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AF―After Fantasy―  作者: 04号 専用機
Beyond belief
23/166

「盗むものあるのか?」

 顔を上げた。そこにはいつもの笑顔がある。

 前々から思っていたがこの男……どこか不気味だ。

「適当に座ってくれ」

「ああ……」

「私は立っています。少しでも鍛えたいので」

 ベッドに腰掛ける。

「じゃ……まずはスサノオ。君のことだ」

「言うことあるのか?」

「手術のことをね」

 傍らに置かれた机にコーヒーが置かれる。

 湯気が立っているな、少し冷まそう。

「さっきも言った通り……傷がしっかり治っていたのは表面だけ。内臓はむちゃくちゃな繋がり方をしてた。それでも生きてるんだから驚きだけど……僕でなきゃあ完璧には治せなかったと思うよ」

「どうやって治したんだ」

「腹かっさばいて内臓も切った。あとは、持ってる知識と能力を頼りに繋ぎ直したんだ」

 軽く言うな、大手術じゃないか。

「時間にして20時間は下らない。そんなわけだから……どう? 体調は」

 言われて初めて腹を摩る。

 コーヒーを飲んでみた。

 特に違和感はない。

「問題ない」

「そう。良かった」

 ドクトルがまた機械の箱に手を置いた。

「じゃ……次はこっちの説明を」

 急に肌がヒリついた。

 ドクトルの気配に刺々しいものが混じる。怒っているのか。だとしたらなぜ。


「僕のところに盗みに入った奴がいる」


「……盗むものあるのか?」

「酷い言い草だな! これでも僕は科学者なんだぜ?」

 格好つけて言われてもな。

 実際、僕はドクトルの研究成果というものを見たことがない。

 この部屋以外には風呂場しか入らないし、彼もそこ以外への移動を禁じているのだから、当然といえば当然だが。

 しかし、その苛立ちから察するに、相当大事なものを盗まれたらしい。

「何を盗まれたんだ」

「とある装置を二つ。簡単には持ち運べないものだよ」

 淡々と述べ、説明を続ける。

「もう長いこと使ってないから、管理が杜撰になってた僕にも責任はあるんだが……」

「大事なものじゃないのか!?」

「いや、大事は大事だよ」ドクトルが真剣な目で僕を見た。「つまりね? 僕は自分の成果品を、我が物顔で使われるのは我慢ならないってことなんだよ」

 我侭、と言いかけたが、正論は正論だ。

 盗まれたものがなんにせよ、勝手に使われるのが我慢ならないというのはよく分かる。

「それに……ちょっと変な話だけど、興味あるんだよね。あの装置をどうやって使うつもりなのか」

 言わんとすることが、なんとなく見えた。

「何にしてもだよ。使い方によってはかなり危険な装置だ。そこで二人に頼みたいことがある」

 珈琲を少しだけ口に含む。

「犯人を引っ捕らえてくれ。この際だ、生死問わずデッド・オア・アライブで行こう」

 珈琲とその依頼を同時に飲み込んで。

「早速」

「その前にもっかいシャワー浴びてこい」



 相当汗臭かったらしい。

 しかしこの後探し回るんだからどっちみち同じことだ。

 もう三度目か、ドアを開けて部屋に出る。

 ドクトルとユダが話していたらしい。

 ユダは分厚い書類の束を受け取り、それに鍵を置いた。

 立ち所に書類が消える。

 そんな使い方もできるのか。

「お、来たね」

「待たせたな」

「それほどでもないよ」

 ユダの方を見た。

「それじゃあユダ、手筈通りに頼むね」

「御意に」

 話していた内容は気になるが、後で聞けばいいだろう。

 鞘紐を締め直す。

 そういえば、明確な目的を持って方舟に出るのは初めてだ。

 どうやって歩けばいいのだろうか。

「犯人はおそらく方舟の深層にいる。スサノオはユダの後について行って。ユダはさっき教えたワードを頭の隅に常に置いておくように」

「かしこまりです」

「よーし。期待してるよ君たち!」

 深層ってなんだ。聞くよりも早く、ユダがドアノブに手を掛けていた。

 僕も慌ててその後につく。

 やはり、方舟に出る前というのは心が踊る。僕はどうやら、あの景色がすっかり気に入ったようだ。

 どこに向かうかなんて些細なことだ。

 僕はただ、僕のできることをやればいいのだから。

「それでは参りましょう。……ドクトル、手土産に期待してもらって構いません」

「さっさと行きな。お前は僕の作品なんだ、それくらいの働きはしてくれ」

 ユダのあとに続いて、僕は方舟に出た。

 目を閉じて、少し回るような感覚を待つ。

「……………………おかしい」

 が。

「何がです」

「回転するような感覚がない」

 目を開けると、そこは。

「……ここはどこなんだ」

 目覚める前の夢で見た場所。

 暗く長い廊下。やはり窓は無かった。

「おや、深層に出るのは初めてですか?」

 またその言葉か。

「深層というのはなんなんだ」

「方舟はいくつかの層に分かれているのですよ。ここは方舟の中でも深い部分。ですから便宜上『深層』と呼んでいるのです」

 なるほど。

 まだまだ知らないことが多いらしいな。

 となると、僕が今まで歩いてきたのは表層……ということになるのか。

「ドクトルの部屋は深層に位置します。一般に、層を移す時は酔いが出やすいと聞きましたね」

「…………あいつ、そんなことも教えてくれなかったのか」

 僕が何度も倒れたのはアイツのせいじゃないのか? 最初に説明してくれればいいものを。

「深層に一人で潜るのは危険を伴う、とも聞きました。具体的な内容は、話さず終いでしたが」

 今は二人だからいい、ということだろうか。相変わらずドクトルの考えは読めない。

「さて……では行きましょうか、しっかりと後ろに着いてきてください」

 ユダが徐にストレッチを始めた。

「そうそう。一つ言い忘れていたのですが」

 地面に手をつけスタートの体制に移る。

「今ここで魔力の使い方を覚えていただきますよ」

 言った瞬間、ユダが走り出す。

 なんのと僕も駆け出すが――

「速――」

 ――すぐさまユダの姿が豆粒ほどになった。

 グラリと揺れるような感覚。引き離されると知らない場所に飛ばされるのか。

 ということはつまり……ユダにはなんとしても追いつく必要がある。

 全力で走る。

 距離は縮まらない。

 魔力の使い方か。いいだろう。

 意識を足に集中させる。

 強化。

 速度を上げて、駆け出し――


「ああああああああああ痛い痛い痛い痛い!!」


 ――僕は比較的すごいスピードで転げ回った。

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