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AF―After Fantasy―  作者: 04号 専用機
Beyond belief
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帝国の武神

 随分身勝手な男だ。

 前はあれほど、生きることに執着していたのに。

 今はどうした、なぜこんなにも死に急ぐ。

 分からない。

 最も近いはずのこの子供のことが、今は全く分からない。

 俺は未熟だ。そう心の中で嘲る。

 ならばいい。そこには目を瞑ろう。ようやっとなんだ。やっと巡ってきた千載一遇の好機。

 もう逃したくない。

 泳がせて、こいつの目を通して世界を見るのが楽しかった。

 だけど、それも今日で終わりだ。

 俺が今日、この場で終わらせる。



「…………気持ち悪いことを考えてるな」

「繋がったのか?」

「ああ。お前と居ると妙な安心感がある」

 思わず縋りたくなったその感情に流されて、僕はルシフェルと繋がっていた。

 頭を振って繋がりを解く。

「だが最後のは同感だ。今日ここで終わらせてやる」

 もう怖くはなかった。

 やはり此奴は僕のことを恐れていたのだ。理解ができないという、ただそれだけの理由で。

「お前の顔になど興味はない」嘘だ。「だがお前の首には興味がある」本当は、その顔を拝んでやりたい。「勝つとも。今日、この瞬間で」

 駆けた。

 奪えないというのなら、こちらは容赦しない。意思に差があるのなら、勝機は充分すぎるほどにある。

 短く呼吸をする。フードを狙って突き穿つ。

 躱した。

 横薙ぎを食らうより早く、柄頭で目を狙う。鈍い感触、当たった。怯んだ隙に面を見舞うと、数歩下がってその斬撃をやり過ごされた。

「しつこいな……! 興味無いんじゃなかったか?」

「気が変わった。やはり、お前のご尊顔を拝みたい」

「やめとけよ、ありがたくもないぞ」

 銀剣を背後に立ち塞がる。これで、一刀対一刀だ。

 構える隙は与えない、脇に構えて距離を詰める。

 剣戟を予測したか。ならば攻め方を変えよう。

 脚を強化。一歩分、長く距離を詰め――

「なっぐ――」

 ――強く体当たりをかます。

 俯いた頭に剣を合わせて振り下ろす。

 フードを掠めた。追撃するよりも早く、軽やかな身のこなしでルシフェルが下がる。

 顔を見られるのは相当嫌らしい。

 また、フードを治す手癖。

 その隙に距離を詰める。

 そろそろ読めてきた。それは相手も同じだろう。ここまで執拗にフードを狙っているのだから、次からは警戒してくるはずだ。

 ならば狙いを変えて、数段後に顔を狙おう。

 綺麗な顔なら吹き飛ばすだけだ。

 フードを狙うフェイントを交え、小手を打つ。強化が一歩早かったか、手首を裂くことは叶わない。

 弾かれるような硬質な感触。人と同じ皮膚を斬ったはずなのに、良く詰まった檜の板を叩いたように手が痺れる。

 反撃が来る。

 目を閉じて。

「……!」

 躱す。

 躱して前へ。ひたすら前へ。その懐に、回避と同時に進んでいく。

 目を開く。

 相手は目の前だ。この距離なら、単純な技では引き剥がせない。

 ルシフェルは下がるしかなく、そして僕は――

「逃がさない」

 ――その脚を踏みつけて、関節に肘を見舞う。仰け反った体制のルシフェルの首。

 抑える足を軸にして回転を加える。

 回れ。魔力も勁も共に回れ。

 斬れずとも良い。カットバシと同じ要領で、手前の空気を刃で弾き出す。

 見せてもらうぞ。

 吹き飛べ!

 

「っ、ああああああッ!!」


 風が吹く。

 豪と空気が劈いた。

 漆黒の中、あるはずのない鈍色の光が駆け抜けて、それが、誰にも当たらず過ぎていく。

 逸らされた。

 貫かれることは無いという油断を突いて、ルシフェルは、その剣で僕の腕を突き動かした。

 歯噛みする。絶好の機会を。これ以上ないほどの好機を。

 潰された。

 怒りが沸々と湧き上がる。なぜこうも上手くいかない。いつもそうだ。生前からいつもこう。鍛えたことの全てが裏目に出る。

 もう無駄にはしたくない。これ以上の後悔は重ねたくない。

 強くなったことを。

 力を得たことを。

 もうこれ以上、悔やみたくない。


「ぬ……あああああ!」

 視えた。

 体を倒している。

 その状態で、地に腕を着き、体のバネで――跳ね上がる。

 体が宙に浮いた。

 咄嗟に振るった刃は虚空を裂く。

 ルシフェルが。

「…………やめだ」

 ため息を吐いて。

「お前の土俵には付き合えない」

 真紅の気迫を身に纏う。

 ゾッ――と。

 全身の筋肉が強張り固まる。


 不味い。


 不味い、マズい、まずいまずいまずいまずい――躱す? どうやって? 宙に浮いているのに? 踏ん張れもしないのに? どうやって? 刀は一本片腕しか使えない、魔力量もどれだけあるか分からない、あとどれくらい技を撃てる? 撃ったとしてどれだけのダメージを? 弾くのが精一杯かもしれないのに? どうする、どうするどうするどうする――


四連(クアッド)――」

 ルシフェルがダラリと力を抜いて、それでもさらに脱力して、崩れるほどに脱力して。

 そして、切っ先がピクリと動いたのを感じた。

 そう、感じた。

 その先で僕は、おぞましい未来を見る。

「――打突(ブロウ)ッ」

 刀が四本に分裂して見えた。

 それが一秒後、四肢を切り落とさんと押し迫る。

 落ち着け猶予はたったの一秒今自分に出来る最大げんのま力のよろいを作りだし――――負けたくない。

 敗けたくないんだ。

 ここで終わるなんて絶対に御免だ。

 何も残せないままに、何も成せないままに、何も、誰にも、何の復讐も無しに終わるなんて。

 そんなことは、死んでも御免だ。

 目を見開いた。

 死の間際に直感する。このままでは勝てない。全てがスローモーションになる中で、僕はたしかに、自らの内から湧き上がる、ドス黒い感情の奔流に触れた。

 それが流れ出て。

 魔力に混じり合い。

 途端。


 動けることに気が付いた。


 このスローモーションの中で、自分だけが何も変わらず動けること気が付いた。

 これならば、躱せる。否、防げる。

 魔力が刃に走らない。どうしたことか。だが関係ない。相手の刃にも魔力は宿っていない。

 一撃目を強く弾く。次は左の肩か。

 弾き飛ばす。

 次も。

 その次も。

 凌ぎきったその頃に、気を緩めたその頃に、地面が迫っていることに気付き、そしてまた、

「トドメだ」

 弾いたばかりの切っ先が真っ直ぐ喉元に伸びているのを見た。

 スローモーションが解かれる。

 全身の魔力を喉に集めて渦にする。

 ルシフェルの剣に、あの紅い気が宿る。

 それが魔力に触れた瞬間スパークを起こし、目が眩む――魔力が霧散していくような感覚――渦に魔力が吸われ――力が――左腕に痛み――

 その閃光の中、僕は確かに。

「こちらのセリフだ……!」

 フードを剥がす隙を見た。


 頭に地面。

 正反対、真上にルシフェルの頭。

 そこに、刀の先端を掛ける。

 残った僅かな魔力をかき集め。

 届け。


 そこに、弾く力を極限まで乗せて、手首でフードを剥がした。


 確かな手応えとともに、もんどりを打って倒れる。

 勢いを殺しきれず地面をも転がって、それでもなお。

 僕には確信があったから、僕はすぐさま視線を前へと向ける。

 さぁ。

 見せてもらおう、ルシフェルよ。

 仇敵よ。

 俺の命を付け狙う、貴様のその顔。

 この僕の前に、晒し――


「なんだ……お前…………?」


 ――――――誰だ、こいつは。


「お前、お前、は、一体」

 何かがおかしい。

 そして、全てに合点が行く。

 そうか、だからか。

 だから、僕は、此奴を知っているはずと。

「お前は一体誰なんだ!?」

 そして……だからこそ此奴は、顔を隠したがったのか。

「なぜ……俺と…………同じ顔をしてる……!?」


 ルシフェルが、ゆっくりと、顔を伏せた。

 それから、緩慢な手付きで、切り裂かれたフードを外す。

 黒色の。少しだけ藍の毛混じりの長髪。

 真っ黒い目。

 僕と、ほとんど同じ位置にある、口と、鼻と、耳と――それから、瞳。

「だから言ったんだ、ありがたくもないと」

 そいつは、吐き捨てるようにして。

「俺が一体何者か、か。……そうだな、お前にだけは、こっちを名乗ろう」

 その名を、唾とともに地面に吐く。


「俺の名前は武神 勇(タケガミイサム)


 武神。

 タケガミ。

 そんな。

 そんな、まさか。


「スサノオ………………お前の兄だ」


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