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AF―After Fantasy―  作者: 04号 専用機
Beyond belief
40/166

武神流

第40話です!長いなこの話は!

――メス。心電図のチェックを欠かすな。

 誰かが話している。

――酷いな……よく腕一本で済んだよ。

 誰かの声がする。

――出来るところまで修復しよう。

 僕はそれを、ふわりと浮かぶ意識の中で聞いていた。

――元の形には戻してみせる。そこから先は……

 どことなく、違和感のある左腕のことを思い出し、僕は思わずそれを抱える。

――この子の気力次第だ。

 目を開けた。

 そこは知らない場所だった。

 記憶が正しければ、僕はドクトルの傍にいたはずだが。

 それに、歩けもしないはずだ。

 腕だって、両方共に動かすことは叶わないはず。

 なのに、僕は歩いていたし、腕だって、なんの痛みも違和感もない。

 いや、そもそもこれは自分の体なのか。

 自分でも知らない場所を、自分でも不思議なくらい確信を持って歩んでいる。


 もしかすると、これは誰かの記憶なのかもしれないと、そう気付いた時には既に、僕は歩みを止めていた。

「調子はどうだ」

 聞き覚えのある声。

「ダメです、目を覚ましません。止血は施しましたが……」

 目の前には背の低い女。

 いや……違う。僕と同じ程度の高さに、その女の頭はあるはず。だとして、背が伸びたのは僕なのか。急激な成長などありえるのか。

 そもそも、なぜ、「調子はどうだ」何ていう言葉が、僕の口から出るのだ――

「私に行かせてください。ルシフェル隊長」

 ――それは僕に向けられた言葉だった。

「許可できない」

 僕の口から。否、ルシフェルの口からその言葉が漏れる。

「なぜです」

「やつらの居場所を突き止めるのなら、俺が一番適している。それに向こうも、尾行にはかなり警戒して拠点を移したはずだ。お前が見つけるのは骨の折れる作業だろう」

 僕は今、ルシフェルの目を通して、方舟を見ていた。

 視界がやけに狭くて場所を特定出来ない。だけど、方舟であることは理解出来た。

 その部屋には窓が一つもなかったから。

「神官級のNSが一人。得体の知れない『何か』もいる。あとこれはついでだが……元々のターゲットは俺一人で片付ける予定だっただろう」

「しかし……隊長……」

「いいか、信じろ。そして仕事に戻れ」

 ルシフェルが、その傷だらけの手を差し出した。

「アロベナの腕は必ず取り返すとも。こっちには、奴の刀という人質がある」

 その手が、女の頭に置かれ、ゆっくりと撫でた。

「行ってくる。お前は何も心配せず、しっかり仲間のことを見ていろ」

 僕の意識は、そこで途切れた――




「…………起きたね」

「どれくらい寝てた?」

 体を起こせない。

 というより、体を起こすのが怖かった。

 左腕の痛みは最早ないが、それでも見るのは怖かったし、そもそもそれだけの体力がないのだ。

 だが、動けなければ意味が無い。

「今日は静かな目覚めだ」

「そういう日もある」

 手を握ってみる。

 違和感が強い。針金でも通したのか、指が軋むような感覚があった。

「……どれくらい治ったんだ?」

「えっとね……二時間の手術で、とにかく原形に戻したって感じかな。あとは自分の力で治して」

 言われてすぐに魔力を編む。

 少しの痛み。続きそうだ。治すためなら致し方ないが、これを抱えて戦うというのは骨が折れそうだ。……物理的に折れているのだから関係ないか。

「つまり君は4時間近く寝てたわけだな。気分はどうだい?」

「良くはないが、悪くもない」

 ベッドから降りて立ち上がる。

 強烈な立ち眩み。血が足りていない証拠だ。

「食料の用意がまだ出来てなくてね。悪いけど、しばらくはそれで我慢してくれ」

「問題ない。動けるなら充分だ」

 ユダがいない。食料調達にでも行ったか。

 前の拠点は、捨てたのだろう。機械の箱はここに移されているのか、それとも捨てたのか。

 今あるのは見知った椅子と机、それからすっかり馴染みとなったベッド。

 今ここに無いものは、あの大きな機会の箱と、ユダが使っていた懸垂器。そして――

「俺の刀はどうなった?」

 ――自分の刀。

「ああー……それは…………」

「私から説明しましょう」

 その声とともに、ドアが開いた。

 立っているのはユダ。手にはいくつかの袋が提げられている。

「まずは、食べてください。そしてプロテインを飲むことです。あなたの故郷から調達してきましたから」

 プラスチックで出来た袋から、見知ったパッケージの弁当が取り出される。

「…………いや、どれだけ買ってきたんだ」

「何も食べていないでしょう? 入るだけ入れてください」

「俺は今利き腕が使えないんだぞ……」

 僕は左利きだ。

 動かせないことはないが、激しくは難しい。それに、腕は温存しておきたい。

 仕方がないから、右手で食べることにした。

「で……あなたの刀、ですが」

 カレーの入った容器を開ける。

「腕は落としたんだろうな?」

「はい?」

「アロベナの、腕だ」突き刺さったのは見た。「落としたんだろう?」

「…………貴方という人は。まず聞くのがそこですか」

 ユダが袋を探る。

 握り飯か。具は――時雨煮か、いいな。

「関節に刺さってましたよ。アロベナから引き抜くついで、なんとか片腕はもらいましたが」

 カレーを平らげる。

「ごちそうさま」僕もおにぎり食うか。「で、刀は?」

「早いですね……」梅握りを差し出された。「奪われました。そしてそのまま逃亡。これが現状です」

 腕と刀を交換か。

 状況は良くない。

「決まりだ。刀を奪い返す」

「手はありますか?」

「無いな。できれば刃のついた武器が欲しいところだ」

 ゼリー状のプロテインを飲む。

「まだあるか?」

「おにぎりどうぞ」

「ありがとう」

 昆布か。悪くない。

 まぁ、生身でもなんとかなるのだが。

 僕が学んだのは何も、剣術だけではない。母に師を頼んだ訳では無いが、暇があれば素振りをするか、母の稽古を見ていた。

 妹の組手にもよく付き合ったものだ。

「徒手でやれないこともないが、一人では不安だ」

「ああそういえば、聞きたいことがありました」

 唐揚げを頬張りながら、僕は首を傾げる。

「なんだ」

武神流(たけがみりゅう)、貴方は言っていましたね。誰から習ったのですか」

「ああ……」習ったも何も。「母さんが納めていた柔術だよ。俺が使うのは、かなり改良を加えたが」

 おかげで光明が見えたのだが。

武神(たけがみ)というのは?」

「……そこは聞くな」

 あまり、話すべきでないことだ。

 捨てたものの話などしたくはない。

 そんなことより、今は食うことが先決だ。

「聞いてあげないで。たぶん名前とかそういう――」

「ドクトル!」

「んー、んっん、すまないねぇ」

 ペットボトルを開ける。

 当たるなら投げつけている。

 余計なことは話すものじゃない。


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