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AF―After Fantasy―  作者: 04号 専用機
Beyond belief
43/166

やってみろ

離しやがれッ

ああ分かったよ!増やせばいいんだろ!

俺がァ!お前らを……満足させてやるよォ!!

 戸を潜った。

 深層に出る。

 前の拠点から離れてはいるのだろう。それに、本来なら深層は探りにくい場所。

 すぐ様看破されたのは、やはり僕が原因だ。

 そう、今目の前にいる、この男と。

 どこかでどうしてか、繋がっていたことが原因だ。

 腹が立つ。

 全く腹が立つ。

 全く以て腹が立つ。

 僕はつくづく迷惑な人間だ。

 辿り着いたその先でも、他人をこうして追い詰めている。

「効いたぞ今のは」

「中々いい線行ってるだろう?」

 全ては僕の責任だ。

 ドクトルが逃げ回らねばいけないこと。

 ユダが一度、生死の境を彷徨ったこと。

 僕の刀が奪われたこと。

 そして、ルシフェルがここまで、しつこく追いかけて来ることも。

 だから、もう、いい。

 僕は一人で歩いていこう。

「俺の剣を返してもらう」

 せめて今は、この男に怒りの全てをぶつけてやる。

 左腕のことも、約束も、ルシフェルが何者かも、もはやどうでもいいことだ。

  僕は今憤っている。


 一歩でルシフェルの懐へ。屈んだ状態から一回転、生意気な顎を蹴り上げる。

 どうせ見られたくもない顔なのだろう。なら思う存分隠せばいいのだ。

 僕はそれを、思う存分突くだけで。

 ルシフェルの腰に提げられた銀剣を抜く。

 重い。確かな重量感。これが本物の銀で出来たものだと理解出来る。

 おそらく魔力は通せない。

 ならば体を強化して、無理にでも振り回してやる。

 逆手から順手へ。離れて構えた。

「武器の交換か……いいだろう」

 ルシフェルが持っていたのは、僕の刀だ。

 首に当てられていたのもそれだろう。

 僕の刀で僕の首を。

 本当に、いい度胸だ。どこまで虚仮にすれば気が済む。

 必ず取り返す。そして、その刀の中へ。

 次に閉じ込める魂はお前だ。

 殺してやる。

 その気迫がルシフェルの足を止めた。

 退ると言うなら是非もない。その逃げ足は捉えて斬る。

 長い廊下、互いの間合い、自然と、続く先へ、体を向けていた。

 詰める。

 銀剣が真っ直ぐ眉間へとのびた。

 同時、相手の切っ先も僕の喉へ。既に予見していたそれに合わせ、軌道を刀へ刃の中程へ合わせる。

 武器の交換か、御免だな。

 貴様の得物など使いたくもない。

 刃と刃を巻き込むようにして、力を上へと炸裂させる。

 攻撃の寸手に噛まされた巻技に、当てる瞬間に備え脱力していたルシフェルの手は、刀を決して保持できない。

 鈍色の光が高く舞い上がる。

 脚を強化。踏み込んで、ルシフェルの体に強く当たる。

「返すぞ」

 数歩引き下がった相手に向けて、銀剣を投擲する。

 ほぼ同時、落ちてきた刀を握り込む。

 刺さらなくてもいい。一瞬でも剣に意識が向けば。

 手に馴染む柄の感触。構えた刹那、剣を拾おうとするルシフェルの首を――

「残念剣は二本ある」

 ――斬ろうとしたのを読まれたか。

 もう一本、腰に帯びていた刀を抜き放ち、ルシフェルが僕の一撃を弾く。

 チラリと目をやった。

 刃こぼれはない。

 魔力で刃を強化。

 構えたまま、互いに固まる。

 自分から攻めれば待っているのは死だ。ルシフェルとの邂逅、その度僕の脳裏には濃厚な記憶が残っている。それほどにルシフェルは強く、そして隙が無く、油断もない。

 普段の此奴がどうなのかは知らないが、少なくとも、僕に対しての態度は一貫している。

 僕を殺すということは。

 僕に対する感情がなんなのかは分からない。だが――ええい。

 待っていられるか。

 剣を拾う暇など与えない。威嚇だけで牽制できる時間など限られている。

 それに、もう待ちたくない。じっとしているのは性にあわないんだ。

 魔力を編みながら、一歩。

 何度も何度も思った。

 自分は弱い。誰にも勝てない程に。

 そう思えば思うほど、ミカエルの、ルシフェルの、ゼウスの、ドクトルやユダの背中さえ、遠く、彼方へと進んでいく。

 追いついてやる。

 まずはお前だ。

「シィッ」

 息は短く、瞬間に力を込める。寸分違わず切っ先を喉元へ。これを避けるか剣で弾くか。

 弾いた。剣で円を描くように払い除ける。

 右手を離し鳩尾へ。

 感覚は覚えた。魔力の消費は激しいが――今は関係の無いこと。

 勁を右手へ。

 一本貫手を突き刺す。

「武神流――」

 魔力と勁を弾丸のように鋭く細く練り上げる。狙いは急所。

 捉えた獲物は、逃がさない。

「――百合絞り」

 鳩尾を穿つ魔力の弾丸。指先から放たれたそれが、ルシフェルの肉体で炸裂する。

 決まった。畳み掛け。

 両手で握り直したその時を、ずっと待っていたかのように、脇腹に蹴りが浴びせられる。

 馬鹿な――「ぶぁ、が……」――と吐き捨てる。

 効いていない。

 流したのか。

 あの一撃を。

「攻撃が大振りすぎる。それじゃ躱してくれと言ってるのと同じだぞ」

「言われ……」お前に言われたくない。「なくとも!」

 指図するんじゃない。何も知らない癖に。

 何も知らない癖に。

 何も、僕の過去など、未来など、今のことも、何も知らない癖に。

「偉そうな口を利くな!」

 鍔迫り合って、ルシフェルと目が合う。

 なぜ、何故だ。

 僕は何故、こんなにも、此奴の目を知っているのだ。

 見たこともない目を。覆われた目を。

 なぜ僕は知っているのだ。

「お前の目を知ってる」

「ああ」

「お前の気配を知っている……」

「だろうとも」

「お前の姿を。ずっと昔に……見たことがある」

「知っているだろうな」

 頭に血が上るのを感じ――ダメだ、冷静に。

「お前は!」

 押す。

 刃の擦れる音。

 押す。

 満身の力で押す。

「お前は誰だ!? お前は……! なぜ俺と、僕と! 繋がっている!」

 僕は、此奴の何なのだ。

 皆が皆、口を揃えて言う。僕がルシフェルを知っていると。

 僕は、此奴を知っている。

 知っているのだ。それが確信になった。

 こいつの目を。ルシフェルの姿を。

 この気配を知っている。

 確かめなければならない。

 それが真実かどうか。

 せめて嘘だと証明するために。

「知る必要は無い」

 ルシフェルの圧が上がる。

 心做しか、その姿が大きく見えた。

「お前は今日、ここで死ぬ」

 なのに、その言葉はあまりに小さい。

 口角が自然と釣り上がる。

「説得力が無いんだよ……」

 何度目だろうか?

 此奴に殺されそうになったのは。

 三度目ほどか? それほど多くないが、そこは関係ない。

 此奴は三度も僕の命を捕り損ねている。

「帝国の武神……か」

 一度目など、僕を確実に殺せたはずだ。なのにわざわざ方舟に招き入れた。

 二度目もそう。恐怖に駆られた獲物など、此奴にとって蛇に睨まれた蛙の如しだったろう。

 そして、三度目。

 なぜかは知れない。

 だが、ルシフェルは僕を人質とし、殺さずにいた。

「笑わせるなよ」

 分かったことが一つ。

 ルシフェルの剣には恐れがある。

 何かを怖がっているのだ。何かを極度に嫌がっている。

 そんな腰の入っていない剣で、そんな(なまくら)な刃で、僕を斬れると。

 本気でそう思っているのなら、それは最早。

「やってみろ」

 楽を通り越し、怒りすらも通り越し、これは最早――烈火の如く、逆巻く憎しみだ。

「殺してみろ!!」

 僕への感情なぞどうでもいいことだ。

 殺す気もないのに、こんなにも殺意を向けられるなど不快でしかない。

 そう、不快だ。不愉快だ。だったらいっそ、いっそのこと、さっさと僕に、死に場所をくれ。

「俺の命が欲しいんだろう? 俺の魂が惜しいんだろう!? だったら殺せ、今すぐに! お前の足元にも至らない、この矮小な命を――!」

 捕って見せろ。

 奪って魅せろ。

「お前の力で、息の根を止めてみろ!!」


希望の華咲かせそう

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