仰る通りです
呆れたように肩をすくめるのが見えた。
「手助けはしません」
「最初からそのつもりだ」
連戦か、それも悪くない。
柄に手を置く。
「ご指名ありがとうスサノオ。熱烈なラブコールだったよ」
「お前に会いたくてな。思わず走ってきたんだ」
「死んでれば良かったのに」
「そういうな。感動の再開だぞ?」
「感動ってほど、間が空いてないよ」
おっしゃる通りです。
知っている相手がミカエルしかいなかったのだ、仕方あるまい。それに、僕ももう一度会いたかった。…………何故かは分からないが。
「あぁー、でもちょっと泣きそうかも。報告したらまた、ゼウスにお説教喰らうし」
「黙っていればいい。あの男のように」
「不正はしたくないの、それにどこに隠れてたのか調べないとね」
「じゃあそろそろ」
「うん。覚悟はいい?」
「俺はできてる」
倒して逃げる。僕も、ドクトルへの報告がまだだ。
お互い仕事が溜まっているか、辛い身だ。
なるだけ早く、手短に。
僕としては、あの一撃がかわせれば充分だ。
「――加速」
ミカエルが小さく呟いた。
のを聞いた。
動かなくなった右腕を押さえて。
「は……?」
ミカエルは後ろだ。ユダに迫っている。
「言わんこっちゃない……!」
どうやら、すれ違い様脇を切られた。
「私と一緒にお話しようよぉ!」
すぐさま治す。治す、が……やはり思うように行かない。あの男や、ユダのような円滑な治療はまだ無理だ。
こればかりは、経験を積まないことには。
「やはりこうなるのですか!」
「ねぇなんで逃げるの? あと属性盛りすぎでは? テンションが上がりますなぁ!」
「ボディランゲージはお断りです!」
逃げの一手か、援護するしかなさそうだ。
治癒は完了した。
「お前だけでも――」背後から声をかけ。「逃げろ!」
ミカエルが振り返った瞬間、そこに面を叩き込む。
盾で防御。すかさず横薙ぎが――
「……あ?」
「ふりだしに戻っといて」
かわそうと思った次の瞬間、ミカエルはすでに振り抜いている。
血がしとどに流れ出した。
「は?」
この出血はまずい。
すぐさま塞ぐ。まずは皮膚だ。それから体の内部を治していく。
時間がかかるな。
しかし、これはどういうことだ。以前戦った時は、相手の三手先までしっかりと見ることが出来たのに。
今はそれすらできない。一秒後には斬られている。
考えられるのは二つ。
一つはサトリの不調。
もう一つは、ミカエル自身がもっと素早くなったこと。
「ほら! ほら! ほらほらほらほら!」
ユダを着々と追い詰めていく。やはり素手では部が悪い。盾を持っている上、その攻撃は、僕に対するそれより遥かに速い。
肉体の強度が段違いだ。あれほど速く動かせば、関節か筋肉か、どちらか痛めるのが道理というもの。
だと言うのに、治癒を施す気配がない。
「本気出さなきゃ後輩くん! スサノオパイセンにいいとこ見せたいっしょ?」
「別にそんなことは!」
剣を弾いて距離を取った。
瞬間、ミカエルが剣を引く。
あの構え――
「左に飛べユダ!」
「言われずとも」
――剣を突き出した瞬間切っ先が消える。そう形容しても良いほどに速い突き。
それを、ユダが避け切る前に五連発。
右腕から出血か。力無く下げると、スーツが血で染まっていく。
治癒を始めない。何をやっているんだ。
ミカエルが剣を振り上げた。
すかさず、僕は全身を強化する。
前へ。
黒剣が下ろされるより早く、僕の横薙ぎがミカエルを襲う。
やはり、想像よりも速い。
大きく弾かれたのは僕の方だった。
この速度。
「……お前、どんな能力だ」
「残念。明かさないから武器になるんだよ」
やはりこいつも能力持ちか。
カマをかけてみて正解だった。
神官は能力持ちと見ていい。
速度の強化。それが能力と見て間違いない。
次は防ぐ。相手が想定より速く動くというのなら、こちらもそれを踏まえた上で動くまでのこと。
呼吸を見る。やはり――
「おぉ。もう攻略されちゃった」
「そう何度も同じ手はくわん」
――動き出しを見てからでは遅いようだ。
そして受けるのは上手い手とは言えない。一瞬消えて見えるほどの速度だ、まともに受ければ手が痺れてしまう。
攻略しやすい能力で助かった。
「ユダ」
「はいなんでしょう」
「後で迎えに来い」
更に強化を。
ミカエルの速度に追いつかねば。
ただ循環を速めるだけではいけないのか。ならどうすればいい。
脚だ。
速度が欲しいならまずは脚。
それから攻撃するなら腕も。
だが集中させては爆ぜるだけ。
なら、どうすれば?
考えている暇はない。
「悪いんだけどさ、もう手加減は出来ないから」
「結構だ」初めからそうだと思っていたのに。
今までの全てが通用しない。
培ってきた技術の全てが。
改めて感じる。僕の知っている世界の狭さを。
ミカエルが連撃を浴びせる。
どうかわしても数発は貰ってしまう。
魔力がなければ一瞬で勝負が付いているな。さて。
脚への流量を多くする。今はまだ深く考えずに行こう。
これはちょっとした仕返しだ。
強く踏み込み退る。
ついで、ユダを脇に抱えた。
開いた距離は五歩分か。
上出来だ。
「鍵は持ってるか?」
「貴方が持っている分だけです」
「なら」仕方がない。「今渡しておく。落ち着いたら迎えに来い」
ポケットから取り出して投げた。
虚空に鍵が光る。
ユダがそれを受け取るや否や。
「逃がさない!」
「逃げるんだよ!」
ミカエルがその距離を踏み潰した。
適当にユダを投げる。
さっさと駆け出したらしい。その姿はもう見えない。
薄情とは言わない。むしろ懸命な判断だ。
何分くらい持つかな、僕は。
そんなことをぼんやり考えながら、ミカエルの攻撃をしかと受けた。




