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AF―After Fantasy―  作者: 04号 専用機
Beyond belief
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稲光

 足を狭く。

 右手を前に。

 力を抜いて、顎を引く。

 来ればいい。

 攻めてくればいい。

 確実に打ち落とす。この居合で。

 出来る確信があった。


 目を開く。

 空を斬る音。 面を狙ってきたか。

 左半身を引く。

 そのまま、居合で切り上げて。


 甲高い音が響き、それがゴングとなった。

「殺す! 今ここで!」

「やってみろ!」

 感じるのは怒り。(ひとえ)に強い怒り。感情に任せ刃を振るうルシフェルに、少し前の自分を重ねる。


 なるほど確かに隙だらけ。その肉体も、精神も。

 突き崩されて然るべし。


 魔力の循環を早める。

 時間を決めろ。ミカエルの死までそう遠くない。彼女を助けるためにはどの程度時間が要るのか。

 見定めろ。勝利のための道筋を。

 そして導け。そこへと辿り着くための、たった一つの未来の姿(ビジョン)を!

 幾許かの交錯を終えて鍔迫り合う。いつしか傾いていた力の天秤は、今や釣り合いどちらも押し切れずにいる。

 それは心に在るもの故に。

「俺達は、馬鹿だな」

「なに?」

「そうだろルシフェル。(かしこ)ぶったって無駄だよ。認めなくちゃならない」

 それは、互いに認めたものの、確かな差。

「ただ受け入れれば良かったんだ。自分に嘘をつくことを。自分につかれた嘘を」

 たった一つの単純なこと。そのためだけに、僕らはこうして争っている。

「俺にはお前がいた。ただそれだけだ」

 家族。

 そのために、そのためだけに。

 人はここまで馬鹿になれる。

「だけど、お前には誰もいなかった。そうだよなルシフェル。家族に囲まれ、お前のことを願った俺とは違って……お前には方舟しかなく、そのためには強くなるしかなかった」

 それは悲しいことなのか。それは忌むべきことなのか。

 僕には分からないが、少なくとも、ルシフェルにとっては。

「俺達は、互いに別のものを極めた。同じものを手に入れるためにな」

 敵を求め。

 家族を求め。

 その根源にあるものは同じ。


「僕は兄が欲しかったんだ」


 隣に誰かがいれば良かった。

 同じ人から産まれた誰かが。

 兄がいれば何かが変わったとは言えない。それはたらればの話に過ぎず、僕らにとって、今ここにあるものが全てだから。

 けど思うことは自由だろう?

 兄がいた過去を。ルシフェルが、僕の兄として生きている未来を。

 きっと強さを求めることは変わらない。

 けど手段は変わっていた。

 こんな血腥(ちなまぐさ)い強さではなく。

 兄を越すため。妹に背中を見せるため。

 その最中(さなか)にいる僕は、なんと心地よかったことだろう。

 きっとルシフェルだってそうだ。本当は家族を殺すことなど望んでいない。こうなってしまったのは、僕らが嘘を認めなかったから。


 僕には兄がいた。ルシフェルには家族がいた。


 それだけのこと。


「知った風に語るなよ。お前の魂は片割れだ! 返してもらう! そうすれば俺は……俺は……!」

「人間にはなれんだろうさ」

 いや、もしかしたら成れるのかもしれない。

 ルシフェルが認めないだけで。

「きっと納得などしないだろうさ。お前の勝利は幻だ。この先ずっと悔いることになる」

 体ごと刃を押し込む。

 均衡が崩れた一瞬、ルシフェルは怖がるように退いた。

「だからなんだ!? 後悔? 後悔だと!! 俺はずっとその中にいる! 今更だ、悔いの一つや二つなど、いくらでも背負う!」

 ああ、それではいけない。

 それだけはダメだ。

 ルシフェルがずっと後悔を残したままなんて、きっと僕は納得しない。

「だから言うんだ。お前の勝利は幻だと」

 それは勝ったという思い込みに過ぎない。

 勝ちというものを履き違えている。そんなものは勝利ではない。

「教えてやるよ。そういうのは勝利とは言わん」

 僕は何を恐れていたのだろう。

 ルシフェルが望んだものは、すぐそこに、手を伸ばせばそれでいいと言うのに。

 何を恐れることがある。

 手を伸ばせ。僕の手を。

 掴み取れば、僕の勝ちだ。


「だから見せてやる。俺の……俺なりの勝ち方を」


 八相に構える。

 ちらりとミカエルを見た。

 意識が薄れているのか。呼吸が浅く、顔色も随分と悪い。

 急がねば。


 逸る気持ちを抑え、真っ直ぐにルシフェルを見た。

 構えないまま。

「おかしなことをぐだぐだと。何度も同じことを言わせるな。俺達はもう、互いに殺し合うしか道はないんだ」

「笑わせる。まだ目が見えていないのか?」

「お前……」

 身に纏うオーラが真っ赤に染まる。

 銀剣はない。

 あのオーラと銀は同時に使えない。さすがに覚えた。

 ならば攻撃あるのみだ。

 正面から、相手に反撃の隙を与えないほど。

 強く、激しく、燃え盛る炎の如く。

 攻めるべし。


 八相から脇に構えを変えて。

 グンと強く踏み込んだ。

 血管の中に魔力が通るような感覚。呼吸によって酸素を送り、速度をさら上げていく。

 屈むように上半身を落とし、刀を背中で隠すよう後方へ回す。

 握る手は左。柄頭を強く強く握り込む。

 右拳を、左腕に沿わせて。


 前へと跳躍。


 高さはなく、滑るような移動に、ルシフェルは目を見開いた。

 潰された間合い。構えなかったルシフェルは慌てて防ごうとする。

 遅い。

武神(タケガミ)流――」

 右拳を、強く。

 強く、地面に向けて打ち出す。

 押さえ込んでいた左腕は、拳の勢いを乗せて加速。想定よりも遥かに早く、ルシフェルへと届く。

 魔力を巡らせる。

 空気の管。血管からパイプへと繋げ。

 さらにイメージ。

 空気を受けた炎が、大きく真っ赤に威力を増す様を。

「一刀紅枝垂(ベニシダレ)

 ルシフェルの纏う深紅のオーラに、僕の魔力が衝突する。

 一瞬の歯止め。オーラが止めたか思いきや、勢いは死なずに刃が走る。

 稲妻を起こしながら。

 ルシフェルの肉体を、柔らかな手応えで滑っていく。

 巻き上がる鮮血。

 届いたことを確信する。


「節穴だな。まさか油断したってこともあるまい」


 三度、ルシフェルが距離を取る。

 深呼吸。

 見る間に傷が塞がっていく。

 今まで荒波立っていたオーラが鎮まる。


「……認めるよ。お前のことを、まだ甘く見ていたらしい」


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