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AF―After Fantasy―  作者: 04号 専用機
Beyond belief
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一撃

 地面に赤黒い花が咲く。

 魔力の放出は感じなかった。

 ただの力でここまでダメージを負わされた。

 体術でもあちらが上。剣の扱いは言わずもがな。

 勝ちの目が無い。

 今ある魔力を全て使って、残量はそれでお終いだ。

 死を覚悟して戦うか。

 死を恐れて傷を治すか。

 二つに一つ、迷うことの無い選択肢。

「お前の……ことなど……認めない!」

 口から血を流しながら、フラつく脚で立ち上がる。

 治癒に回す余裕は無い。

 かと言って、勝ち目も無い。

 僕は何をしているんだろう……父さんが求め続けてきたものを、今自らの手で放そうとしている。


 勝つことだけが全てではない。

 その言葉が重く、伸し掛る。

 だけど、他にどうしろって言うんだ。

 僕にはこれしかない。

 戦うこと以外、何も学んでこなかった。

 だから、戦うこと以外、何も、要らない。

「おい……正気か?」

「さぁな……」苦しい。「自分にも分からない」

 どうしても、勝ちたい。

 今あるのはそれだけ。

 頭に昇った血が吐き出され、スっと冷静になっていく。

 足取りは覚束無いが、それでもいい。

 剣を振ることさえできれば問題は無い。

 最期の時は、戦うことに決めている。

 それに今一度省みて、僕らの目的はお互いに、遠く離れてはいないと思った。

 ルシフェルは僕の魂が欲しい。

 僕は最期に勝利が欲しい。


 ずっと二人はすれ違って来たのだろう。

 ずっと同じものを求めてきた。

 だからもういい。

 こんな男と吐き捨てたいが、相手は確かな強者だ。

「怖いと言うなら、止めてみろ」

 相手にとって不足はない。

 これほどの相手に全てをぶつけられるなら、あるいは。

 僕は満足して終われるだろうか?


 口から滴る紅い筋を拭って、ルシフェルをねめつける。

 随分と手足が重い。振るえたとして数発が限界だろう。確実に、無駄なく。急所に叩き込む。

「命知らずが」

「なんとでも言えば良い」

 見極めろ。

 もう魔力は使えない。

 身に纏う鎧を解き、その分を攻撃に回す。

 左腕を介して魔力の全てを刀身へ。

 きっと、狙いなど最初からバレているのだから。

 隠す必要など、どこにもない。

 ルシフェルがため息を吐いた。

 ゆらと、姿が沈む。

 ここだ。

「シッ――」呼気(いきをはく)。「ッダァアア!」

 構えた刀を地面へ。抉り削った礫に魔力を纏わせ、勢いのまま投げ飛ばす。

 この程度目くらましにもならない。

 だが、まだやれることはある。

 砕けた礫の魔力を接続。刀から伸びる魔力を糸のように細く整形し、一個ずつに宿る力を大きく。

 伸びろ。

 イメージは手。

 ドクトルがそうしたものと比べるべくもないほど稚拙で構わない。

 僕の魔力はそれで終わり。

 一瞬でいい、やつの意識を逸らすことが出来れば充分。

 倒れ込むようにして前へ。

 掴むことなどできるわけが無い。その魔力にはなんら念など篭っていないのだから。だが匂わせるだけでいい。

 こいつがそうしたように。

 ドクトルがそうであるように。

 魔力の手で動きを封じられると匂わせるだけで。

 隙はできる。

「ぬ……!」

 来た。

 ルシフェルが下がる。その目は確実に魔力の方を向いていた。

 僕のことを微かでも見逃したなら、それでいい。

 勝てる。刀を大きく振りかぶる。

 太鼓を強く打つように。

 そんな言葉が脳裏を過ぎって、思わず口角が緩む。

 父さんの言葉を思い出すなんて。

 ああ僕はやはり、どうしようもなく。

 家族に認めて欲しかったらしかった。


 認めろ、僕を。

 然と見よ。

 これが、お前の弟だ。


 すらりと。

 鈍色が空を滑って登る。

 狙いは心臓。袈裟に裂いて下ろす。

 獲れる。確信に逸る気持ちを抑え、力を抜く。

 振るうことに力など要らない、肩から腕を鞭のようにしならせる。

 切っ先が天辺に届いて。

 空を裂く音より早く。

 命じてもいないのに、放った魔力が刀身に集まる。

 これは予想だにしない僥倖。

 そうか、と内心ほくそ笑む。


 刀は魂を格納できる。

 それはつまり、魔力を回収できるということ。

 この刀に僕の魂が記憶されていたのか。

 それとも自動で魔力を吸うのか。

 それは分からないが些細なことだ。

 重要ではない。


 重要なのは。

 要となるのは、今僕に、ルシフェルの命を獲るに足る、確かな刃が戻ったということ。

 無数の手が切っ先を掴む。一つ一つが形を解いて刃に宿る。

 手首のスナップを効かせ。

「これで……」

 空を斬る、鋭い音。

「終わりだッ」

 行ける。

 届く!

 僕の刃が、僕の刀が、僕の力が!

 今こそこいつに、僕から全てを奪った者の、命に届く!

 行け。

 行け。

 行け!


 世界がスローモーションに。

 刃がゆったりと滑って、ルシフェルの肉体を裂くのを視た。

 銀剣は彼方。

 刀だけでは魔力は消せない。

 相手の鎧を貫けるか否か――ええい。

 全ては当たったあとに考えろ。

 今はただ、この瞬間に。

 確かな手応えだけに意識を。


 引き締まった肉の、少しだけ硬い感触。切っ先が数センチ内側に沈む。

 骨には届いていないが構うものか、少しでも深く。

 振り切れ。


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