ろを取られる可能性もある。

 だが、今ここで戦う必要がないなら願ったり。

「……なぜだ」

「分かっているでしょう。いや、聞いていたはずですとも。私が見たいのは『貴方達二人』の結末であり、ルシフェルの悲願ではない」

 理解はしていた。

 だが納得はできない。

 つまりこいつが動く理由に腹を据えかねるのだ。

 ユダ。裏切りのユダ。

 だから、信用するに足らない。

 その強さは確かなものだ。一度敵に回って痛いほど身に染みている。だからこそ、こいつが自由に動いているこの状況を、僕は少しだけ恐れている。

 だから。


「お前の掌では踊らない」


 僕は断固として、意志を示す。


「お前が何を想像しているかは知らない。だが、どうやって勝つかは俺が決めるし――」


 一歩。


 踏み出す。


「――何が勝利か。それも、俺が決めることだ」


 強くイメージする。


 装置の形を。


 ガラスケースのような、透明な装置。


 どちらか一つでいい。


 辿り着くことに、意味はある。


「行ってらっしゃいませ。次会う時はどうか玉座で。期待しておりますよ――凄之男(スサノオ)


 一歩。


 ユダの気配が消え去って。


 目の前に、装置が見えた。


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