表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
AF―After Fantasy―  作者: 04号 専用機
Beyond belief
41/166

戦利品

「もう無いのか?」

「どれだけ食べるつもりですか」

「二週間近く何も食ってないんだぞ、俺は」

 一度食べだしたら手が止まらなくなった。苛立ちやすくなったと思っていたが、どうやら空腹によるものだったらしい。

「それよりも、だ。……次の行動はどうする気だ?」

 ドクトルが腕を組んで唸った。

「まずは拠点の安全確保。それからデータの復旧」

「そして、盗人への制裁。……で、よろしいですか、マスター」

「んー、どうだろう。もう興味無くなったかな」

 明後日の方向を向いて、ドクトルが自分の考えを語った。

「まずね? 追いかけるのが得策じゃないってことだよ。スサノオは後を()けられたわけだし。ユダだって、四人同時とか、ルシフェルと一対一っていうのも厳しいし」

 それに、と、ドクトルは付け加える。

「あんまり表舞台には出たくないんだよね僕ってやつは。神官にこれ以上着け回されたら、今度は神様にだって見つかっちゃうかもしれない」

「まずいのか」

「良くはないよね。僕はどこにも所属してないし、役割を押し付けられるのもまっぴらだよ」

 ユダがなぜかドクトルを睨む。

 なにか聞きたそうに口を開いたが、やめた。

 ドクトルが手で制したためだろうか。

「話したくないことばかりだからね。あんまり仲良くないんだよ、僕と神様は」

「会ったことがある、と?」

「まぁね」

 平然と。

「……どんな人だった?」

「その質問は良くないな。思い出したくもないし。それに、神様の姿は一定じゃないから」

 宛にならないな。

「それに、もうあの装置はいいや。無くなったんなら別のを拵えるよ」

 ユダの置いた袋を漁る。「おやめなさい」とかなんとか言われたが、関係ないな。

「パンあるじゃないか」

「それは私の……」

「ケチケチするな、先輩命令だ」

「職権濫用反対!」

「うるさいな! お腹空いてるんだよほっとけ!」

「話聞いてる?」

「ん、ああ、聞いてるぞ。もう追うのは止めるんだな?」

「うん。そういうことだけど、いい?」

 パンを頬張って。

 目を閉じてみる。

「個人的に追うと言ったら?」

 諦めきれない、というのが正直なところだ。

 アロベナとの勝負は、引き分けだ。どちらも戦える状況にない。それはいい。試したいことを全て試し、やれることは全てやった。

 その上で、相手の肉体の一部を持ち帰ったのだ。

 結果は上々と言えるだろう。

 だからこそ、まだ追いかけたい。もっと強くなれるとしたら、ルシフェルの背はもうすぐそこだ。

「……ま、そうなるよねぇ」

 ユダに目配せをして、ドクトルはニコリと笑った。

「それじゃあそっち方面で行こう。君は剣を取り返さなきゃいけないからね」

 ユダの手に鍵。

 それを空中動かすとそこ小さなトビラが出現する。

「鍵には物を出し入れする機能もある。覚えておいて」

「便利なもんだな」

 トビラが渦巻き――何かが出てくる。

「ああ、それ、アロベナの腕か?」

「めちゃくちゃ落ち着いてるじゃん」

「そろそろ慣れてきたんだ」

 よく見てみる。

 太い腕だ。

 奇妙な程に太い。それに、この膨らみ方。

「筋肉じゃないな、これは」

「流石だ筋肉の民」

「褒めるな、調子に乗るぞ?」

「褒めてないんだけどな……」

 冷たくなったそれに触れてみる。

 硬直しているのか、やけに硬い。筋肉で覆われているはずの部分に触れてみても、その硬度は変わらない。

 この感触。

「骨か」

「ご名答。はいレントゲンね」

 言われて、ドクトルから渡された写真を見る。

「これは」人間の腕か?「どうなってるんだ」

 レントゲンに写っていたのは、撥条状に変形した骨。

 明らかに改造の跡が残っている。

 少なくとも、健常者の骨格とは言えなかった。

撥条骨(バネボネ)ってやつだね……昔こういう研究もしてたなぁ。懐かしいや」

「なに?」

「戦世にいたことあるんだよ、僕。その時に残した研究データだね、これは」

 ということは、ドクトルはアロベナを知っているのか。

「ああ、彼のことは知らないよ。僕が行方をくらましたあとの検体みたいだし」

「なんだ……」宛にならない。「じゃあ、ああいう使い方は想定してなかったのか?」

「少なくとも、使えないデータとして残したはずなんだよね。無理くり形にしたみたいだ」

 興味深そうに覗き込むドクトル。

 思うところがあるようだ。

「しかし、魔力との併用か……相当訓練したみたいだね」

「難しいのか?」

「まぁね。各部位ごとに強化具合を変えるなんて芸当、訓練無しじゃ難しいよ」

 ドクトルの魔力がアロベナの腕に触れた。

 中にまで浸透した魔力。何かを探るように、腕の中をまさぐる。

「遺伝子構造が一致しないな……」

「何?」

「他人の骨を使ってる。いや……正確には他人の骨も、か」

 いや、そういうことではなく。

「遺伝子構造……? とやらまで分かるのか」

「ああ。真似しようとしないでね。これ僕にしか出来ないから」

 魔力で出来る範疇を超えている気がした。何をどう強化すればそうなるのだろう。

 真似してみたくもあった。止められたにも関わらず、ドクトルの魔力を注意深く観察する。


 管が複雑に入り組んでいる。血管……のような構造。それを太いパイプで幾重にも覆い、先端でさらに細かく分岐。先端の方を見てみると……。


「スサノオ」

「……どれくらい見てた?」

「五分くらいかな」

「…………悪い。もう見ないようにする」

 吸い込まれるような感覚があった。

 細かく細かく、微細に、そして広大に広がっていく魔力。その全てを一度に制御する。

 アロベナの魔力も簡単に模倣はできないだろう。

 だが、それを言うならドクトルもだ。今まで見てきた誰よりも、その魔力は繊細で、そして難解だった。

「よし、分析は完了だ。んじゃあ処分しようか」

「何!?」

「ぶっちゃけ要らないんだよね。もう一本作る材料も検体も居ないしさ。それに、これ目当てにまた追いかけられたら面倒じゃない?」

 言っていることは最もだ。

 最もだ、が。

 僕の中で何かが渦巻く。

 欲しい――とは、また違う感情。なんだろう。

 どちらかと言うと。

「返してくれ」


 不意に、誰かと繋がった気がした。


 ぐんと意識がそちらに惹かれる。

 この感覚。


 いる。

 近くに。

 やつが、ルシフェルがいる。


「――返せ、とは……随分じゃないか。戦利品のつもりかい?」

「あ……いや……ちが――」


 ドアノブが回った。


 その音を聞いた。


「違わないとも。それは確かな戦利品と呼べる」


 逞しい腕が僕を放り投げた。

 急に視界が動転して、目を白黒させるうち、また別の腕が僕を捉える。


 傷だらけの手が見えた。


「さて、返してもらおうか」いつの間に。「そいつの腕は替えが効かない」


 否、どうやって。


 嗅ぎ付けたのは何時(いつ)だ。


「貴重品なんでな」


 神官ルシフェルが、僕の首に、刀を押し付け立っていた。



「スサノオ!」

「騒ぐなよ……手が滑るかも知れないだろう?」

 ルシフェルは平然と答える。

 脅しか、本気か、首に刃を食い込ませながら。

「さて……お初にお目にかかるかな。ドクトル……とかいう奴に挨拶をば」

 僕を抑える手。籠る力が強くなる。

「初めまして。俺の名はルシフェル。お前達に預けていたものを二つほど――返してもらいに来た」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ