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AF―After Fantasy―  作者: 04号 専用機
Beyond belief
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霧晴れぬまま

 素振りをする。

 鞘を鍔と柄にきつく縛って剣を振る。

 頭の霧は晴れない。

 ついさっきシャワーを浴びたばかりだと言うのに、僕はもう汗だくになっていた。

 素振りは好きだ。

 方舟ここに来る前、空いた時間があればいつもこうしていた。

 こうすれば何も考えなくて済む。

「…………」

 でも今は違っていた。

 頭の中に幾つも映像がチラつく。

 たとえばそれは、僕に話してくれるドクトルで。

 例えばそれはミカエルの、あの必殺の一閃で。

 例えばそれは、あの男の銀色の剣。

 僕は弱い。

 負けてばかりいる。

 それが僕の中に沈み、鉛のように重かった。

 生前では負け無しだった。それが僕の自信を助長して、知らぬ間に、井の中の蛙になっていた。

 僕は強い。

 それは人間相手の話だ。

 魔力が無ければ勝てた、なんていうのは簡単だ。

 それは言い訳に過ぎない。

 実際、ミカエルと最初に戦った時は倒す直前まで攻め込めた。だが相手は僕の命を獲るつもりはなかったし、魔力も使っていなかったのだろう。

 相手となった僕はただの人間で、魔力酔いもあった。

 きっと油断があったのだろう。それにつけ込んでも意味は無い。

 だから、僕は思うのだ。

 弱いのは自分だと。

 いい気になっていたのは自分だと。

 たかが相手の手が見えるというだけのことで、勝てる程甘い世界ではない。

 僕は悔しい。

 驕っていた自分自身が。

 今に満足していた自分が。

 素振りをしてもそれは晴れない。

 ミカエルは強い。

 きっとあの男はそれ以上だ。

 今のままでは勝てない。

 でも、ドクトルは頼りたくない。

 これ以上の貸しは作りたくなかった。

 あいつはいいやつだ。僕を何度も助けてくれた。その目的がなんにせよ、命の恩は返さなくてはならない。

 それがあまりに重いのだ。

 僕にはあまりに重いのだ。

 だから頼りたくない。

 別に、全てを話してくれないことがいけ好かないとか――いうことは、ほんのちょっぴりあるのかも知れないが――いうことではない。

 せめて強くなった姿を見せたい。

 僕の力で強くなりたい。

 だけど、強くなるためにはもっと……誰かの力がいるのだと。

 僕は本当は分かっているのに。

 いつの間にか手が止まる。

 全く集中出来ていない。息が上がっているのがいい証拠だ。力だけに任せても意味は無い。

 落ち着けたかどうかは分からない。だが、今何を悩んでいるのかは良くわかった。

 ……もう一度、ちゃんと話す必要がありそうだ。

 ドクトルには謝らなければいけないな。

 鞘紐を解いてベルトに固定し直す。

 落ち着いたということにしよう。

 ドアに向かって廊下を歩くと、誰かの背中が見えた。

 あのしっかりとした立ち姿……。

「ユダ」

「おや。またシャワーですか」

「ああ……いや、戻るとこだ……です」

「ハハハ、敬語など要りませんよ。一応貴方は『先輩』にあたるのですから」

 その鋭い目で気さくに笑えるのか。

 胸ポケットを探ったかと思うと、銀色の細い淵をしたメガネを取り出した。

「彼はあまり、事情を説明しない(かた)ですからね。貴方とは馬の合わないところがあるでしょう、スサノオ?」

「…………何も言ってない」

「顔を見ればわかりますとも」

 あれだけ立派な体をしていて、顔は知的で、配慮もあるのか。

 コイツはモテるだろうな。

 掛けたメガネを指先で調節して、ユダは僕を見る。

「失礼。伺っておきたいことがあります」

 一転。

 その目が攻撃的なものに変わった。

「貴方はNSではない?」

「ああとも。俺は人間だ」

 ほう……とこぼして、その視線が僕の体を這う。

「鍛えすぎでは。伸びませんよ身長」

「余計なお世話だ」

 気にしていることを言うな。

 確かに僕の背は低めだ。おかげで面を狙えないこともある。だからこそ、得意な技もあるのだが。

「それで……どうするのですか」

「ドクトルと、か?」

「はい」

 さて、どうしようか。

 本当にどうしようか、僕には何も考えがない。

「……ただ話してみるだけだよ。俺の思っていることを。ぶつかってみるだけだ」

「結構。ただ……」

「ただ?」

「それで切り抜けられないこともあります。覚えておいてください」

 妙に納得のいく言葉だ。ドクトルは僕の話で決して折れたりしないだろう。

 僕は頑固な奴だという自覚があるが、ドクトルもドクトルだ。軟派に見えて、僕より頑なかもしれない。

「……あいつは良い奴だよ。俺を助けた。それだけで充分だ」

 ドアノブに手を掛ける。

「だが……うまく行かないこともある、その時は――」

「ええ、心得ています。私はドクトルの――我がマスターの味方ですがね」

 それでいい。ここはドクトルの縄張りなのだから。

 僕は力強くドアを開ける。

 ドクトルが、機械の箱を撫でていた。

 そういえば、あの箱はいったいなんなのだろうか。聞いても理解できないだろうが。

 後から入ってきたユダが戸を閉める。その音でこちらに気付いたらしい。

「揃ったね」と、顔を上げずに言う。

「少し考えたんだ。今の状況をさ」

 箱から手を離して。

「スサノオ。君にはまだ話せないことがたくさんある。たぶんいつになっても話せないことだろう。だから……」

「ああ、聞かない」

 それは僕も決めたことだ。

 話せないなら聞かない。自分で探す。

 その過程で得たものは僕のものなのだから。

「オーライ。じゃあ、今の君にも話せることを言うとするよ」

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